「空飛ぶクルマ」 もうすぐ乗れる?

「空飛ぶクルマ」 もうすぐ乗れる?
全国各地で試験飛行が行われ、最近、話題になることが多い「空飛ぶクルマ」。

“100年に1度の移動革命”とも言われ、世界で開発競争が加速しています。

でも、そもそも「車」なの?
ヘリコプターなどとの違いは?
SF映画の世界が実現するの?安全性は?
私たちの移動や生活スタイルはどう変わるのか。

「空飛ぶクルマ」の“いま”がわかる最前線からお伝えします。

Q.“空飛ぶクルマ”って、そもそも車なの?

A.“空飛ぶクルマ”は「車」ではなく「航空機」です。

「車のように日常的な移動に利用される身近な乗り物」になることを想定し、政府がこう呼ぶようになりました。

必ずしも道路を走ることが想定されているわけではないんです。

先月、国や事業者などの協議会が初めて明確にした定義がこちら。
〈“空飛ぶクルマ”の定義〉
「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」
ちょっと固い気もしますが「電動」「自動」「垂直離着陸」といった特徴のある次世代の乗り物です。

これまでにない移動が実現すると期待されているんです。

ほかにも国内外では▽「電動垂直離着陸機」を意味する『eVTOL』(イーブイトール)とか、▽「先進的な空の移動手段」という意味の英語から『AAM』(エーエーエム)などと呼ばれています。

Q.ヘリコプターとは何が違うの?

A.ポイントの1つが、ヘリコプターに比べて、ビルの屋上や街なかの駐車場といった、比較的狭いスペースの身近な場所から離着陸が期待できる点です。

国土交通省によりますと、プロペラが複数あることで態勢を維持しやすくなり、より垂直に近い形で、離着陸できる可能性があるからだということです。

「バーティポート」と呼ばれる空飛ぶクルマ専用の離着陸場が整備されることが想定されています。

もう1つのポイントは、電動化でヘリコプターより「騒音」が抑えられ、街なかでの離着陸も、受け入れられやすいと見られている点です。

ほかにも、従来の航空機より部品が少ないことで長期的には製造や整備にかかるコストが下げられたり、自動運転によってパイロットが乗らなくなったりすると、将来的に運航費用も抑えられるかもしれないそうです。

こうした特徴から、生活の中でより高い頻度で使われることが想定されているんです。

Q.いつごろ実現できる?世界や国内の動きは?

A.ヨーロッパでは来年、2024年にも実現する見通しが示されています。

例えば、ドイツの「ボロコプター」は、オリンピック・パラリンピックが行われるパリでの実現を目指しています。

今月にはドイツ南西部の都市に、組み立ての最終工程を行う工場や新しい格納庫、試験飛行を行える施設を整備するなど量産化に向けた準備を加速させています。
日本でも2月に岡山県の中小企業などで作る団体が、国の許可が必要な屋外で初めてとなる有人の試験飛行を行いました。

その後も、大阪市や愛媛県などでも相次いで人を乗せた試験飛行が行われています。

開幕まで2年を切った2025年の大阪・関西万博での実用化が目標に掲げられていて、すでに、会場と空港などを結ぶルートや、運航事業者が発表されています。
こちらは国や事業者でつくる官民協議会が先月末に示した国内での今後の見通しです。
・2023年度
 試験飛行や実証飛行 さまざまな基準の策定
・2025年ごろ
 商用運航の開始、新しい「バーティポート」やルート設置
・2020年代後半以降
 一部の都市で従来の航空機より高密度な運航を想定
 専用の空の通りみち「コリドー」を設定
・2030年代以降
 自動運航や自律運航 さらに運用が高度化される可能性
国は、実用化に向けて検討が必要になる項目として、以下のような20以上の項目を挙げています。

▼耐空性の基準
▼騒音の基準
▼離着陸場の広さや強度
▼操縦者や整備者のライセンス
▼救急用具の装備
▼飛行計画のルール
▼空港近くで飛行する際の運用 など

それが整い、この見通しどおりに進めば、私たちが「空飛ぶクルマ」に乗っている未来もそう遠くはなさそうです。

Q.料金はいくらくらいで乗れそうなの?

A.欧米ではすでに航空会社などが具体的な運航ルートを発表しています。

例えば、ニューヨークのマンハッタンと郊外のニューアーク空港を結ぶ路線は、1座席当たり100ドルとタクシーを1人で利用するなら片道の料金と同じくらいの価格設定です。

車なら渋滞時には1時間以上がかかるところを10分未満で到着するとしていて、再来年・2025年から運航をはじめるということです。

また、日本の機体メーカーでは、今月から個人向けの予約販売も開始。その価格は2億円です。

今後の見通しについて、社長はNHKの取材に次のように答えています。
「スカイドライブ」福澤知浩CEO
「日常的に空を移動できる社会を目指し、世界で最もコンパクトでどこでも止まれる機体を目標に開発を進めている。2030年ごろにはタクシーと同じくらいの価格でタクシーの5倍のスピードで飛んでいける移動を実現したい」

Q.課題は?安全性はどう確保されるの?

