日銀 植田総裁 初の政策決定は金融緩和策の維持【会見詳しく】

日銀の植田総裁は、今月9日に就任してから初めてとなる金融政策決定会合に臨みました。
最初の政策決定は、今の大規模な金融緩和策の「維持」でした。
植田総裁は午後3時半から記者会見を行いました。
記者会見での植田総裁の発言をタイムライン形式で詳しくお伝えします。

16:30すぎ 会見終了

植田総裁の記者会見は、45分間の予定を15分余りオーバーして、午後4時半すぎに終了しました。

“正常化始めるプロセス 後ろずれの可能性も”

植田総裁は、金融緩和策のレビューは緩和策を縮小する出口戦略と関連があるのかを問われ、「レビュー期間の1年から1年半というのは微妙な長さかと思う。その間に正常化を始める可能性もゼロではない。そういう場合にはこのレビューは、必ずしも時間的に間に合わないということだ。そもそも現時点で、そこを狙って始めるわけではない」と述べました。

その一方で、「正常化を始めるプロセスがどんどん後ろずれしていく可能性もまたゼロではない。2年後、3年後、4年後ということになる可能性も残念だがありえる。そうすると、副作用をどういうふうにして継続していくのかという点は、当然考慮しなくてはいけない点になる」と述べました。

“将来 必ず役に立つ知見になる”

植田総裁は、レビューの期間が25年間であることの理由について、「毎回毎回の決定会合の決定が適切であったか、そうでないかという観点よりも、その当時使われていた政策手段、例えば、その少し前は時間軸政策であったり、その少しあとから量的緩和政策になったり、そういうものがこの25年間を振り返ってみると、どれくらいの効果を持ち、効果がもし期待されたほどではなかったとすると、どういう外的条件あるいはやり方のまずさ、そういう事が影響したのかということを分析するということだ」と述べました。

そのうえでレビューの必要性については、「将来、仮にそういう状況にもう一度陥った時に、必ず役に立つ知見になるのではないかと思った次第だ」と述べました。

“政策の効果と副作用 常に注意深く分析”

植田総裁は、今の金融緩和策を見直すべきではないかという質問に対して、「もう少し基調的なインフレ率が2%に届いたといえるまでには、時間がかかりそうであり、現行の金融緩和を継続するというは基本だ。ただし、副作用もところどころに出ていることも認めざるをえない。これに関しては、現在、何かを考えてるというわけではないが、政策の効果と副作用のバランスは間違いないように常に注意深く分析し、できるかぎり情報発信をしていきたいと思っている」と述べました。

“任期中にレビューを役立てたい”

植田総裁は金融緩和策のレビューの期間を1年から1年半程度としている理由について、「1年半と厳密に決めているわけではないが、その1つのお答えとしては、私や副総裁の任期が5年なので、その任期中にある程度のレビューの結果を出して、それを残りの任期である程度役に立てたいという問題意識です」と述べました。

“欧米の金融不安 今は一応 安定している状態”

アメリカで銀行の経営破綻が相次ぐなど3月以降に欧米で広がった金融不安について植田総裁は、「欧米の金融当局が非常に素早く対応したことと、金融不安の広がりのもとが個別の銀行問題であったという認識も広まったことで、市場は今は一応、安定している状態にある」と述べました。

そのうえで、「アメリカなどでは、潜在的に中堅銀行に対する不安は残っていると思うし、今後、そういうことがどういう形であらわれてくるか、注意深く見守っていかないといけない状態である点は間違いない。経済の先行きをめぐる不確実性の高まりという点を織り込んだうえで、きょうの政策決定政策の決定になっている」と述べました。

“過去の緩和 十分な成功を収めてこなった”

植田総裁は、過去25年間の金融緩和政策が効果を発揮してこなかったという観点から、レビューを実施するのかという質問に対し、「難しいところだが、私の考えでは効果はある程度出ていて、それぞれの時点において、政策あるいは時期によって濃淡の違いはあるにせよ、効果はあったと思っている。ただし、現時点での判断基準、例えば2%のインフレ目標を達成するというところまで、インフレ率を持ち上げると意味では、なかなか十分な成功を収めてこなかったと思う」と述べました。

“安定的な2%の可能性 出てきている”

植田総裁は、2%の物価目標について「基調的インフラ率は徐々に上昇を続けていて、安定的な2%の可能性も出てはきている」と述べました。

そして今回、実施を決めた金融緩和策のレビューは目先の政策変更に結び付けて行うものではないものの、「少しロングレンジの話にはなるが、うまくいった時、あるいはうまくいかなかった時、そういうところをにらんで、用意をしておこうというタイミングだと思った次第だ」と述べました。

“レビューは幅広く意見を聞く”

金融緩和策のレビューの実施方法について植田総裁は、「内部のスタッフによる分析が1つの中心になると思っている。それに加えて、外部の有識者を招いた小さな研究会とか、あるいは外部の学者などに対する個別のヒアリング。さらには、もう少し幅広い層の方々の意見を伺うということで金融経済懇談会などの場を利用してみたり、日銀の支店や事務所のネットワークを幅広く利用して、いろいろな方々との意見交換を行うことも含めてと思っている」と述べました。

そのうえで、「特定の政策ということではなく、この間に行ったさまざまな政策の効果や副作用をなるべく幅広く点検していくのが目的だ」と述べました。

“レビュー実施中 政策変更はあり得ること”

