苦境の“貿易立国” 構造上の課題と見通しを専門家が解説

かつては10兆円を超える貿易黒字が続いていた、“貿易立国”日本。

しかし、今はそうではありません。

20日、2022年度の貿易統計が財務省から発表され、貿易赤字は20兆円を超えて過去最大となりました。

なぜこれほどの貿易赤字になったのか?

今後の日本はどうなるのか?

専門家の見解や企業の反応交え、詳しくお伝えします。

貿易赤字過去最大 その額は21兆円超

日本の2022年度の輸入額は、原油などエネルギー価格の上昇や記録的な円安もあり、120兆9550億円と過去最大となりました。

一方、輸出額は、自動車や半導体などの電子部品が伸びて、99兆2265億円とこちらも過去最大に。

しかし、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は、21兆7285億円と過去最大の赤字となりました。

赤字額は2021年度の3.9倍、過去最大だった2013年度の赤字額と比べても7兆9000億円余り多くなっています。

【専門家の分析】日本の貿易赤字の理由 この先は?

赤字は今後も続くのか?

何が課題なのか?

第一生命経済研究所の副主任エコノミスト、大柴千智さんに聞きました。

Q.貿易赤字がここまで拡大したのはなぜ?

A.要因は輸入物価の上昇だ。日本は資源を輸入に依存している。昨年度は資源価格が世界的に高騰して輸入物価が上昇。それによって輸入全体の金額が増加し、赤字が拡大した。加えて、各国が金融引き締めを加速するなかで、円安が加速したことも輸入物価の上昇につながった。この2つの要因で輸入が輸出を上回る状況が続いた。日本は資源がとれる国ではないので、エネルギーの外国依存度がどうしても高まってしまう。今後は、エネルギー効率を高めるような政策を進める必要があるだろう。また輸入物価が上がっても企業が価格に転嫁するまでに時間差が生じてしまい、企業がコストを抱える形になってしまった。それが日本の需要の回復の弱さの背景にあったと思う。

Q.日本経済が交易条件の悪化に弱いことが浮き彫りに?

中国 上海(去年4月)
A.それだけではない。貿易赤字が拡大したのは実は輸出が伸び悩んだことも要因になっている。去年の春先の中国のロックダウンやゼロコロナ政策による中国経済の落ち込み、それに欧米の景気減速の影響を受けて、輸出は数量でみるとかなり低迷していた。さらに、世界的に広まった自動車部品や半導体の供給制約で、日本の製造業が非常に打撃を受けたことも背景にはある。供給制約が原因の輸出の低迷に関しては、政府も課題として認識している。供給網強化に向けた対応を引き続き進めていかなければならない。

Q.貿易赤字はこの先も続く?

A.赤字からの脱却は難しい状況が続くだろう。足元では資源高の影響や円安の進行にも一服感が見られるので、輸入物価の上昇の勢いは鈍化してきた。ただ輸出に関しては、当面はアメリカやヨーロッパを中心とした海外経済の減速の影響で、低迷が続くと予想される。輸入・輸出とも減少していく状況では高水準の赤字がしばらくは続くことになり、今年度も貿易赤字となる可能性が高い。

Q.企業には何が求められる?

A.貿易赤字は輸入物価の上昇を輸出でカバーできなかった結果だが、重要なのは、調達先や販路を1点集中したり、局地集中したりするのを避けることだ。それぞれの企業が幅広い生産網や調達先、そして販路を見いだすことが大事だ。リスクを分散することで交易条件の変化に強い構造にしていくことが求められる。

Q.日本経済は貿易赤字に陥りやすい構造 どう対応?

A.企業の動向をみると、国内の製造業はデジタル化や脱炭素・グリーン化に対して設備投資の意欲が非常に旺盛だ。重要なのはデジタル化、グリーン化が進んだあとに日本企業が国際的な競争力を持った製品を作れるかどうかだ。競争力のある生産能力や製品をどれだけ持てるかが、輸出の強化にもつながる。ここで失敗すれば輸出のさらなる低下にもつながってしまうので、企業の努力はもちろん、政府の政策的な対応も求められるだろう。

原材料費高騰 自社ブランドで打開へ

貿易赤字の要因となっている原油価格の上昇はエネルギーだけでなく原材料の値上がりにもつながっています。

東京 墨田区に本社があるアパレルメーカーも仕入れ価格の上昇に頭を悩ませています。
従業員40人ほどのこの会社は、岩手県一関市にある縫製工場で、Tシャツやズボンなどを製造しています。

売り上げの9割は大手ブランドを手がける企業からの受注が占めていますが、生地は自前で調達しなければなりません。

主に使っている生地の仕入れ価格は、この1年で2割ほど上昇したということです。
原油からつくられたポリエステルだけでなく綿などの価格高騰に加えて、生地メーカーの電気代や人件費の上昇が影響しているということです。

新型コロナの感染拡大で落ち込んでいた受注はこのところ回復しているものの、コストの増加分すべてを価格に転嫁することは難しく、会社の利益率はコロナ禍前と比べて1割ほど下がったということです。
こうした中、この会社が力を入れているのが、和紙を使ったオリジナル製品です。

和紙をより合わせた糸を使った繊維100%のTシャツなどを自前のブランドで製造・販売する事業に力を入れています。

湿度を調整する機能にすぐれているとして、安いものでも1万円近くしますが、環境意識の高まりもあって注文が増えているということです。

請け負いの製品に比べて利益率が高く、会社は、この事業を新たな収益の柱にすることを目指しています。
「和興」の國分博史社長は「服飾資材のすべてが値上がりしていて、利益をあげるのが非常に難しくなっている。自社で製品を作って自社で売れば利益率が高いことは間違いないので、大切な事業の1つに育てていきたい」と話しています。

光熱費に苦しむ製茶企業 海外販路拡大に活路

日本茶の製造・販売を手がける静岡市の企業では、生産工程で大型の機械を使うため「光熱費」の負担増が利益を圧迫していて、海外への販路拡大に活路を見いだそうとしています。
この会社では、茶葉を大きさごとに仕分けたり、乾燥させたりする際に大型の機械を導入していて、多くの電気やガスを使います。

2022年度の「光熱費」は前の年度と比べておよそ1.3倍になり、このうち「電気代」は700万円から900万円にふくらんだということです。

こうした中、会社では、お茶の国内市場が縮小傾向にあるとして海外への販路拡大に活路を見いだそうと、ヨーロッパなどへの売り込みを図っています。
18日は一番茶の本格的な収穫を前にした静岡県袋井市の生産農家にフランスの飲料メーカーの担当者を招き、茶畑の見学や試飲をしてもらい日本茶をPRしました。

フランスの飲料メーカーの担当者は「日本茶は最近、フランスで人気があり、特に抹茶がSNSで話題になっています。数年後にはさらに人気が出ると思います」と話していました。

「丸善製茶」の古橋克俊社長は「光熱費の負担増は利益を圧迫していて厳しい状況だ。海外ではお茶の市場が年々拡大しているので、ヨーロッパや中東の市場に積極的に挑戦したい」と話していました。