“小さい人を信じて見守ってほしい” 高見のっぽさんの思い

幼かった私たちにテレビの向こうから、いたずらっぽい笑顔で工作の楽しさを教えてくれたあの人。

NHK教育テレビの子ども番組「できるかな」でノッポさんとして親しまれた、高見のっぽさんが、88歳で亡くなりました。

「できるかな」では、ひと言もしゃべらないキャラクターでしたが、素顔の高見のっぽさんは、どんな人だったのでしょうか。

のっぽさんの所属する事務所の代表で、40年近くのっぽさんをそばで見てきた古家貴代美さんに聞きました。

当初、のっぽさんは「高見映」という芸名で活動していましたが、「できるかな」が終了したあとも「ノッポさん」のイメージで見られることが多かったため、2005年ごろに「高見のっぽ」という芸名にみずから変えたということです。

“小さい人”に敬意

のっぽさんは、日頃から子どものことを敬意を込めて「小さい人」と呼んでいました。

その理由を古家さんは本人から聞いていたといいます。

「『子“ども”なんてひとからげにはできない。大人だって大人“ども”なんて言われたら嫌でしょ』と話していました」。

のっぽさんは著書の中で次のように記しています。

「子どもだからといって、“経験も浅い、物事をよくわかっていない存在”とは、これっぽっちも思っていないからですよ/小さい人たちというのは、実にいろいろなことが分かっているのです。大人が思うよりも、いやおそらく大人よりも、ずっとずっと賢いんですから」。
(「ノッポさんの『小さい人』となかよくできるかな?」より)

また、古家さんはのっぽさんが「小さい人」に話しかけていた姿が印象に残っているといいます。

(古家さん)
「『僕はのっぽと言いますが、君のお名前を教えていただけませんでしょうか』と話しかけるんです。言われた子は、顔を真っ赤にしながらも必死に自分の名前を言うものですから、そばにいた親が驚いていました。泣いている赤ちゃんに『どうされましたか。一生懸命おしゃべりしていますね。眠たいですか。どうぞどうぞお休みください』なんて優しく話しかけていると、赤ちゃんもお母さんもにこにこになる。そんな奇跡みたいな場面がのっぽさんといるとたくさんありました」。

「小さい人をもっと信じて」

「できるかな」では次々に工作を作り出していたのっぽさん。

古家さんによると「できるかな」の工作は子どもが作るのには難しいものもあったということです。

(古家さん)
「番組は工作の手順を教えるのではなく、ものを作る楽しさを伝え、『やってみたい』という子どものやる気を引き出すことだったと聞いています。だから子どもたちが番組と同じように作ってうまくいかないことがあったとしても、のっぽさんは『うまくいかない経験がすごく大事で、大人は“失敗を保証する”ことが大事』と常々言ってました」

失敗したら、次に道具を使う際の力加減も覚えられるし、工夫も生まれる。

失敗を積み重ねて人は成長する。

のっぽさんには、大人が先回りをして子どもの失敗を回避させるのではなく、「もっと小さい人を信じて見守ってほしい」という思いがあったそうです。

実は“ぶきっちょ”だから一生懸命

古家さんによるとのっぽさんも、かなりの「ぶきっちょ」を自称していて工作のテープがまっすぐ貼れないなど失敗も多かったそうです。

番組は15分間、ほぼノンストップで収録して放送していたため、工作に取り組んでいるときののっぽさんはいつも一生懸命で表情は真剣そのものでした。

そして、うまくできたときは、心からうれしそうな笑顔を浮かべていました。

71歳で歌手デビュー 小さい人への応援歌

のっぽさんは、71歳のときNHK「みんなのうた」の「グラスホッパー物語」で歌手デビューしました。

みずから手がけたその歌詞は“小さい人”への応援歌でした。

「とべとべ はねをひろげ
 おおぞらの むこうへ
 おそれることは ない
 まだみぬ せかいへ

 いつのまにか ときはすぎ
 わかきひは とおくなるよ
 ホラ まごたちよ とんでおくれ
 おじいさんの ねがいさ

 まちかどの ちいさな こうえん
 かたすみの くさかげに
 ホラ まごたちを まえに あつめて
 おじいさんのグラスホッパー

 おじいさんのグラスホッパー!」
(「グラスホッパー物語」より抜粋)

「できるかな」を見て育った人は、のっぽさんが声高らかに歌う姿に驚いた人も少なくありませんでした。

その歌詞に励まされたと全国から共感の声が寄せられ、「みんなのうた」としては異例の10か月間にわたるロングラン放送となりました。

僕は風のようにいなくなる

のっぽさんは生前、自身の死について周囲の人たちに伝えるのは、しばらくたってからにしてほしいと希望していたということです。

(古家さん)
「のっぽさんは、日頃から『僕は風のようにいなくなるからね』と話していました。人間は誰でも死んでいく動物だから、あまり残念がらないでほしい、というのがのっぽさんの考えでした。今回は突然の報告で『驚かせてごめんね』と言ってるのではないでしょうか。そんな優しさがのっぽさんなんです」

のっぽさんが「小さい人」に寄せた思いは、どこまでも優しいものでした。

そして、その優しさは「かつて小さかった人」にも向けられていました。