5類移行後の働き方 リモート浸透の一方で出社に回帰する企業も

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行されるのにあわせて、全国の企業に働き方の変化を尋ねたところ、リモートワークなどで「コロナ前と異なる」と答えた企業が4割近くにのぼった一方で、「コロナ前と同じ」と答えた企業もおよそ4割とほぼ同じ程度になったことがわかりました。調査会社は「中小企業や現場で人が関わる業種ではオンラインが難しく、コロナ前に回帰する動きが見られる」と分析しています。

民間の信用調査会社帝国データバンクはことし3月、全国の企業を対象に新型コロナが「5類」に移行したあとの働き方について調査を行い、1万1428社から回答を得ました。

それによりますとリモートワークの実施や業態の変化などで働き方が「コロナ前と半分以上異なる」と答えた企業は15.5%、「2割程度異なる」は22.5%でコロナによって働き方が変化した企業は38%となりました。

一方で「コロナ前と同じ状態」と答えた企業は39.1%で、コロナによって働き方が変わらなかったり出社を促されるなど以前の状態に戻ったりした企業も少なくないことがわかりました。

業界別にみると「コロナ前と同じ」としたのは多い順に農林水産業、建設業、不動産業、金融業、製造業などとなっていて、サービス業が最も少なくなっています。

企業の規模でみると従業員数が1000人を超える企業では「コロナ前と異なる」が52.9%にのぼった一方で、6人から20人の企業は34.4%などと従業員数が少なくなればなるほど働き方の変化も少なくなっています。

帝国データバンクの藤井俊情報統括部長は「資金や人員面で比較的余裕のある大企業やリモート環境との親和性が高い情報サービス業では働き方が変わった企業が多かった一方、1人で何役も担う中小企業や現場で人が関わる業種ではオンライン環境の導入や維持が難しい面もあり、コロナ前に回帰する動きが見られる」と分析しています。

リモートワークを続ける企業は

新型コロナウイルスの感染拡大後、多くの企業に浸透したのがリモートワークなど出社しない働き方です。

IT企業で社員およそ1200人のディー・エヌ・エーは、新型コロナを機にリモートワークを本格的に導入し緊急事態宣言の時期は最大で社員の99%がリモートで働いていたということです。

「5類」移行後の現在はリモートワークと出社を社員が自由に選べる働き方になっていて、いまも平均して7、8割の社員がリモートワークを続けています。

中には自宅で子どもの世話をしながら仕事をする社員もいて、先週リモートで勤務していた40代の男性社員は「プライベートも仕事も充実させられるのでこの働き方を継続したいです。原則出社と言われるとつらいなと思います」と話していました。
会社ではリモートワークを前提におととし本社を移転し、およそ3000あった席数をおよそ5分の1の700弱に減らして、オフィスの規模を大幅に縮小しました。

さらにIT人材の確保が難しくなる中でリモートワークは勤務場所にとらわれずに全国から優秀な人材を採用できることにもつながると期待しています。
ディー・エヌ・エーの清水琢也総務部長は「仕事のスタイルに合わせて出社かリモートワークかを選べたほうが、会社としても社員にとってもよいのではないかとハイブリッドワークを決めました。リモートワークでも業績が伸びた事業もありますし、全国での人材の採用にもつながっています。この働き方が今後、会社のよい文化や働き方になっていくと思っています」と話していました。

製造業には出社せざるをえない事情が

5類移行後の働き方についておよそ4割が「コロナ前と同じ」と答えた製造業では、出社せざるをえない事情があるといいます。

東京 大田区にある社員12人のプリンター販売と部品製造を行う会社は受注先からの依頼を受けて3Dプリンターで歯形やロボットの部品などを製造しています。
この会社では新型コロナの感染対策として自宅から3Dプリンターを遠隔操作できる技術を独自に開発して2年前から在宅勤務を進め、多いときには社員の半数がリモートワークをする時期もありました。

しかし、できあがった製品が受注先の要望通りに仕上がっているか寸法や質感を確かめるため、結局、多くの社員が出社することを余儀なくされ、去年6月からは原則出社での勤務に戻しました。
プリンター販売と部品製造会社、グーテンベルクの鈴木亮介取締役は「リモートで形ができているのは確認できますが、これを検査したり手に取ってはめ合ったりしないとそれが果たしていいものか悪いものなのか判別できません。やっぱり限界がありました。このままだとモノづくりができないと思い再び出社に戻したところ完成スピードは4倍ぐらい早くなりました。やはり、物と人が顔を突き合わせることが品質に深く関わっていることを再認識しました」と話していました。

あえて原則出社に戻した企業も

5割近くが働き方が「コロナ前と異なる」と答えた情報サービス業のなかでもあえて原則出社に戻したという企業もあります。

IT企業で社員およそ1100人のGMOインターネットグループは感染が拡大した当初、リモートワークを推奨し、多い時には社員のおよそ8割が在宅勤務を行っていました。

しかし、社員間のコミュニケーションが不足することで業務のスピード感が下がったり新入社員の教育が円滑に進まなかったりしたことなどからコロナの収束を見据えてことし2月から原則出社での勤務に戻しました。
現在はほとんどの社員が出社していて、管理部門では月に1回、社員全員が1つの部屋に集まって会議を開き、業務の報告や新入社員の紹介などを行っています。

先月には新入社員が全員出席した入社式で歓談の時間が設けられ、役員と新入社員58人が直接、交流したということです。

3年前に入社した男性社員は「社会人として経験がなかった分、リモートワークでは何かトラブルが起きたときに1人でどうしようもできないという不安がものすごくありました。しゃべったことがあるのとないのは全然違うのでそこが出社のメリットだと思います」と話していました。
GMOインターネットグループ広報チームの新野貴史マネージャーは「直接、顔と顔合わせてコミュニケーションをとっていくのは、非常にスピード感が早くなるので原則出社という形にしました。出社すれば業務の話や相談、ちょっとした雑談などコミュニケーションの質が上がってくると思うので、それでモチベーションやパフォーマンスを上げて業務に生かしてもらえればいい」と話していました。

専門家「リモートと対面のバランスが大事」

労働政策に詳しい大正大学の塚崎裕子教授は企業が原則出社に戻す理由について「リモートワークでは勤務状況を管理するのが難しいことやコミュニケーションが不足がちになってしまい、社内での人的ネットワークの形成や人材育成が難しかったりするなどの課題がある」と指摘しました。

その上で「働き手の側はコロナ禍でリモートワークが身近になり、柔軟な働き方を求める人が増えてきている。企業は今後、リモートと対面のバランスを考えていくことが大事だ。社員一人一人のキャリアの具合によって変えていく柔軟性があってもいい。例えば入社してすぐは一定期間、出社して人的ネットワークなどを作り教育をしっかり受け、その後、リモートと出社のハイブリッドにしていくといった具合に取り入れるなど柔軟性が求められている」と話していました。