「経口中絶薬」 厚労省の分科会が了承 国内初の承認へ

人工妊娠中絶を薬で行う「経口中絶薬」について、厚生労働省の専門家による分科会は国内で初めて承認することを了承しました。
今後、厚生労働省が正式に承認の手続きを行う見通しです。

この薬はイギリスの製薬会社、ラインファーマが開発した「メフィーゴパック」です。
2種類の薬を順番に服用することで妊娠の継続を止めるもので、手術など外科的な処置をせずに人工妊娠中絶を行うことができます。

対象となるのは、妊娠9週までの妊婦です。

ことし1月、厚生労働省の専門家の部会で承認することを認める意見がまとまりましたが、慎重に議論する必要があるとして、上部の分科会で改めて議論することにしていました。

そして、21日の分科会で、慎重に取り扱うことを前提に、使用を認めることが了承されました。

具体的には、薬を投与できるのは「母体保護法指定医師」として都道府県医師会に指定を受けた医師のみに限られ、服用した人が横になる場合に備え、ベッドがある病院や診療所のみで使用が認められます。

また、入院と外来どちらでも可能としていますが、使用体制が確立されるまでの当面は、中絶が確認されるまでは院内で待機することが必須になります。

さらに薬の管理については、製造販売業者や医療機関は毎月、販売した数と使用した数を都道府県医師会に報告するなど厳格な基準が定められます。

この薬を使った国内の臨床試験では、中絶を希望する妊婦の93%が24時間以内に中絶を終え、およそ6割が腹痛などの症状を訴えたものの、ほとんどが軽症か中程度の症状だったということです。

今後、厚生労働省が正式に承認の手続きを行う見通しで、薬で中絶することが可能になります。

承認を求めてきた医師「国際的な推奨などに基づく運用に期待」

経口中絶薬の承認などを求める活動をしてきた市民団体の代表で産婦人科の遠見才希子医師は「海外から30年以上遅れてのようやくの承認だが、高額な費用や一律の入院管理などアクセスを妨げる要因があると結局、当事者が薬にたどりつくことができず、利用しづらいものになってしまうのではないかという懸念もある。国際的な推奨や科学的根拠に基づいて運用されていくことを期待したい」と話しています。

そのうえで「日本では中絶の方法だけでなく、高額な費用や配偶者の同意を要する法律、それに誤った理解から生まれる差別や偏見など課題が山積している。安全な中絶について多くの人に考えてもらいたい」と話していました。

日本産婦人科医会 石渡会長「正確に説明することが重要」

日本産婦人科医会の石渡勇会長は「手術以外に中絶薬という選択肢が増えたことを歓迎したいと思う。海外の状況を見ると今後、中絶薬と手術の割合は最終的に半々くらいまでになると思われる。薬が使えるようになることは、麻酔や手術にリスクがある人のケースで有用だと考えられる一方で、およそ10%の人は自然に排出されずに追加手術などが必要になる。中絶薬と手術、それぞれのメリットとデメリットを正確に説明することが重要だ」と話しています。

また「今後、実際に使われるようになるまでに薬に関する正しい知識の周知を進めていきたい。不適正な使用を防ぐため、国は厳重な管理運用体制の構築を進めようとしているが、医会としても不適正な使用をした医師を処分するルールの検討などを進めている」と話しています。

経口中絶薬とは

経口中絶薬は2種類の薬を飲むことで人工妊娠中絶を行うもので、イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が日本国内での臨床試験を行ったあと、厚生労働省に承認を申請していました。

投与の対象となるのは、妊娠9週までの妊婦で、ホルモンの働きを抑えて妊娠の進行を止める「ミフェプリストン」という薬を服用したあと36時間から48時間後に、子宮を収縮させる「ミソプロストール」という薬を服用します。

2種類の薬をあわせて「メフィーゴパック」という販売名となっています。

経口中絶薬は、これまで唯一の選択肢だった手術とは異なり、麻酔は必要なく、子宮を傷つけるリスクは低いとされています。

【有効性は】
国内で行われた臨床試験では、中絶を希望する妊婦120人のうち、およそ93%にあたる112人が24時間以内に中絶を終えましたが、5人は排出が確認できず、また3人は体内に一部が残り、取り出す措置が行われたということです。

【安全性・副作用は】
臨床試験で薬を服用した後に全体のおよそ58%にあたる69人が腹痛やおう吐などの症状を訴え、このうち4人に異常な子宮出血や子宮内膜炎など重い症状が出ましたが、ほとんどの人の症状は軽症か中程度だったということです。

【費用は】
人工妊娠中絶は原則として公的な保険が適用されない自由診療のため、薬による中絶にかかる費用は各医療機関が決めることになります。
日本産婦人科医会は、「薬の価格はおよそ5万円とみられ、診察料などと合わせると、10万円程度になることが予想される」としています。

【海外での普及状況は】
この経口中絶薬についてWHO=世界保健機関は安全で効果的だとして、「必須医薬品」に指定しています。
医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構によりますと、
▽ホルモンの働きを抑えて妊娠の進行を止める「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで初めて承認され、去年9月時点で65以上の国や地域で承認され、
▽子宮を収縮させる「ミソプロストール」は93以上の国や地域で承認されているということです。
フランスやイギリスなどでは、オンライン診療でも処方されているということです。

【国内での中絶方法は】
日本国内では中絶の方法はこれまで外科的な手術しかなく、
▽子宮に金属製の器具を入れてかき出す「そうは法」か、
▽柔らかいプラスチック製のチューブがついた器具などで手動で吸い取る「吸引法」、
▽または、その2つを併用する方法がとられてきました。
日本産婦人科医会が行った全国調査では2019年の時点で
▽「そうは法」と「吸引法」を併用する方法で行われた中絶の件数が全体のおよそ40%と最も多く、
▽「吸引法」がおよそ36%、
▽「そうは法」がおよそ24%となっていました。
WHOは、「そうは法」は子宮を傷つけたり、出血したりする頻度が「吸引法」の2倍から3倍と高く、女性に強い痛みを強いるなどの理由でやめるよう求めていて、薬や吸引法を推奨しています。