コロナ感染後 元気な小学生に異変が…

小学5年生の林煕榮(てるえい)くんは、公園でドッジボールをしていたとき、体に異変を感じました。力が入らず、ボールがうまく投げられないのです。その後、高熱や激しい下痢が続き、近所の病院を受診しましたが、原因はなかなかわかりませんでした。

子どもが原因不明の症状に苦しむケースが国内外で報告されています。子どもたちに共通するのは、いずれもその少し前に新型コロナに感染していたということでした。

コロナの5類移行を前に、多くの人に知ってほしいと、煕榮くん親子が取材に応えてくれました。

(大阪放送局 記者 北森ひかり)

“おたふくかぜ”と言われたけれど

林 煕榮くん
大阪府内に住む林煕榮くんに異変が起きたのは、去年の12月28日。

冬休みで、家族そろって公園に出かけたときのことでした。

煕榮くん
「ドッジボールをやってたんやけど、なんか体に力が入らなくて、ボールも全然飛ばんかった。家帰ってから寝てたけど、どんどん体がしんどくなって、経験したことないようなしんどさやった」

症状は帰宅後、さらに悪化しました。

高熱と激しい下痢で食欲はなく、昼食もほとんど食べることができませんでした。

煕榮くんがコロナに感染したのは2か月前で、すでに回復していました。

すぐに、自宅近くの総合病院を受診してコロナとインフルエンザの検査を受けましたが、結果はいずれも陰性。

原因はわかりませんでした。

体調は翌日になってもよくならず、下痢はさらに悪化し、首に痛みも出始めていました。

同じ病院をもう1度受診すると、「おたふくかぜではないか」と言われたといいます。

処方された薬を飲み、自宅で療養を続けましたが、症状はひどくなるばかりでした。
母親の侑加さんは、日に日に悪化し、顔色まで悪くなっていく煕榮くんの様子に不安を募らせていました。

本当におたふくかぜなのだろうか。

年が明け、新年を迎えた元日。

トイレに行こうと立ち上がった煕榮くんは、ふらついて倒れてしまいました。

熱は40度を超え、ただの体調不良ではないと感じた侑加さんは、救急相談の電話窓口(#7119)に連絡。

救急車を呼んだほうがいいとアドバイスを受け、救急搬送を依頼しました。

侑加さん
「過去に病気をしたこともありましたが、いつも元気でよく食べる子なので、明らかに様子がおかしい。いつもはすぐに効く解熱剤でも熱は下がらない。年末年始でふだんどおり病院にかかれないことも分かっていましたし、原因がわからず、もしものことがあったらと、本当に不安でした」

聞き慣れない診断名

煕榮くんが搬送されたのは、大阪 和泉市の大阪母子医療センター。

府内の小児医療の拠点となっている病院です。
詳しい検査の結果、最終的に告げられたのは、「MIS-C(ミスシー)=小児多系統炎症性症候群」という、聞き慣れない診断名でした。

新型コロナの感染が世界で拡大して以降、子どもが感染後、川崎病のような症状を訴える事例が欧米を中心に相次いで報告され、「MIS-C=小児多系統炎症性症候群」と名付けられました。

国内では去年、自治医科大学附属病院の小児科医のグループなどが実態調査を行い、少なくとも64人がMIS-Cと診断されていたことがわかっています。

主な症状は、
▽持続する発熱
▽腹痛・下痢・おう吐などの消化器系の症状
▽全身の発疹やリンパ節の腫れ
▽目の充血(結膜炎)
など。

全身に炎症が起きるため、心臓など臓器の働きが悪くなることもあります。
国内ではこれまで死亡例は確認されていませんが、海外では亡くなるケースも報告されています。

症状はほかにも多岐にわたり、発症の仕組みなど詳しいことはわかっていません。

患者数が少ないこともあり、はっきりとした診断の基準もまだ確立されていないのです。

乳幼児がなる「川崎病」とも似ているため、見分けるのは難しく、病院を受診しても煕榮くんのように診断までに時間がかかることも少なくないといいます。

小児医療の拠点でも判断難しく

センターで最初に煕榮くんを診察した集中治療科の森田可奈子医師は、搬送された当初は胃腸炎を疑っていたといいます。
森田医師
「もともと健康で、搬送されてきた時点では発熱と下痢などの消化器系の症状が中心だったので、正直、胃腸炎かなという印象を持ちました。ただ、お母さんの話をよく聞いていくと、コロナに感染していたこと、ほかの病気を検討したほうがいい症状があることが分かり、MIS-Cを疑い始めました」

その後、
▽血液検査で炎症が起きていることを示す「CRP」の値が高かったこと、
▽超音波検査でリンパ節の腫れと心臓の働きが少し弱まっているのがわかったこと、
さらに、母親への聞き取りで
▽太ももに発疹があること、
▽朝から目の充血があったことなどが分かり、
診断につながったということです。
森田医師は、特徴的な症状が出るまでに時間がかかるケースもあるとして、かかりつけ医と専門の医療機関がうまく連携することも重要だと指摘します。
大阪母子医療センター 森田可奈子医師
森田医師
「われわれはさまざまな検査がしやすい環境にありますが、すべての病院で心臓のエコー検査など必要な検査がすぐにできるわけではありません。最初はかかりつけ医を受診する人が多いと思うので、詳しい検査が必要となったら紹介してもらう流れができれば、スムーズに診断につなげられると思います」

また保護者に向けては、受診の際に、▽子どものコロナの感染歴と、▽子どもが陽性でなくても周りに感染した人がいないか、そして、▽子どもにふだんとは違う様子がないかなど、気になることを伝えてほしいとしています。

「感染後にこのような症状 全く知らなかった」

一時は移動に車いすが必要なほど衰弱していた煕榮くんでしたが、炎症を抑える薬を投与するなど専門の治療を受け、徐々に回復していきました。

ひどかった下痢も治り、20日間の入院を終える頃には大好きなごはんが食べられるまで元気になりました。
煕榮くん
「入院中は本当にしんどくて、あんまり覚えてない。薬が効いてからは楽になったけど、もう1回コロナになって、またこういう病気になったらいややから、もうコロナにはなりたくないし気をつけようと思う」

侑加さん
「コロナ自体は軽症でしたし、感染後にこのような症状が出ることは全く知りませんでした。調べてみると、まれなケースだとはいうけど、海外では亡くなった子もいる情報もあったし、本当に不安でした。救急車で母子センターに搬送されていなければ診断もされず治療も受けられなかったかもしれないと思うと怖いです」

MIS-Cのこと 少しでも知って

煕榮くんは退院から1か月後、経過観察のためにセンターを訪れました。

心臓の機能は問題がないことも確認でき、この日が最後の受診となりました。

今は体育の授業にも元気に参加しています。

ただ、母親の侑加さんは、なかなか診断がつかず弱っていく煕榮くんを目の当たりにした不安が今も心に残っていると話します。
MIS-Cについて、現在、できるだけ早期に診断と治療につなげようという取り組みも進められています。

日本小児科学会や日本川崎病学会など4つの学会は、まずは国内でこれまでMIS-Cと診断された症例やコロナ感染を伴う川崎病などを詳しく調べ、ガイドラインの作成などを進めたいとしています。

新型コロナはもうすぐ5類に移行し、私たちの生活は感染拡大前に戻りつつありますが、煕榮くんのように、コロナが治っても感染後に心配な症状が出るケースも確認されています。

まずはMIS-Cについて知ってもらい、もしコロナに感染したことがあって原因不明の症状がある場合は、かかりつけ医などに相談してほしいと思います。