1人、また1人といなくなる…高齢者までも減りゆく町で

1人、また1人といなくなる…高齢者までも減りゆく町で
仲よく並んで椅子に座る、女の子たち。

18年前、人口1万人あまりの町で撮られた写真です。

今、人口は当時の3分の2にまで減り、この椅子に座る人の姿も見られなくなりました。

高齢化もいちだんと進み、「2人に1人」が高齢者に。

しかしこの数年、その高齢者までも減り始めているというのです。

(社会部記者 大西咲)

「あまりおいでないです」

写真が撮影されたのは石川県の能登半島中央部にある穴水町で、町の商店街にある小さな衣料品店の前でした。
「最近はあまりおいでない(いらっしゃらない)ですね」

そう話すのは店主の小林英夫さん(57)です。妻の由紀子(52)さんと夫婦で店を切り盛りしています。
記事冒頭の写真は、県庁所在地の金沢市で働いていた小林夫妻が故郷にUターンして親から店を継いだころのもので、写っていたのはめいっ子たちでした。

腰かけていたのは、丸い1人座りの椅子です。店の目の前にあるバス停で待つ人たちにと、店が用意したものでした。
バスを待つ人、散歩する人、誰かが座って話をしていて、ちょっとした集いの場のようになっていました。
18年後の今は長いベンチに変わっていますが、バスに乗る人が減ったこともあり、座る人はあまり見なくなったということです。
小林英夫さん
「私たちが帰る以前は、イベントやお祭りごとがあると、店の前なんて肩がぶつかり合うぐらい人がいたと聞いています。最近はここから乗る人も少ないし、減っているのは感じます」

突然パタリと…

英夫さんはこの数年、気になっていることがあります。

よく店に来ていたお客さんが、ある日突然、パタリと来なくなるのです。
最近、顔見ないな、元気だろうか。

心配してほかの客と話すと、
「病気で入院したみたい」
「転倒して歩けなくなって施設に入った」

そんな話をよく聞くようになりました。

実際、去年からことしにかけての冬だけでも、店の常連客のうち、転倒してけがや骨折をして姿を見なくなった人が3人ほどいました。

1人1人が心配

客の大半は高齢者です。
英夫さんはふだん来るお客さんでも、機会あるごとに「気をつけてね」と声かけをしています。

近くの病院で薬の処方を待つ間に来てくれるお客さんもいて、「じゃあ車で病院まで送ろうか」と声をかけることもあります。

「いいよ、歩かないと足も弱くなるから」

それでも、乗せて行ってあげると嬉しそうに「助かったわ」と笑顔を返してくれるということです。
小林英夫さん
「本当に1人1人の体が心配です」
年ごとに動きが悪くなったり、杖をつくようになったりといったお客さんたちの変化を見ながら、大丈夫かな、きょうは元気かな、といつも気にしています。

人口減少が「第3段階」に

高齢者が1人、また1人と住み慣れた場所を離れ、若者ばかりでなく高齢者の人口までも減っていく。

こうした状況は、人口減少が最も進んだ段階にある地域のひとつだということを示しています。

内閣官房によりますと、人口減少には次の3つの段階があるということです。
(1)第1段階(若年人口減少・高齢者人口は増加)
(2)第2段階(若年人口減少・高齢者人口は維持から微減へ転ずる)
(3)第3段階(若年人口減少・高齢者人口も減少していく)
「人口減少が進み…」とニュースで聞いて、まず頭に浮かぶのは15歳未満の若年人口が減る「少子化」が進み、65歳以上の高齢者人口が増え「高齢化」も進む、(1)の「第1段階」だという方が多いかもしれません。

大都市部や地方の中核市などでは、そうした地域が多くなっています。

ところが地方の中にはすでに(2)「第2段階」や(3)「第3段階」に入っている自治体もあります。

人口7473人(ことし5月1日時点)の穴水町も、町の人口は過去10年間で20%ほどにあたる約2000人減少し、7年前の2016年からは65歳以上の高齢者人口の減少が始まりました。
人口が減る要因には、「転出」する人の数が「転入」する人を上回ることによる「社会減」と、死亡する人の数が生まれる赤ちゃんの数を上回ることによる「自然減」がありますが、町によりますと、減少分の多くは「自然減」によるものだということです。

すでに4割近くの自治体が

さらに、全国に目を向けると、同じような地域が増えていることがわかります。

住民基本台帳のデータを元に、去年、2022年までの5年間に75歳以上の「後期高齢者」の人口が「増加」した自治体を「赤」、「変化なし」は「白」、そして「減少」した自治体を「青」で示したのが下の地図です。
地図の「青」の部分、減少した自治体は672と全体の4割近くを占めているのがわかります。

地域別では、北海道や東北、北陸、山陰、四国、九州などの山間部を中心に広がっています。

一方、今後はどうなるのか、国が発表した将来の推計値も見てみます。

国の「将来推計人口」(2017年発表)の推計データで、2040年までの5年間の、後期高齢者人口が減少する自治体を示した地図です。
「青」の部分は全体に広がりました。

減少する自治体数の1371は、全国の自治体(推計値が無い福島県内の自治体を除いた1682自治体)のうち8割以上にあたり、東京などの大都市や県庁所在地など地方の都市部を除くほとんどの自治体で減少しています。

店の売り上げも… それでも大切にしてきたこと

小林夫妻が衣料品店を営む穴水町では、人口の約半分を占める高齢者まで減りゆくことで、地域経済にも影響が出ています。

店の売り上げも年々減り、ピークだった15年前のほぼ半分に落ち込みました。
店は妻の由紀子さんの曽祖父が明治23年に呉服店として創業して以来、「明治」から「令和」まで、町の変化を見つめ続けてきました。

