東証上場企業の決算発表ピーク 半数以上が増益も明暗分かれる

東京証券取引所に上場する企業の昨年度の決算発表が12日、ピークを迎えました。これまでに通期の決算を発表した企業の半数以上が増益となっていますが、原材料価格の上昇などの影響で減益となるところもあり、明暗が分かれています。

東京証券取引所では、12日の一日で800社以上が昨年度の業績を開示します。

SMBC日興証券が、旧東証1部上場企業を中心に11日までに発表をすませた全体の52%にあたる754社の決算を分析したところ、最終利益は57%にあたる432社が増益となりました。

背景には、コロナ禍からの経済活動の正常化で「空運」や「陸運」などの業種の業績が改善したほか、資源価格の高騰や円安の効果などで「商社」などの業績が押し上げられたことがあります。

一方、最終利益が減益となったのは全体の34%にあたる263社でした。

また、最終赤字に陥った企業は56社でした。

原材料価格の上昇分を十分に価格転嫁できなかったなどとして「電力」や「化学」などの業種で業績が落ち込むところが見られます。

また、海外経済の減速への懸念が高まる中、今年度、最終利益が減益となるとの見通しを発表した企業は、全体の57%にあたる437社と、先行きに対する慎重な見方が強まっています。

最終利益が過去最高となった企業も

昨年度の決算を発表した企業の中には、最終利益が過去最高となったところも見られます。

このうち大手商社の昨年度1年間の決算は、三菱商事と三井物産の最終利益が1兆円を超えるなど、資源価格の上昇や円安によって過去最高の業績が相次ぎました。

また、海運大手の日本郵船と商船三井、それに川崎汽船の昨年度1年間の決算は、コンテナ船の需要が増え、運賃が高止まりしたことなどから、最終利益はいずれも過去最高となりました。

さらに、大手航空会社のANAホールディングスと日本航空の昨年度1年間の決算は、最終利益がいずれも3年ぶりの黒字となったほか、JR東日本やJR東海の最終利益が3年ぶりに黒字となるなど、「空運」や「陸運」の業種で業績が回復する企業が相次ぎました。

一方、電力大手10社の昨年度1年間の決算は、燃料費の高騰などにより、10社のうち8社で最終赤字となりました。

また、家具日用品大手のニトリホールディングスは、円安や物流費の上昇で輸入コストが増えたことで、最終利益が24年ぶりに減少しました。

昨年度の決算の特徴や今年度の見通しは?

昨年度の企業の業績や今年度の見通しについてSMBC日興証券の安田光チーフ株式ストラテジストに聞きました。

Q.決算発表がピークを迎えたが、昨年度の決算の特徴は。
A.製造業と比べ、非製造業の増益の基調が続いている。
中でも「陸運」や商社を中心とした「卸売り」、それに「空運」や「海運」が全体をけん引している。
為替の円安と原材料価格の高騰は企業にとってプラス、マイナス両面の影響を与えている。
「陸運」や「空運」は、コロナ禍から経済が再開した恩恵が大きく出ていると思う。
商社を中心とした「卸売り」は資源価格の高騰の影響が昨年度を通してプラスに効いていた。

Q.逆に減益が目立った業種は。
A.減益が目立つのは「電力」や「ガス」。
原油価格の高騰に伴ってコストが増えた影響が如実にあらわれていると判断できる。
また、「輸送用機器」についても通常は円安のメリットがみられるが、資材価格や輸送費の高騰といった円安のデメリットも同時に起きていたと思う。
「自動車」は、半導体不足が解消に向かったが完全に回復しなかったためマイナスの影響も出ていた。

Q.今年度は57%の企業が減益見通しだが。
A.このタイミングでは企業の見通しが保守的に出やすい傾向があり、例年通りの状況だ。
まだ決算発表を控えている企業はあるが、全体では今年度も最終的な利益額は増加すると予想している。

Q.今年度はどういう業種が増益となると予想しているか。
A.「電力」や「ガス」が増益の見通しだ。
昨年度に大幅な減益の要因だった資源価格の高騰が落ち着き、値上げの効果が徐々に浸透していくと思う。
経済の本格的な正常化で「陸運」や「空運」も引き続き増益が見込まれる。
「自動車」も、半導体不足の解消などによって徐々に生産が再開する見通しだ。

Q.逆にどういう業種で減益となりそうか。
A.マイナスの影響が出そうなのは「海運」や商社を中心とした「卸売り」などの業種になるのではないか。
昨年度までは船舶の輸送運賃がすごく上がっていたので今後はその反動減が出てくるだろう。
商社を中心とした「卸売り」も、資源価格の高騰が一服していることから、今年度は減益の見通しとなっている。
また、現時点での会社の想定レートは1ドル=130円ほどで実際のレートと比べまだかい離がある状態だ。
今の水準であれば業績の押し上げ要因にもなると思うが今後、仮に円高が進行するとなると、製造業の業績にとってマイナスのリスクはある。

Q.減益となる企業が増えると賃上げが続かなくなるのではないか。
A.会社によるが、基本的には春闘で強い回答が出ていたように、トレンドとして賃金は上昇する方向だと思う。
会社の通期の見通しでは最終的な利益の総額は増える見込みで、今の予想であれば賃上げの余力は残っていると思う。
ただ、今後は賃上げを続けることができなくなるところも出てくると思う。
今後優秀な人材の確保ができる会社とできない会社が分かれていくのではないか。

Q.企業業績の今後のポイントは。
A.まずはアメリカの景気だ。
基本的にはインフレが沈静化していくという見方の中で消費の過熱なども収まっていく方向にあると思う。
アメリカはどちらかというと成長率が高まるよりは緩やかに減速をしていく方向だと思っているので、そのスピード感には注意が必要だ。
一方で、中国では経済の再開が進んでいるので世界景気を引っ張っていけるほど成長率が維持されるかどうかもポイントになると思う。