マリオがヒゲを生やすワケ 生みの親 宮本茂さんに直撃

1985年に発売された人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」。

特徴のあるひげに、「M」のマークのついた赤い帽子、そして躍動感のあるジャンプ。

「マリオ」は、今や、世界中で愛される存在となりました。

キャラクターのデザインなどを手がけた「生みの親」である任天堂のゲームクリエイターの宮本茂さんがNHKのインタビューに応じました。

宮本さんに、時代を超えて活躍の場を広げるマリオとその未来について聞きました。

(京都放送局 記者 山崎麻未)

最初は名前がなかった…

京都市にある任天堂本社のほど近くにある開発棟でインタビューに応じた宮本さん。

マリオ作品に登場するアイテム「スーパースター」のバッジを襟に取り付けたあと、まず語ってくれたのがマリオ誕生の裏側でした。
漫画家の手塚治虫さんや赤塚不二夫さんに憧れて育ち、彼らのように「自分のキャラクター」を育てたいと思っていた宮本さん。

“漫画家になりたかった工業デザイナー”として、ゲームを作り始めたそうです。

意外なことに、当初はマリオという名前はついていなかったといいます。
「『ドンキーコング』という、女の子をさらっていったゴリラを男の子が追いかけて助けに行くゲームを作ったんですね。そこで男の子をどう作ろうかと。ドットで16×16のマス目で描いた絵をイラストレーションで起こして描いていって、まだマリオという名前はついていなかったんですが、それが最初のキャラクターです」
「ドンキーコング」の次の作品「マリオブラザーズ」で、男の子は弟とともに初めて名前を与えられたそうです。
「男の子が2人で協力したり戦ったりするという『マリオブラザーズ』を作って、マリオの色違いのルイージという弟を作ったんです。次に、マリオが青空のもとで陸海空に出て行くというアドベンチャーアクションを作ろうというので、スーパーマリオになった」

「幸い、ちゃんとしたキャラクターになりましたが、ひょっとしたらおまけのようなキャラクターのままで終わったかもしれませんね」
イラストから形づくられていったマリオ。

当時のゲームの技術ではその姿を詳細には表現しづらい中、個性や特徴にこだわって作り上げたといいます。
「僕は理屈っぽいですから、マリオのことを『キャラクター』って呼んでいるわけですよね。それなのに、個性がないのはおかしいと。キャラクターと呼ぶ以上は、誰が見ても分かる個性を持っているものを描くのが僕の仕事ということで。ドットの制限はありましたが、鼻を大きくして、ひげをつけて、帽子をかぶらせて、みたいな絵を作ったんですね」

ゲームからテーマパーク、そして映画へ

こうして生まれたマリオは、ゲームの普及とともに、国内外で認知される存在になりました。

2021年には、大阪のテーマパークのUSJ=ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに、マリオをテーマにしたエリアもオープン。
次の展開として選んだのが「映画」でした。

宮本さんが映画の共同プロデューサーを務めた、今回の作品。

アメリカなどで先行公開され、全世界で1168億円の興行収入を記録。好調な滑り出しを見せています。(今月24日時点)

日本でも28日から公開されます。

しかし、なぜあえて映画というコンテンツを選んだのでしょうか。
「理由は、結構、物理的な動機で、ゲーム機を持っていない人というのはゲームを見たことがないじゃないですか。コンテンツをもっと広げていくという意味でも、映像コンテンツはやってみたいと思いました」

映画とゲームで違いも…

製作にかけた期間はおよそ6年。

その中で宮本さんが一番こだわったのは、マリオを知っている人も知らない人も楽しめる作品にすることだったといいます。
「ゲームは、遊んでいる人自身が積極的に入っていって、自分から魅力を作っていくコンテンツだと思うんです。だからまずは、マリオをよく知ってくれている人たちが『これが私の求めていたマリオだ』と思ってもらえるかどうかがありました」

「一方で、映画は、1時間半とか2時間とか見続けるわけですよ。映画はひたすら(製作者側が)語らないとダメ。そこを意識して、ゲームを知らない人に見てもらっても、楽しんでもらえるようにしています」
このため映画では、ゲームに出てくるキャラクターにも、映画では違った魅力を持たせるよう、工夫したといいます。
「やっぱりキャラクターそのものが人間らしく、どんな生活をしている人かっていうのが分からないとダメで、それぞれに味がほしい。モンスターにも魅力がほしい」

「ピーチは、ゲームでは分かりやすい『助けられるシンボル』でしたが、女性が社会で活躍するようになって長い時間がたっているので、映画では、戦う女性になっているし、クッパもただの悪役じゃなく、かわいいところもある。職場で部下からどんなふうに見られているのかというところもほしいじゃないですか。そういうところも足して作っていきました」

マリオはとても幸運な“子ども”

ゲームからリアル、そして映画へと活躍の場を広げてきたマリオ。
気になるのが、その未来です。

マリオをどう展開していくのか、宮本さんに聞いてみました。
「ここまで皆さんにマリオを知ってもらえて、とても幸運な『子ども』で、ラッキーな存在としか言えないんですが、僕からしたら、マリオは何かアイデアが出たときに、一番、自由に使える役者さんみたいな存在なんですよね」

「マリオはデジタルで生まれたので、デジタルの技術とともに進化していったらいいなと思っています。USJで言うと、AR(拡張現実)という技術に、アトラクションや建造物のテーマパークというのが組み合わされた。そういう意味では、また新しい技術が入ってきたとき、まずマリオを使ってみようというふうになるので、僕自身、どこへ行くか分からないんですよね」

「おもしろい」を追求せよ!!

インタビューの最後に、今後、日本からマリオのようなコンテンツを発信するために何が必要か、宮本さんに聞くと、厳しい答えが返ってきました。
「日本から発信とか言っている時点で『ローカルだな』と思うんですよ。はじめは『ドンキーコング』も、アメリカで売れるためにどう作ろうかというよりも、アメリカの人たちをモニターしながら作ったんですよ。だからグローバルというのはあまり意識していないんです。最初から世界向けに作っているんです」

「日本で売るかとか、過去にどんなものが売れたとか関係なく、『ここがおもしろいんですよね』という、自分の中にある、おもしろいものを一生懸命分かってもらうためにゲームや映画を作っていけば、それはおのずとグローバルに通じるので、肩に力を入れずに好きな物を作ったほうがいいと思うんです」
「おもしろい」を追い求めた結果、世界的なキャラクターにまで成長したマリオ。

宮本さん自身も予測不能な次の展開の着地点はどこなのか、目が離せません。