A.万が一墜落すれば命に関わりますし、地上の人や物への2次被害も起こりうるだけに、安全性の確保は最も大きな課題です。

量産化に向けては、設計・製造段階などの検査を通じて、国の「型式証明」を得る必要があります。

基本的には今の航空機と同じ基準で安全性が検査され、材料レベルから強度が検査されるほか、バッテリーなどの装備品については、致命的な故障の発生は極めてまれな確率にすることが求められています。

すでに日本やアメリカ、ドイツ、イギリスのメーカーが日本での実用化に向け、この型式証明を得ようと国土交通省に申請していますが、まずはこのハードルを超えられるかがカギになります。

そうして型式証明を取得して、実用化されたあとも、自動車の車検のように一定期間ごとにそれぞれの機体の安全性の検査も行われます。

また国は、「空飛ぶクルマ」は複数のモーターやローターを備えているため、プロペラの1つが止まったとしてもほかのプロペラで運航を続けられる性能が高まる可能性があるとしています。

このほか操縦や整備のライセンス制度が設けられるほか、搭乗時には乗客が保安検査を受けることになります。

安全性を担保しながら高密度の飛行を実現できるよう、将来的には空の通りみちのような「コリドー」という専用の空域の導入する方針です。

Q.安全性以外に課題は?

A.実用化に向けて課題は少なくありません。

例えば、ヘリコプターを想定したいまの制度では、高層ビルの屋上の「緊急離着陸場」の日常的な活用はできません。

周囲に建物などを設置してはいけない高さが厳しく設定されているためで、安全を担保しつつこうした制度設計をいかに「空飛ぶクルマ」の特徴を踏まえたものにしていけばいいのか、官民協議会でも議論が進められています。

また、導入に向けてはそもそも社会の人々に受け入れられるのかという点も、重要だと言われていて、専門家は次のように指摘しています。
日本政策投資銀行 岩本学 調査役
「国の『型式証明』を得ることで、いまの航空機やヘリコプターと同程度の安全性が認められることになるので、まずその取得が実用化の前提になる。ただ、空飛ぶクルマは新しい移動手段なので人々の上を実際に飛ぶことに対して心理的なハードルもある。まずは大阪・関西万博で体験する機会を提供し、その後は海の上や山間部を通るルートのほか、遊覧飛行など比較的受け入れられやすい形から導入していくことが重要だ。発展途上の技術であることや課題も正確に伝え、その地域で飛ばすことの意味や理由について住民の理解を得た上で、段階的に進めていくことが求められる」

Q.どんな機体があるの?何人乗り?

A.いま世界中でさまざまなタイプの機体が開発されています。
自分で操縦する1人乗りから、操縦士と乗る2人乗りで比較的短距離を移動するタイプ、また5人くらい乗れて長距離を移動するタイプ、そして操縦士が乗らない自動運航タイプなど。

全長5メートル以下の機体もあれば、幅が10メートルを超える機体もあります。

空飛ぶタクシーや自家用車のような利用などいろんな用途が想定されています。

国などの協議会では、プロペラや翼の形状によって大きく次の3つのタイプに分けています。

▼プロペラだけで都市内など短距離を想定したタイプ
▼プロペラと翼があり、長距離に適しているタイプ
▼同じくプロペラと翼があり離着陸時と前進するときでプロペラの向きが変わるタイプ

アメリカの団体「垂直飛行協会」によると、この3タイプだけでも、これまでに世界で600を超えるコンセプトが打ち出されてきたということです。

Q.どんな使い方が可能に?もう準備は始まっている?

A.まず都市部では、将来的に渋滞を避けながらタクシーや自家用車のように移動できる手段として想定されています。
都内の設計事務所では建物の設計も大きく変化していくとみて検討を始めています。

ビルの建築には完成まで10年単位と、長期間かかることから「空飛ぶクルマ」の導入を想定し、離着陸場を含めた設計のあり方について構想を練りはじめています。
日建設計 須賀博之さん
「これまでの建物は車とか鉄道とかすべて地上からのアプローチだけだったのが、建物の上にもエントランスがあって、そこに街との結節点ができる。建物の設計をする上でも、かなり今までとは違うノウハウが求められる」
東京・丸の内に約30棟のビルを所有する大手不動産会社では、東京駅近くの高層ビルの屋上にあるヘリコプターの「緊急離着陸場」を活用できないか検討しています。

必要な法令などが整い、この場所にバーティポートを設置できれば、ふだんは郊外の自然豊かな場所に暮らしながら「空飛ぶクルマ」で都心に通勤するような新たなライフスタイルの実現を後押しできるのではないかと考えています。

Q.地方でも活用が考えられているの?

A.「空飛ぶクルマ」は、地上の輸送手段と比べて道路や線路といったインフラを整備する費用も抑えられることや将来的にパイロットが不要になる可能性があるため、離島や山間地と都市部を結ぶ路線など地方でも活用が期待されています。
例えば瀬戸内海に面した愛媛県新居浜市。

市内にある銅鉱山の跡地がペルーのマチュピチュに似ていることから「東洋のマチュピチュ」と呼ばれ、年間5万人が訪れるなど人気を集めています。
しかし、標高750メートルのこの場所に向かうためには、駅から車で1時間余り。狭く険しい山道を登っていかなくてはなりません。

市では、空飛ぶクルマを活用できればもっと多くの人に魅力を伝えられるのではないかと考えています。

また、災害や救急救命の発生時に市内の離島に駆けつける手段としても使えるのではないかとしています。

次世代の乗り物「空飛ぶクルマ」。

安全性の確保や基準や制度作り、社会から受け入れられるかなど乗り越えなくてはならない課題は多くありますが、新たな移動が実現すれば、人口減少や交通渋滞など社会課題の解決にもつながると期待も寄せられています。

今後の開発や準備はどのように進んでいくのか、引き続き注目していきたいと思います。
社会部 記者
山下哲平
2013年入局
社会部で航空取材を担当
空飛ぶクルマでルーツがある奄美大島に行ってみたい!
ディレクター
木下義浩
2006年入局
おはよう日本で企画を制作
空飛ぶクルマで東名高速の渋滞を回避したい!