自動運転「レベル4」福井で全国初 運行開始 過疎化の救世主?

特定の条件のもとで完全な自動運転を行う「レベル4」の車両の運行が、福井県永平寺町の公道で始まりました。4月に解禁された「レベル4」の運行が始まったのは、全国で初めてです。

「レベル4」は、ルートや速度など一定の条件のもとでドライバーが不要となる完全な自動運転で、改正道路交通法の施行に伴って4月1日から解禁されました。

福井県永平寺町の第3セクターは、町道の一部の区間で緊急時には人間が操作する「レベル3」の車両を運行してきましたが、区間をさらに限定し、時速12キロ以内で運行するといった条件のもとで国から「レベル4」の認可を取得しました。

全国で初めてとなる「レベル4」の運行が21日から始まりました。
式典のあと、地元の住民たちも「レベル4」の車両3台に分かれて乗車し、ドライバーのいない完全な自動運転でおよそ2キロの区間を10分ほどかけて移動しました。

特にトラブルはなかったということです。

停留所の近くに住む60代の男性は、「『レベル3』の車両にも乗ったことがありますが、それよりもスムーズな走行で良い乗り心地でした。観光客が利用することで地域の活性化につながってほしい」と話していました。

また、別の60代の男性は、「高齢化が進む地域なので運転免許証を返納する人も増えています。今後はスーパーや病院などにも行けるような住民の日常の足になることを期待したいです」と話していました。

この車両が運行されるのは土曜日と日曜日、祝日の午前10時から午後3時までで、5月27日は休止しますが、5月28日から通常の運行を始めるということです。
政府は2025年度をめどに全国50か所ほどで自動運転の運行を始める方針を示していて、式典に参加した西村大臣は「地域の特性に応じた技術を開発し、少子高齢化や過疎化といった課題を解決する技術を提供していきたい」と述べました。

「レベル4」の車両とは

「レベル4」の自動運転に使われるのは、「ZEN drive Pilot Level4」と呼ばれる専用の車両です。

大手バイクメーカーが生産する電動ゴルフカートをベースに、国の産業技術総合研究所や大手電機メーカーなどが共同で開発した車両で、定員は7人です。

完全に自動で運行する条件としてルートは福井県永平寺町にある鉄道の廃線跡に整備された歩行者と自転車の専用道路の一部、およそ2キロの区間に限定されています。

また、速度は最大で時速12キロとされ、事業者は1人で最大で3台の運行を管理することができます。

加速や減速、ハンドル操作などは車に搭載した専用のシステムがすべてを担います。
車両の前方には一般の車にも使われているセンサーやレーダーを設置したほか、車両の前後左右に複数のカメラを取り付け、道路の状況や障害物を確認します。

「レベル3」で運行していた時よりもカメラを増やし、車内や車両の真下にも設置することで自動運転のシステムが異常の有無を適切に判断できるようにしたということです。

また、「レベル4」では、車両を離れた場所から監視する施設との間で常時、通信回線をつないでおく必要があるため、携帯電話会社3社の回線を束ねて使用し、1社の回線が使えなくなっても代替できるようにしました。
産業技術総合研究所の加藤晋首席研究員は、「『レベル3』の場合は、何かあった場合は人間が運転を代わるので緊張を強いられたが、技術レベルが格段に上がり、そういった負担がなくなった。今後、全国の各地へ導入を進められる水準になったと思う」と話していました。

緊急事態への対応は

「レベル4」では運転が完全に自動化されますが、事故などの緊急事態に備えて事業者が運行状況を監視する必要があります。

福井県永平寺町で始まった「レベル4」の自動運転では、町などが出資する第3セクターの「ZENコネクト」が運行を管理します。

自動運転を行う道路のそばにある建物に「遠隔監視室」を設け、車両から送られてきたカメラの映像を担当者が大型のモニターで確認しています。

これまでは「レベル3」で運行していましたが、その時は、何かと衝突するなど緊急事態が起きた場合は運転が切り替わり、担当者が遠隔操作する仕組みでした。

「レベル4」では緊急事態が起きると自動的に運転を停止する仕組みになっていて、その後は監視室にいる担当者が対応にあたります。
監視室ではアラームが鳴って異常を知らせ、担当者はカメラの映像を通じて車内の状況を確認したり、車両に取り付けてあるマイクやスピーカーで乗客への聞き取りを行ったりするということです。

