大人だけじゃない 子どもにも広がる「ロコモ」の兆候 対策も

「歩いていたら突然転んで手を骨折した」
「傘に足をひっかけて転び、鼻の骨を負った」

いま子どもたちの間でこうした思いもよらぬケガが相次いで報告されています。

いったい、何が起きているのでしょうか。

歩いて転倒、まさかの骨折

東京・中央区の小学6年生、恒川蘭香さんは5年生だったことし1月、家庭科室から教室に戻る際にフロアを間違えたことに気付いて振り返ったところ、右足のかかとに左足が引っかかり後ろに転んだということです。

右手に教科書を持っていたためとっさに対応しきれず、廊下についた左手の手首を骨折しました。

恒川さんは運動が得意でふだんから外で遊んだりダンス教室にも通ったりしていますが、歩いていて転び、骨折したのは初めてでした。
恒川さんは「大丈夫かなと思っていたらみんなに『手やばいんじゃない』と言われて、見ると手首が横にずれていて“折れたな”と思いました」と話していました。

恒川さんが通う小学校では昨年度「下校中につまずいて転倒し、うでを骨折した」とか「持っていた傘に足をひっかけて転び顔面を強打して鼻を骨折した」などといった報告が相次ぎ、骨折やその疑いがある児童が17人と前の年度に比べて2倍以上になりました。
中央区立月島第三小学校の養護教諭、大津聡緒里さんは児童どうしが勢いよくぶつかったり両手をポケットに入れたまま階段で転んだりしたりして大けがになるケースとは異なり、去年はどうしてこれほどのけがになったのか疑問に思う事故が多かったと感じています。

大津さんは「コロナ禍で感染予防のために行動制限が多くなったことも原因の一つかもしれません」と話しています。

「子どもロコモ」って?

整形外科医などで作るNPO法人『全国ストップ・ザ・ロコモ協議会』によりますと、加齢などが原因で骨や筋肉などが衰え、立ったり歩いたりするための機能が低下した状態は「ロコモティブシンドローム」と呼ばれ、一般に中高年に多く見られます。

ところが最近、基礎疾患がないのに運動の基本的な動作ができない子どもたちが増え、中には転んで大けがをするケースも報告されています。

医師らは加齢や病気などが原因の大人のロコモと区別して、「子どもロコモ」と呼んでいます。
ロコモの初期兆候のようすがみられる子どもの報告が相次いでいることについて、『全国ストップ・ザ・ロコモ協議会』の理事長でさいたま市の医師、林承弘さんは「コロナ禍で出歩かなくなったことで体を動かす機会が圧倒的に減ったことが一番の理由だと思う。ゲームやスマートフォンをする機会が増えて姿勢が悪くなったことも子どもロコモを助長させている」と指摘しています。

さらに「運動機能が改善されないまま大人になってしまうと、将来的にロコモとなる可能性もある」と話しています。

ただ、ストレッチや体操などの適切な運動を続けるほか体の姿勢を見直すなどすると、予防や改善が見込まれるということです。

子どもに広がるロコモの“兆候”

日本臨床整形外科学会は、新型コロナウイルスの感染拡大による行動の制限が、運動機能にどのような影響を与えたのか2020年7月から8月にかけて医療機関を受診した患者とその家族、1万2200人あまりを対象にアンケートを行いました。

このうち小学生から高校生は820人で、体の動かしやすさの変化について、「階段がのぼりづらくなった」と回答したのが、
▽高校生が13%、
▽中学生が11%、
▽小学生が8%で、
子ども全体では10%にのぼりました。

また、
「早く歩けなくなった」と回答したのは
▽小学生と中学生、高校生でいずれも9%、
「つまずきやすくなった」のは
▽高校生が8%、
▽中学生と小学生が5%でした。

学会によりますと、これらの項目は、1つでも当てはまれば、足腰などの運動機能が低下し、介護が必要なリスクが高まるという「ロコモティブシンドローム」の初期兆候とされていて、通常、30代以上で注意が必要になるとされています。

このほか調査では「体力がなくなった」と回答したのは、
▽高校生が55%、
▽中学生が44%に達し、
80代までの全世代の平均の39%を上回りました。

アンケートを行った日本臨床整形外科学会の二階堂元重医師は「大人のロコモティブシンドロームの初期兆候がこれだけの子どもたちに表れたのは驚きだ。休校でクラブ活動やスポーツ行事が休止となり運動の機会が減った一方、スマートフォンやゲームをする時間が増えた影響があるのではないか」と話していました。

「子どもロコモ」チェックどうすれば?

