長期化する軍事侵攻でウクライナの兵士や家族に精神的不調も

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、ウクライナでは、前線で戦った兵士やその家族が精神的な不調を訴えるケースは後を絶ちません。

ウクライナ西部リビウで市が運営する「リビウセンター」は、2014年に東部ドンバス地域で始まった戦闘などを受けて、精神的なケアを必要とする兵士やその家族のケアを行おうと、2016年に開設されました。

去年、ロシアによる軍事侵攻が始まってからは、センターを訪問する人は増え続け、現在、一日あたり平均で20人ほどが訪れているということです。

NHKが取材で訪れた3月末にも、東部の激戦地バフムトで戦っていた際に肩に銃撃を受けて地元のリビウに戻ってきた元兵士の男性が1時間ほどカウンセリングを受けていました。

元兵士は、一緒に戦っていた友人が銃撃戦の中で自分をかばって戦死したことがフラッシュバックし、精神的に落ち込んだり、眠れなかったりする日々を過ごしているといいます。

カウンセリングには、3月から週2回ほど通って心の悩みをカウンセラーに打ち明けているといい、元兵士は「ここに来ると落ち着いて、眠れない症状なども改善する。体調がよくなるまで通いたい」と話していました。

一方、カウンセラーによりますと、継続的なケアが必要でも戦闘が続いていることから、ある程度症状が改善されたら戦地に戻ることを望む人も多く、症状が複雑化したり長期化したりしやすくなっているということです。

カウンセラーは「多くの兵士は、集中力の低下や記憶障害、睡眠障害、コントロールできない緊張など、PTSDの症状が出ている。中には自分がいま戦場ではなく、平和な場所にいると気づけていない人もいる。長い時間のかかる治療だ」と話していました。
また、リビウセンターのスビトラーナ・トゥカチュク所長(50)は「心理的なサポートの重要性は増している。カウンセラーを2人から4人に増やしたが、予約や相談は数週間先まで埋まっていて、状況は深刻だ」と話していました。

センターでは、さらにカウンセラーを増やしたいとしていますが、カウンセラーの中には、戦地に赴いたり国外に避難したりしている人も多く、増員するめどはたっていないということです。

ケア受けられず日常生活に戻った兵士も

支援態勢が不十分だったことで、兵士の中には心のケアを受けられないまま日常生活に戻らざるを得なかった人もいます。

ウクライナの首都キーウの近郊に住むアンドリー・ネポセドフさん(50)は、東部のドネツク州やルハンシク州などの激戦地で戦っていましたが、戦闘中に肩を負傷し前線を離れることになりました。

ネポセドフさんによりますと、運ばれた病院では肩の治療は受けられたものの、心のケアについては、およそ100人の兵士が1つの部屋に集められて、病院の職員が「悩みを抱えている人はいませんか」と呼びかけただけで、支援を受けることはできなかったということです。
ネポセドフさんは「精神的なつらさは、誰もがみんなの前で言えるわけではない。そこでは誰も、なにも言わなかったし、自分も問題がないと思うしかなかった」と話していました。

しかし、ネポセドフさんは、前線を離れてから不眠に悩まされたり、小さな物音に敏感に反応してしまったり、ふと怒りがわいてきたりするなどの症状を抱えているといいます。

自宅の周辺には、心のケアを受けられるような施設もないということで、ネポセドフさんは妻や、飼っている犬や猫と時間を過ごしたり、植物を育てたりすることで日常生活を取り戻していこうとしていました。