また、監視室には常に担当者を2人配置することにしていて、自動運転を再開できない場合は1人が現場へ向かい、状況を確認することにしています。

人口減少の地域で活用が期待 茨城県境町は

茨城県境町が導入する計画の「レベル4」の車両
特定の条件のもと、ドライバーが不要な完全自動運転となる「レベル4」。人口減少が進む地域では公共交通機関としての活用が期待されています。

このうち、茨城県境町は「レベル4」に対応する新型の車両を公道を走る路線バスに導入する計画で、先週、遠隔監視システムなどを提供する企業と覚え書きを交わすとともに、試乗会が行われました。
この車両は、8人乗りの小型のバスで、ハンドルとアクセルがなく、最高速度は時速20キロ、100メートル先を検知できる7つのセンサーと、8つのカメラで周囲の状況を確認し、自動運転を行います。

試乗した60代の女性は、「広々とした車内で、曲がったり止まったりする時もスムーズで安心して乗れました」と話していました。

2年半ほど前から「レベル2」で路線バス運行

「レベル2」の路線バス
境町では、公共交通が脆弱で高齢者が免許を返納しにくい状況があり、2年半ほど前から部分的な自動運転「レベル2」で走行する路線バスの運行サービスを行ってきました。

レベル2では、運転手が乗車して監視しながら走行し、障害物などで設定したルートから外れる場合は操作が必要です。

まずは、病院やスーパー、町役場など町の中心部を走る往復5キロの区間で運行を始めましたが、この間、バス停を17か所まで増やし往復8キロから9キロ余りの2つのルートで運行されるまでになりました。

住民の理解がカギ

公道を走る公共交通として安全な運行のカギとなったのは住民の理解だといいます。

自動運転バスは、20キロの低速で、障害物を検知すると停車するなど渋滞の懸念もありましたが、町ではバス停や待避スペースで追い抜きができるよう沿線の店などに敷地を借りたほか、バスの動線に路上駐車をしないよう啓発して理解を求めてきました。

週2回利用する83歳の男性は「最初は大丈夫かなと思いましたが、いまはもう心配はないです。免許返納した方が病院とかカフェとか自動運転バスで出かけますし、私も老人会で利用します。少しゆっくりですが、やはり安全が大事です」と話していました。

この2年半ほどで、自動運転中の事故はないということで、のべ1万7千人あまりが利用しています。

今後は新車両を秋ごろから「レベル2」の運転で公道を走らせ、将来的に「レベル4」に移行していきたいとしています。
境町の橋本正裕町長は「町には駅がなく、高齢化で免許返納したくても、返納できない町だった。自動運転車による事故よりも住み続けられるかという不安の方が大きかった。『レベル4』の運行をこの町でやることで、横展開で全国に広がっていくことを非常に期待している」と話していました。

”地方が元気になるというインパクトは大きい”

自動運転に詳しい自動車ジャーナリストの清水和夫さんは「レベル4」での運行が始まったことについて、「移動手段がないことで過疎化している地方もあるが、移動手段があれば若い世代が地方で暮らしてオンラインで仕事をすることもできる。そういう意味で地方が元気になるというインパクトは大きい」と話しています。

その上で、今後の普及に向けた課題として、「違法駐車とか歩行者がスマホを見ながら車道に入ってくるとか、無謀な自転車が走っているところでは自動運転では走れない。大事なことは自動運転車が社会に出たときに世の中の人たちがどう受け入れていくかで、その社会的受容性について、もっと市民や実証実験している町と一緒に議論していく必要がある」と指摘しています。