教員確保の“切り札” 「臨時免許」増加のワケは?

教員確保の“切り札” 「臨時免許」増加のワケは?
「少しでも経験がある人を見つけてくれたら…」
福岡県内の小学校で教員探しに奔走する校長先生が、実際に教育委員会からかけられたことばです。「見つけてくれたら…」には続きがあります。「“臨時免許”出すから」普通免許を持つ教員を確保できない場合に交付することができる「臨時免許」。教員確保の「切り札」が、いま増えています。(福岡放送局記者 福原健)

「臨時免許」が過去最多

教員の「臨時免許」ということばを聞いたことがありますか?

教員免許の一種で、「普通免許」を持つ教員を確保できない場合に、各都道府県の教育委員会が例外的に交付することができる免許です。

この臨時免許について、NHKが全国の都道府県教育委員会に速報値を取材したところ、昨年度(令和4年度)の交付件数は1万572件で、正確な記録が残る平成24年度以降、初めて1万件を超え、最も多くなったことが分かりました。
内訳を見ると、小学校が4866件、次いで高校が2504件、中学校が2172件などとなっていて、小学校が46%を占めています。

都道府県別では埼玉県が1073件で最も多く、次いで福岡県が904件、鹿児島県が704件などとなっています。

教員確保の「切り札」に

臨時免許の交付件数が過去最多で、全国でも2番目に多かった福岡県では、「臨時免許」が教員確保の「切り札」となっています。
教員の採用は、まず大学などで必要な科目を履修して取得する「普通免許」を持つ教員を採用し、各学校に配置します。

一方、なり手不足が深刻さを増している今、採用した普通免許を持つ正規や非正規の教員だけでは必要な数を確保できない状況となっています。

その時に切り札となるのが「臨時免許」です。例えば小学校の場合、中学校の普通免許を持つ人に対して小学校の「臨時免許」を交付することなどで欠員を埋めます。福岡県の交付件数は904件ですが、この半数以上を小学校が占めていて、その多くは中学校の免許を持っている人に交付したということです。

なぜ臨時免許の交付が増えているのか、福岡県教育委員会は次のことが背景にあるといいます。

臨時免許 増加の背景 1「なり手」

1つ目の背景が「なり手」の減少です。

福岡県の公立学校で勤める教員の年齢分布です。50代が最も多く、少なくともここ10年以上、定年による大量退職が続いています。
このため、県教育委員会は、「できるだけ採用しよう」と退職者数を上回る積極的な採用を行っています。

その一方で、教員に対する多忙で長時間労働のイメージや、そのわりに残業代はなく、一律月給の4%の上乗せしかないことなど待遇面の不安要素も相まって、そもそもの「なり手」が不足しています。

福岡県の公立学校の採用試験の受験者数を見ても、減少していることが分かります。
なり手がいない中、積極採用により、倍率は低下。令和3年度に実施された福岡県の小学校の採用試験の倍率は「1.3倍」で全国で最も低くなりました。

倍率が低いとなると、非正規の「講師」として働いていた人も正規の教員を目指すようになり、講師を志願する「採用試験に合格できなかった人」も当然少なくなります。

その結果、臨時免許の交付につながっているということです。

臨時免許 増加の背景 2「学級数」

さらに追い打ちをかけているのが、学級数の増加です。

福岡県内の公立小中学校の特別支援学級の数です。昨年度までの5年間でおよそ1000増えています。
これに加え、小学校では35人学級の実施も始まり、学級数はさらに増加しています。教員の定数という分母は増える一方、分子となる「なり手」は増えない状況です。

この状況を打開しようにも、特に小学校の普通免許を取得できる大学は限られていて、福岡県内では6大学となっています。

このため、卒業時に小学校の免許を持っている人は800人程度で推移し、これ以上の大きな増加は見込めないといいます。

県教育委員会では学生の枠を増やすことなどを国に求めていますが、少子化の今、実現は難しいのが実情です。
日高課長
「教育委員会としてもすき好んで臨時免許を出しているわけではない。教育活動を継続させるためには、やむをえない対応だと考えている」

