年収5000万円！ ChatGPT操る「プロンプトエンジニア」って？5月18日 15時27分

世界中で利用が広がる対話式AIの「ChatGPT」や、文章で指示を出すだけでオリジナルの画像を瞬時に作成してくれる画像生成AI。

試しに使ってみたものの「何だかうまくいかず欲しい答えが返ってこない」「想像していたのとは違う画像ができあがった」と思ったことないでしょうか。

欲しい答えや画像を得るために重要になってくるのが、英語で「プロンプト（prompt）」と呼ばれるAIに対して指示する質問内容。利用者が求めている回答をAIから引き出せるかは、この質問次第とも言われています。

このプロンプトを操る「プロンプトエンジニア」という職業が注目されていると聞き、テキサス州に住むエンジニアの1人、ランス・ヤンクさんを訪ねました。

ヤンクさんはもともとは、インターネット通販関連の仕事をしていましたが、2022年11月にChatGPTを初めて使い、その能力の高さに衝撃を受けたといいます。

この技術を使いこなせれば、ビジネスになると考えて仕事を辞め、23歳という若さでプロンプトエンジニアに転身。日々、どうすれば欲しい答えを得られるプロンプトを生み出せるのか、研究に没頭しています。

エンジニアと言っても、プログラミングのコードを書く必要はありません。

生成AIで使うのは英語だけです。こうした新職種、アメリカでは“AI魔術師”とも呼ばれています。

ヤンクさんが良いプロンプトを生み出すコツとして挙げたポイントは5つ、それぞれのポイントの頭文字をとって“RELIC”（レリック）が大事と教えてくれました。

「プロンプトのコツ“RELIC”」
1「Role」 AIに役職を与えること
2「Exclusion」 含んで欲しくない情報をあらかじめ伝えること
3「Length」 何文字以内で回答して欲しいか長さを設定すること
4「Inspiration」 URLなどを入力してAIに実例を示すこと
5「Context」 質問の意図や背景を明確にすること

これらのポイントを踏まえ、例えば、登山用バッグを販売するためのキャッチコピーをAIに作成させる場合に、ヤンクさんが見せてくれたプロンプトの一例がこちら。

『ロッククライマーをターゲットにしたアウトドアブランドの商品説明を担当するMBA（経営学修士）を取得したコピーライターになりきってください。次の3つのURLの情報を学習し、ブランドの特徴を学んでください。それが終わったら、このリンクにある商品（登山用バッグ）の説明を作成してください。200文字から400文字で、ブランドの歴史などは除き、この商品に特化して書いてください』

私は、これまでAIに友達と会話するように質問していましたが、ここまで詳細に指示を出すのかと目からうろこでした。

そうして、できあがった回答は…

『高度なアウトドアロッククライマー、体操選手、重量挙げ選手向けに設計されたバッグで、パフォーマンスを向上させ、クライミングを新たな高みへと引き上げましょう。この商品は、困難なルートを登り切る場合でも、限界に挑戦する場合でも、トレーニングのゲームチェンジャーとなります』

商品を購入してもらいたい顧客層を絞った具体的な商品説明が一瞬で完成しました。

ランス・ヤンクさん
「対話式AIではプロンプトがすべてなんです。うまく使えば、広告文の作成やマーケティングなどビジネスのあらゆる分野で効率化を進めることができます。ChatGPTはものすごい力を持っていますが、その力は正しく使われた時にだけ発揮されるので、プロンプトエンジニアが必要なんです」

こうしたプロンプトエンジニアの求人をインターネットで検索すると、すぐに100件以上がヒットします。

条件はさまざまで、AIに詳しい人材や過去のAI業界での経験を必須とするものも当然ありますが、過去の経験は一切問わないというものもあります。

驚くのがオファーされている年収です。低いものでも18万ドル程度（約2500万円）、高いものでは37万5000ドル（約5000万円）という求人もあります。

最近では、一見するとテック分野に関係ない業種でも、プロンプトエンジニアを雇おうという動きが出ています。

ボストンの子どもの治療を行う病院もその1つです。

例えば、病院に導入する新しい機器について患者にアンケートを行う場合に最適な質問項目をAIで作成したり、利用者が治療方法を検索しやすいようシステムの改善などに活用したりすることを検討しています。