新型コロナの影響もあり、経営は年々苦しくなっています。

それでも長く地元に根づいて寄り添ってきたからこその強みをいかして130年以上、店を続けてきました。
由紀子さん
「うちの店は創業以来、物の売り買いだけをやってきたわけじゃありませんでした。町の人との会話があって、友達というか家族みたいな関係があって。その関係を大切にしてきたからこそ、ここまで店を続けて来られたと思っています」

「おしゃれして出かける場所」も今では

商店街は、平成のはじめごろまでは土日になると多くの人でにぎわいました。
旅行に出かけるための新しい洋服を選びに来るお客さんも多く、仕入れ先から届いた段ボールに入ったままの服が、店頭に並ぶ前に売れてしまうなんてこともあったそうです。

平成のはじめごろからは30数年、夫妻が先代から店を引き継いでからでも18年がたち、店のお客さんたちも同じだけの年齢を重ねて生活が変わり、求める服のニーズも変化しました。

「ほかの人が病院でこんなかわいい服を着ていたので、同じようなものが欲しい」
「デイサービスに通うのに、新しい服を着ていきたい」

女性客を中心に、病院への通院や介護施設に通うのにおしゃれをしていきたいというリクエストが増えているのです。

由紀子さんはそんな気持ちに寄り添おうと、仕入れ先に出かけて要望に応える服を探します。
長く地域のお客さんたちと向き合っていると、性格や人となりはもちろん、服のサイズや色の好みまで、ほぼ頭に入っています。

着る人のことを思い浮かべながら仕入れ先でも服を選んでいます。

だからこそ、時にはお客さんが選んだ色よりも「こっちの方が顔が明るく見えるけど着てみない?」と提案することもあります。

由紀子さんはそんな関係性を大切にしたいと思っています。

「ほかの店ではありえないかも」

売れ筋の商品も変化しています。
最近よく売れるのは、前開きの肌着です。腕が上がりにくくなったりして服の着脱が難しくなっていても、前開きだと自分で脱いだり着たりしやすいためです。

介助してもらう際もスムーズなので、病院や介護施設で前開きのものを薦めることもあるそうです。

「こんなことはほかのお店ではありえないのかもしれないですが…」

夫の英夫さんがそう前置きしながら話したのは、このところ増えている「本人が買いに来ることができない場合」の対応です。

「ある日、パタリと来なくなったお客さん」たちの多くは急な入院や施設への入所で、必要な衣類があっても買いに来ることができないことがほとんどです。

先月も、もともとよく来ていたお客さんの高齢の女性が町の病院に入院しました。

「肌着とタオルを何枚か届けて欲しい」

そう連絡を受けて、病院をたずねました。
長年の付き合いで、着ている服のサイズはわかっているので、こういう色が好きかな、こういうものだと喜ぶかな、と考えて選ぶことができました。コロナ対策のため本人のいる部屋まで会いに行くことはできず、受け付けで商品だけを渡してきました。

後日、町外に住む女性の息子さんが店にお金を持ってきた時には、「また都合悪いことがあったらいつでも言ってくださいね」と声をかけました。
「お互いに誰かわかっている信頼関係がある関係性ならではのことで、僕はこれが当たり前のことと思っています」
英夫さんはそう話しています。

今後も減少続く予想 それでも

高齢者まで減り始めた町の人口は、その後も減り続けています。

国の推計では、町の人口は2040年までに今の半分近くの4380人になるとする長期見通しも示されています。

小林さんの長男も、高校卒業後は進学で県外に出て行きました。

最近、能登半島では地震も続いていて、近くの町では被害も出ています。

それでも、英夫さんは海も山もあって自然が豊かで、食べ物もおいしいこの町が本当に好きだと話しています。

それは理屈じゃないのだと。
英夫さん
「純粋で本当に優しい人が多いと思うんですね。人と深いつきあいができる地域じゃないかと。だからこそ、この店が存在意義のある場所にならないといけないと思うんです」

「存在意義のある場所」

「このパジャマ、どうにかまだ着れないだろうか」

最近、長く連れ添った妻を亡くした90代の男性が、お店をたずねてきました。
以前は夫婦でよく店に来ていて、大丈夫かな、と心配していたところでした。

男性は手先が不自由で、今着ているパジャマのボタンをしめることができないため、どうにか直せないかとの相談でした。

こんな時、利益を考えれば新しい介護用のパジャマをおすすめするのが、普通なのかもしれません。でも、話しているうちに英夫さんが感じたのは、「持ってきたパジャマは亡くなった奥さんが用意していたものじゃないか」ということでした。

新しい物ではなく、このパジャマをまだ着たい、捨てたくないんだと。
だから店をたずねて来てくれたんだなと。

そこで英夫さんは、ボタンより楽に留め外しができる留め具にしてはどうかと男性に提案し、そのうえで仕立屋に相談、手先が不自由でも着られるように直しました。

仕立屋に走ったガソリン代などを考えれば、利益はほぼない料金でしたが、それでも英夫さんは、こういうことこそが大切だと考えています。
英夫さん
「何かしてあげたくなるじゃない。いつも来てくれるお客さんだから、理屈じゃないんですよ。そのパジャマが好きでもう1回使いたいなら、満足してもらえるように手助けをする、そのための提案をする。ここはそういう場所なので」
そのうえで、今後については。
「ここで頑張っていきたい。うちを必要としていただける方がいるかぎりは、細々とでも続けていければと思っています」
社会部記者
大西咲
平成26年入局
熊本局、さいたま局などを経て社会部で厚生労働省を担当
穴水町は空気が柔らかく人も皆優しくて、ふんだんな海の幸も含めて本当に素敵な場所でした