「切り札」に現場の声は

普通免許を持った人がますます確保しづらくなる中、切り札として出される臨時免許。学校現場はどのように捉えているのか、聞いてみました。
県内小学校の男性校長
「実際、臨時免許の教員がいないと学校現場が回らない。(自分の)学校に来た人は情熱があって教える力もあったので非常に助かった」
このように、教員探しを行う学校長からは肯定的な意見が多く聞かれた一方で、一部の教員からは「フォローが必要なケースがあり、かえって業務負担が増加した」という話も聞かれました。
県内小学校の女性教員
「中学校の社会科の免許を持った人が臨時免許で来て、同じ学級を持ったことがあったが、テストを作るところからすべて一緒にやることになった。すべて教えるので結局2人分の業務をこなすことになった」
また、中学校では科目ごとの免許になるため、例えばAの科目の免許を持つ人が、専門性のないBの科目を臨時免許で教えるケースもあるといいます。
県内中学校の男性教員
「中学校になったら高校入試を見据えないといけないので、自分も勉強しながら子どもたちの成績も上げないといけない。そのプレッシャーに押しつぶされて病休に入ってしまった人もいた」

臨時免許を「活用」も

一方、臨時免許をうまく活用することで教員の門戸を広げる動きもあります。
東京のNPO法人「ティーチ・フォー・ジャパン」では、教員免許の有無にかかわらず、教員を志望する人を募り、必要な研修などを行ったうえで、臨時免許などを活用し、2年間学校に赴任してもらう取り組みを進めています。

赴任期間自体は2年間ですが、ほとんどの人がその後も教員など教育分野で働き続けるということです。ことし4月時点で250人余りが学校に赴任しました。
ティーチフォージャパン 金澤克宏さん
「赴任前にしっかりと養成を行った上で学校現場に赴任してもらっている中で、臨時免許などの制度は有効に活用させてもらっている。結果的に教員不足の解消や子どもたちのよりよい教育につながっていくと感じている」

「免許外制度」を縮小→臨免に

また中学校や高校などでは、必要な教員を確保できない場合、これまでは1年間に限って同じ学校に勤める教員に、別の科目を教えることを認める「免許外教科担任制度」という制度が活用されてきました。

しかし、同じ学校というだけで免許を持たずに授業を行うことなどが問題だとして、文部科学省は平成30年から制度の縮小を進めています。

それに伴い、授業を行うことに対する免許となる「臨時免許」が積極的に交付され、増加の背景の1つになっているものとみられます。

文部科学省の担当者は「都道府県ごとに事情が大きく異なるので一概には言えないが、福岡県など件数が特に多い地域については注視する必要がある」としています。

「簡単に出る」臨時免許には懸念も

「少しでも経験がある人を見つけてくれたら、臨時免許出すから」

福岡県内の小学校で校長を務める男性が、教育委員会から言われたということばです。

この校長は福岡県の交付件数が多いことに「驚かない」と言います。
県内小学校の男性校長
「今は人物証明書などの紙を出せばすぐ臨時免許が出るので、件数が多いのも納得できる」
文部科学省は去年4月、臨時免許を交付する際には「一般的に教職に関する知識・技能に通じていないことが想定されることから、採用前後に必要な研修を実施する」ことを求めています。

一方、「とにかく人さえ見つかれば」という現場もあります。

臨時免許「頼み」とも捉えられかねない状況については、専門家も懸念を示しています。
元兼教授
「臨時免許状はまさに校種外や科目外の人に対して免許を与えるということで、一定の教職に対する理解や知識はあると思うが、専門性ということに関しては心配な面がある。もし自分の手術を担当する医者が臨時の免許だったらどう思うか。免許というのはそれぐらい責任を伴うもので、急場をしのぐために臨時免許を出すという構造は懸念すべきだ」

地方の取り組みだけでは限界も

福岡県教育委員会の関係者は「今の状態が適切だとは思っていないというのは分かってほしい」と話していました。

県教育委員会では普通免許を持っているだけの「ペーパーティーチャー」へのセミナーや、大学を訪問して教職の魅力を伝えるイベントを行うなど、教員のなり手確保に動いています。

しかし、地方の取り組みだけでは限界があり、待遇の改善など国レベルでの取り組みが求められていると思います。

今月22日に開かれた中教審=中央教育審議会の総会では、永岡文部科学大臣が、残業代の代わりに支給している教員の月給への上乗せ分を現在の4%から引き上げるかどうかなど、待遇改善を含め教員不足の解消に向けた方策の検討を諮問しました。

現場の教員や子どもたちの教育にしわ寄せが行かないよう、国と地方が一体となって取り組む必要があると思います。
福岡放送局記者
福原健
平成30年入局
県政担当で教育分野を取材