『全国ストップ・ザ・ロコモ協議会』の理事長をつとめる林医師によると「子どもロコモ」かどうかを判断するには、まず椅子に座った際に猫背だったり顎が前に出たりしていないかなど姿勢をチェックする必要があるといいます。

次に以下のチェック項目を観察します。
▽5秒以上ふらつかずに片足立ちすることができない
▽しゃがみ込むときに途中で止まったり後ろに転んだりする
▽両手を上げたときに手の先から肩にかけて垂直にならない
▽立って体を前にかがめた際にひざを伸ばしたまま手の指を床につけることができない

これらの項目に1つでも該当する場合、「子どもロコモ」が疑われるということです。
ただ、子どもロコモは林医師は改善が可能だといいます。

ことし2月、体育の授業で跳び箱をした際に小指の付け根を骨折し、林医師のクリニックを訪れた小学2年生の男の子がいました。
姿勢が悪いなど子どもロコモが疑われたため、背骨と太ももが直角になるよう意識して椅子に座ることや肩甲骨などを動かすストレッチを指導したところ、1週間ほどで改善がみられたといいます。

林医師は「姿勢をよくして、1日に数分でもいいので肩甲骨と股関節を動かす体操を続ければけがをしにくくなり、子どもロコモの予防や改善にもつながります」と話しています。

子どもロコモ”魔法のダンス”で対策

岐阜県本巣市では去年6月から、体育の授業に“足が速くなる魔法のダンス”と名付けられた運動をすべての小学校で取り入れました。

新型コロナウイルスの感染拡大で室内で遊ぶ子どもたちが増え、体を動かす機会が減ってしまったという保護者らの声がきっかけでした。
このうち、土貴野小学校では2年生と3年生の児童40人が参加し、アップテンポな音楽に合わせて腕を大きく振りながらジャンプしたり片足を上げたりしたほか体を大きくねじったりと大きな声を出して楽しそうに踊っていました。

3年生の女子児童は「素早く動くところが難しかったけれど、楽しかったです」と話していました。
ダンスを考案したのは子どもの成育や発達に詳しい岐阜大学の春日晃章教授です。

春日教授によりますと、ダンスに盛り込まれたしゃがみ込む動作や片足でバランスをとる動きのほか肩甲骨を使いながら腕を伸ばす振り付けは、ロコモの予防にも効果があるということです。

さらに、ダンスの効果はロコモの予防にとどまらず、県内の幼稚園や保育園では子どもたちの25メートル走のタイムの伸び率が、同じ年齢の子どもたちより高くなったということです。

春日教授は「小さい頃によく運動した世代は年をとっても苦にならないが、若い時に動かないと高齢者になっても動きづらいということが大規模な調査で分かっている。子どものうちから動くのを当たり前にして、運動をできる体をしっかりと養っていくことが大切だと思う」と話していました。

対策は各地でも

岐阜県以外でもロコモから子どもたちを守る動きが始まっています。

鹿児島県奄美群島の伊仙町では今年度からすべての小中学校で、子どもロコモの予防のための取り組みを始めました。

このうち、糸木名小学校では年に3回、全校児童を対象に姿勢や運動機能のチェックを行うことにしていて、先月には全児童19人のうちおよそ3分の1の児童に子どもロコモが疑われたということです。

このため朝の会や体育の授業などで腕を伸ばして前屈したりしゃがみ込んだりする運動を取り入れ、改善に取り組んでいます。

養護教諭の坂元梨恵さんは「結果はすぐに出ないかもしれませんが、将来の子どもたちの健康に少しでも役立つよう取り組んでいきます」と話しています。