ビジネス

どっちが肉でしょう?

「培養肉」を知ってますか?

牛やニワトリなど、家畜の細胞を培養して作ります。
動物を殺すことなく肉を作り出す技術で、人口増加に伴う食料問題を解決する可能性があるなどとして注目され、世界中で研究や開発が加速しています。

2年後の大阪・関西万博では、和牛の「培養肉」を私たちも味わうことができるかもしれません。

(大阪放送局 記者 中本史)

はじめてのやきにく

4月上旬の大阪大学の研究室。
香ばしいかおりが漂っています。
集まった人が目をこらすのは、鉄板の上で焼ける1センチ四方の小さな肉片。
裏返すと「おー!」という歓声が。
おいしそうな焼き色がついていました。
和牛の細胞から培養肉をつくる研究を進めているのは大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授らの研究グループ。

歓声が上がるのも無理はありません。
培養肉を初めて焼くところまでこぎ着けたのです。
研究段階のため、まだ食べることはできません。

交代で小さな肉の載った皿を顔に近づけて、見た目の変化や香りを確かめます。
人の感覚に頼るだけでなく、焼いた肉の成分を特殊な検査機器で分析。
すると、和牛の持つ甘い香りの成分が、本物の肉と同じような割合で検出されました。
松崎教授は「見ただけでも、焼き目が肉のよう。香りについても、本物の肉と同じ特徴を持つことが検査で証明され、いい結果でよかった」と満足そうでした。

2年後の大阪・関西万博で来場者に試食を提供しようと、急ピッチで研究を進めています。和牛の細胞からつくった培養肉の試食が実現すれば、日本で初めてです。

培養肉はなぜ注目されるの?

培養肉は環境にやさしく、持続可能な食材になると期待が高まっています。

人口増加などにより世界的に食肉の需要は高まっていますが、食肉の生産には広い土地や大量の飼料などが必要となるうえ、家畜が出す温室効果ガスの問題も指摘されています。

仮に大量生産できるようになれば、こうした問題が解決する可能性があり、世界中の研究機関や企業が開発競争を繰り広げているのです。

目指すのは和牛

その培養肉。家畜から細胞を採取し、培養して作ります。
世界でつくられている培養肉はミンチ状が主流です。
細胞がそれぞれ育ち、まとまりはありません。

これに対して、松崎教授が目指すのは霜降り和牛のステーキ肉の再現。
筋肉や、脂肪、血管など、肉を構成する部位をそれぞれ培養し、ステーキ肉として立体的にまとめます。

おいしくするカギは、牛肉独特の食感を生み出す“繊維質”です。

量産化を急ピッチ

そこで活用するのが3Dプリンター。
特殊なジェルに、細いノズルから筋肉の細胞を押し出します。

2週間たつと、細胞がつながって直径0.5ミリの細長い繊維になります。
脂肪や血管の繊維も別々につくります。

霜降り和牛の実際の断面をみてみると、筋肉や脂肪、血管といった異なる繊維組織が集まっています。
これをデータ化して設計図を作り、この図面どおりに、それぞれの繊維組織を積み重ねていきます。
今は手作業のため、1~2時間かけてもできるのはおよそ1センチ四方。

万博で試食として提供するには、1辺5センチほどの大きさが必要だといいます。

大量生産するために

大手分析機器メーカーは、量産化を実現する「3Dバイオプリンター」の開発を急ピッチで進めています。
これまで1本だけだったノズルの数を増やし、細胞の繊維を同時に数多く作り出します。

さらに手作業で行っている、繊維の組み立てを自動で行う装置も設計段階にまでたどりつきました。
島津製作所の開発担当者山本林太郎さんは「この技術、なんとか2年でもっていけると思います。ぜひとも未来に向けて、新しい食卓を飾る肉を作りたいと思っています」と意気込みを話していました。

課題は安全性

万博で来場者に食べてもらうために、最も重要な課題が、安全性です。

培養肉の製造や販売についてのルール作りの議論は、国レベルでも始まったばかりです。
そもそも肉なのか加工食品なのか、そこからのスタートです。
培養肉の安全性をどのように確認すればいいのか専門家も交えて議論を重ねています。

世界で培養肉の販売が認められているのはシンガポールだけ。
現地のルールや制度についても参考にします。

出席者からは、万博までの短期間で国のルールが整備されることは期待できないとの指摘も上がり、松崎教授らは、製造の過程や使用する薬品の公表など、透明性の高い安全基準を独自に設ける方向で議論を進めています。

松崎教授が描く「未来の食卓」

大阪・関西万博のテーマでもある「未来社会」。

松崎教授が思い描く未来の食卓は、一家に一台、家電として“培養肉製造機”が置かれること。

もとになる細胞はスーパーで買い、製造機にセットすると、松阪牛風とか、近江牛風といったように、テーラーメイドの肉が家庭の食卓で食べられるというものです。

万博では、そうした未来の姿が思い描けるような展示をしたいと話しています。
松崎教授は「万博では、2050年の将来の食生活がどう変わるかということを皆様に見ていただいて、将来、こんなにおもしろい未来があるのだなとワクワクするようなものを感じていただけると非常にうれしいですね」と話していました。

取材を通して、研究者や技術者の皆さんが新しい未来の生活をつくろうと目を輝かせて開発に取り組む姿が印象的でした。

日本での普及はまだまだ先になりそうですが、2年後の万博会場での試食に向けた挑戦を引き続き、追っていきたいと思います。

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