ベンジャミン・レーダーさん
「患者のケアは単に医師が行うものではないと考えています。患者のケアが良いものであるよう努力することはとても重要で、プロンプトエンジニアの能力が患者の手助けのために役立つと思います」

プロンプト関連の需要は人材だけにとどまりません。

最近では「こうやって質問すると良い答えが返ってきますよ」という優れたプロンプトを売買できるサイトも登場し、アメリカなどで人気になっています。

1件当たり2ドルから5ドル程度を支払えば、プロンプトを思いつかない素人でも欲しい答えを簡単に得ることができます。

試しに私が購入した歌詞を作れるプロンプトでは、ポップがいいのか、ロックにしたいかなど音楽の種類のほか、サビの場所など曲の構成を指定できるようになっていて、タイトルにはロサンゼルスを意味する「シティー・オブ・エンジェル」という単語を入れてみました。

すると、ロサンゼルスの有名な通りの名前やビーチの情景などが含まれる歌が瞬く間に完成しました。

さらに、画像生成AI用のプロンプトを選べるサイトもあります。

ギャングのような容姿の動物のイラストの作成が可能で、「油絵のような質感で」「8Kのような画質で」とでき栄えを詳細に指示できるようになっており、実際に入力すると、帽子をかぶり革ジャンを着たパンダや、葉巻をくわえタトゥーを入れたハスキー犬などの画像が生成されました。

正直、自分1人ではここまでの精度のものはなかなかできません。このサイトは、2022年12月の1か月だけで1万1000人以上が利用したとされています。

とはいえ、やはり自分自身でプロンプトエンジニアのようなスキルを身につけたいという人も増えているようです。

冒頭に紹介したプロンプトエンジニアのヤンクさんは、優れたプロンプトの作成のしかたを習得したいという世界中の人たちに、そのノウハウを伝授するオンライン講座を開いています。

2022年12月から5か月ほどで、約2万6000人が受講し、この講座の受講料だけで830万円ほどの収入を得たといいます。

このほか、大手企業などからビジネスに役立つ利用方法を教えて欲しいという依頼も舞い込んでいるといいます。

ランス・ヤンクさん
「プロンプトエンジニアに必要なのは、対話式AIへの情熱と、うまく使いこなせるという自信それだけです。新しい技術のため、まだ世界中の誰1人としてこれを1年間使ったという人はいません。やる気と興味がある人にとっては、このすばらしいテクノロジーの最前線に立てるチャンスなのです」

需要が確実に伸びているプロンプトエンジニアですが、AIに詳しい専門家は、そのスキルにはまだばらつきがあり、企業などが採用するにあたっては注意も必要だと指摘しています。

ハティム・ラマーン助教
「ビジネスの場で生成AIを活用しようとしている企業は、正確で信頼性の高い結果をAIに生み出して欲しいと考えているため、プロンプトエンジニアが必要になっているわけです。ただ、この仕事は新しいので、プロンプトエンジニアとしての技能を明確に判断する基準がありません。AIを利用する本人が回答が正確かチェックし、AIが有用な方法で使われるようにすることが非常に重要です」

アメリカのデータ分析調査会社「ピッチブック」の見通しによると、生成AIの市場は、2023年に426億ドル（約5兆8000億円）に到達するとされ、さらに3年後の2026年までには981億ドル（約13兆3400億円）と2倍以上に膨らむと予想されています。

技術の進化はとどまるところを知らず、どんどん新しく、さらに便利になっていくため、その使い方を指南してくれるプロンプトエンジニアのような職業はますます重宝されていくと想像できます。

前出のヤンクさんは、プロンプトエンジニアの仕事の今後を、SNS戦略の担当者に例えました。

ツイッターやフェイスブックなどが登場した2000年代の時点では、単なる流行とされていたSNS戦略は、今や、企業のデジタルマーケティングには欠かせない仕事となっている、これと同じことがプロンプトエンジニアにも言えるのではないかという指摘です。

5年後、10年後の未来に、この仕事はどんな変化を遂げているのか。その進化を見守っていきたいと思います。

ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属