植田総裁は、金融緩和策のレビューを実施している1年から1年半の間に政策変更が行われる可能性を問われ、「その時々に必要な政策変更は、1年半の間であっても、毎回の政策決定会合で議論して必要があれば、実行するというスタンスだ。現在は基調的なインフレ率が持続的安定的に2%には達していないという判断だが、これが1年半の間に変わる可能性はゼロではないわけで、そうすれば当然、それに伴って政策変更はありうる事になるかと思う」と述べました。

“もう少し辛抱して粘り強く金融緩和続けたい”

日銀は今後の物価について今年度後半に下がり、来年度は日銀が目標とする2%に上昇するという見通しを示しました。

植田総裁は、「下がっていくところまでは、ある程度の確度で見えているが、下がっていったあと反転して、また上がってくるというところにはさまざまな前提が必要で、それが本当に今後、満たされていくかどうか、そういう点については不確実性が高いという判断を多くの方がお持ちかと思う」と述べました。

そのうえで、「ならしてみると2%に近い数字が続いているが、もう少し辛抱して粘り強く金融緩和を続けたいというのが正直な気持ちだ」と述べました。

“レビューは将来の政策運営に有益な知見を得るため”

日銀は、金融緩和策についてのレビューを実施することを決めましたが、その理由について植田総裁は、「わが国経済がデフレに陥った1990年代後半以降、25年間という長きにわたって物価の安定の実現が課題となってきた。その間、さまざまな金融緩和策が実施されてきた。こうした金融緩和策は、わが国の経済・物価・金融の幅広い分野と相互に関連し、影響を及ぼしている。そうした相互関係を念頭に置きつつ、この間の金融政策運営についてさらに理解を深め、将来の政策運営にとって有益な知見を得るため、多角的なレビューを行うことにした」と述べました。

さらに、「将来の政策運営のいろいろな可能性を念頭に置いて、現時点で、少し長めの時間をかけて。過去を振り返っておこうということだ。どういう種類の政策運営につながるのかということは現時点では決まっていない」と述べました。

“粘り強く金融緩和を継続”

植田総裁は今後の金融政策運営の方針について、「引き締めが遅れて、2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めによって、2%を実現できなくなるリスクのほうが大きく、基調的なインフレ率の上昇を待つことのコストは大きくないと判断している。したがって、金融政策運営の基本方針としては、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく方針だ」と述べました。

15:30 会見始まる

植田総裁が着席し、午後3時30分、記者会見が始まりました。

植田総裁は冒頭で、「長短金利操作、いわゆるイールドカーブコントロールのもとでの金融市場調節方針について現状維持とすることを全員一致で決めました」と述べました。
また、「先行きの金融政策運営に関する方針を整理明確化したほか、過去25年間に実施してきた金融政策運営について、多角的なレビューを実施することを決定した」と述べました。

まもなく会見

植田総裁の記者会見は、東京 日本橋本石町にある日銀本店で開かれます。
金融政策決定会合のあと、毎回開かれています。
会見では、まず植田総裁が会合での決定事項を説明。
その後、記者からの質問に答えます。

記者会見での注目点

【今後の金融政策は?】
まず、日銀は今回の公表文で粘り強く金融緩和を続けることを表明し、次のように明記しました。
ー賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。
「賃金の上昇」と「物価上昇」の好循環が必要だという姿勢を強調した形です。

そして、焦点の物価上昇率について、次のような見通しを示しました。
▽2023年度 +1.8%
▽2024年度 +2.0%
▽2025年度 +1.6%

植田総裁は国会で、物価の基調的な動きが2%に届くという見通しになれば金融緩和策は正常化の方向に向かうとしたうえで、「基調的な物価の見通しとは、半年先、1年先、1年半先の私どもの物価の見通しがかなり強い2%前後になり、しかも、それについての見通しの確度が高まったと認識できるようなものと漠然と考えている」と述べています。

今回示した物価の見通しにもとづいて、今後、どのような金融政策運営にあたるのか、植田総裁の説明が注目されます。

【金融緩和策のレビュー】
また、日銀は1990年代後半以降続けてきたさまざまな金融緩和策について1年から1年半程度をかけて多角的にレビューを行うことを決めました。

こうした政策レビューはアメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦制度準備理事会やヨーロッパ中央銀行も行ってきました。

レビューでは日本でデフレが長期間続いた原因や、金融緩和策の効果、それに副作用などについて時間をかけて検証し、今後の金融政策運営にいかすねらいがあるとみられます。

これが、今後の政策運営や金融緩和策の出口にどうつながっていくかもポイントです。

“株価300円以上値上がり”

日銀が植田総裁のもとで初めてとなる金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の維持を決めたことを受けて、東京株式市場、日経平均株価は一時、300円以上値上がりしました。
東京市場では輸出関連を中心に買い注文が広がり、ほぼ全面高の展開です。

“長期金利は低下に”

日銀が植田総裁のもとで初めてとなる金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の維持を決めたことを受けて、きょうの債券市場では、日本国債を買う動きが出ました。
長期金利は発表前の0.465%から、一時、0.420%まで低下しました。

“円安進む”

日銀が植田総裁のもとで初めてとなる金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めたことを受けて、外国為替市場では円を売る動きが出ました。
円相場は、決定内容の発表前は1ドル=133円台後半でしたが134円台半ばまで値下がりしました。