「デジタル・バンク・ラン」 経営破綻した米3銀行の共通点とは

アメリカの銀行「ファースト・リパブリック・バンク」が経営破綻しました。アメリカでは、シリコンバレーバンクの経営破綻から2か月たたないうちに合わせて3つの銀行が破綻する異例の事態となっています。

なぜ、銀行の経営破綻が相次いでいるのか。経営破綻した3つの銀行にいずれも共通していたのがSNSとインターネットを通じた金融サービスが預金の流出のスピードを加速させたことです。アメリカでデジタル時代の預金の取り付けという意味「デジタル・バンク・ラン」とも呼ばれています。

「ファースト・リパブリック・バンク」経営破綻の背景

経営破綻した「ファースト・リパブリック・バンク」は1985年に創業したアメリカ西部カリフォルニア州に拠点を置く地方銀行で、富裕層向けのビジネスで知られていました。

【背景1】FRB利上げ 低金利住宅ローンなど多額の含み損

銀行が力を入れていたのが住宅ローンや商業用不動産向けの貸し出しです。

金融緩和を背景に大量の住宅ローンを固定の低金利で顧客に提供して業績を伸ばしてきました。

しかし、去年からのFRB=連邦準備制度理事会による急速な利上げの影響で銀行が資金を調達する際の金利は上昇、低金利で提供した住宅ローンなどが多額の含み損を抱える形になりました。

【背景2】保護対象外の預金割合高く 預金引き出す動き

こうした中、3月に銀行の破綻が相次ぎ金融不安が高まります。

アメリカの預金保護の仕組みは銀行が破綻したときには1口座当たり25万ドル、日本円でおよそ3400万円までが預金保険によって保護されます。

しかし「ファースト・リパブリック・バンク」は去年末時点の預金残高のうち、保護の対象ではない預金の割合が推定でおよそ67%と高かったことなどから顧客の間で預金を引き出す動きが広がりました。

預金流出が止まらなかったことをうけて11の大手金融機関から異例の支援策として預金を受け取っていわば穴を塞ぐ措置がとられていました。

【背景3】預金残高10兆円近く減 株価急落さらに預金流出

いったんは落ち着いたかに見えましたが先月24日の決算発表で預金残高が3月末時点で10兆円近く減少したことを明らかにすると経営への懸念が一気に高まりました。

25日には株価が急落し、28日時点ではわずか1か月足らずの間に日本円でさらに1兆5000億円以上の預金が流出しました。

ブルームバークなどによりますと銀行は株式に転換できる特殊な債券を付けることで価値が目減りした住宅ローン債権などを売って財務状況を強化する計画をたてたということですが、値の下がった住宅ローン債権などを引き受ける銀行は現れず、株価は一段と急落して経営破綻に至りました。

「デジタル・バンク・ラン」 デジタルで預金の流出加速

アメリカの金融不安で2か月足らずのうちに相次いで経営破綻した3つの銀行にいずれも共通していたのがSNSとインターネットを通じた金融サービスが預金の流出のスピードを加速させたことです。

アメリカではデジタル時代の預金の取り付けという意味で「デジタル・バンク・ラン」とも呼ばれています。

このうち、最初に経営破綻したシリコンバレーバンクの場合、3月8日に経営への懸念が高まるきっかけとなった債券の売却による損失が発表されると翌日の9日だけで420億ドル、5兆円余りの預金が流出し、10日には1000億ドルの預金が流出する見込みとなり、損失が明らかになってからわずか2日、3月10日に経営破綻しました。

預金の流出が加速した要因となったのがSNS上でシリコンバレーバンクの経営への懸念に関する書き込みが拡散したことでした。

中には「金を引き出して。質問はあとで」と預金の引き出しを促す書き込みも見られました。

預金の流出の速度が速かったことでほかの銀行の経営にも懸念が広がりました。

ベンチャーキャピタル経営者「つながっていることに副作用」

ニューヨークで新興企業に投資するベンチャーキャピタルを経営するムラート・アクティハノルーさんも破綻の影響を受けたひとりです。

投資した企業を資金面でバックアップしながら成長を促し株式を上場することで利益を得てきましたが、投資先のうち30社がシリコンバレーバンクに預金していて予期せぬ経営破綻で口座が凍結されたのです。

当時、投資先の資金繰りに追われたアクティハノルーさんはSNSを通じて情報が拡散して預金が流出する速さに驚き、デジタル時代の金融不安の怖さを感じています。

アクティハノルーさんは「つながっているということには副作用があり、人が何かを言うとみんながそれに追随して、雪だるま式に広がっていきます。フェイスブックやツイッターのようなあらゆるSNSで、実際にアイデアを植え付けることができそれがあっという間に広がっていきます。ネットワークを通じて情報が急速に伝わることは、ある面ではポジティブだと思うと同時に、この状況ではよくないことです。みんなが一緒になってパニックになるのです」と話しています。

米 FDIC 預金保護の改革案 示す

デジタル時代に急速に預金が流出し、銀行破綻が起きている事態を重くみたアメリカのFDIC=連邦預金保険公社は、預金保護の仕組みを改革する案を示しました。

現在のアメリカの預金保護の仕組みでは銀行が破綻した際に、個人と法人どちらも1口座当たり25万ドル、日本円でおよそ3400万円までが預金保険によって保護されています。

FDICは今回3つの改革案を示しています。

1、現在の仕組みを維持し、限られた範囲で預金を保護する案
2、すべての預金者を上限なく保護する案
3、口座の種類によって預金保護の限度額に差を付け、法人の決済口座についてはほかの口座よりも保護の範囲を大幅に広げる案の3つです。

このうちFDICは3番目の、法人の決済口座に絞って保護の範囲を大幅に広げる案が最有力だとしています。

FDICによると2021年時点で25万ドルを超える、保護されていない預金の割合は金額ベースで46.6%を占め、1949年以降で過去最大になったとしています。

預金保険の仕組みを見直すには連邦議会の承認が必要となります。