ウクライナ高官ら 東日本大震災被災地視察 “農業復興参考に”

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで農業などを担当している政府の高官らが仙台市を訪れ、東日本大震災から復興した農業の現場を視察しました。高官は、「非常に高い技術で復興を成し遂げた」としてウクライナの農業を復興させる上で日本の取り組みを参考にしたいという考えを示しました。

世界有数の小麦の産地であるウクライナでは、ロシアによる軍事侵攻で多くの農地や水利施設が攻撃されるなど、農業分野の復旧や復興も大きな課題となっています。

今月16日から来日しているウクライナ農業食料省の高官など6人は、東日本大震災の被災地での復興の取り組みを学ぶため18日、仙台市を訪れました。

一行は、復旧した農地や農業用水の排水機場を視察したあと、地元の農業者と意見を交わしました。

農業者からは、震災直後は多くの農家が農業をやめ、地域産業としての農業を復興させる難しさを語りました。

これに対して、ウクライナ側からは▽被災した農家が行政からどのような支援を受けたかや▽農業の経営がどう変わったかなどを質問していました。

視察団を率いるウクライナ農業食料省のドミトラセビッチ次官は取材に対して、被災地では水利施設などの農業施設がどのように復旧したかに関心を持ったとした上で「非常に高い技術で復興を成し遂げたという印象を受けた」と述べました。

そして「水利のシステムや管理などの取り組みについて、重要な情報も得ることができた」と述べ、高い技術力を生かすとともに、行政と農業者が一体となって復興を進めた日本の取り組みを参考にしたいという考えを示しました。

ロシア軍による攻撃で農業分野にも大きな被害

世界有数の穀物の輸出国であるウクライナでは、ロシア軍による攻撃で農業分野にも大きな被害が出ています。

ウクライナの農業食料省によりますと、ロシア軍による攻撃で農業用機械や穀物の倉庫、水利施設などが破壊され農業が続けられないケースが多いということです。

世界銀行は先月公表した報告書で、ウクライナの農業分野での被害は87億2000万ドル、日本円にして1兆1000億円余りにのぼるという推計を明らかにしています。

さらに、ウクライナではロシア軍が農地や林道に埋めた地雷で市民が被害にあうケースもあとを絶ちません。

これについてイギリス国防省も17日、「ロシアが以前に占領していた地域では地雷による市民の被害が連日、報告されている。春の訪れとともに農作業をする人も増え、市民へのリスクは増すだろう」としたうえで、ウクライナからすべての地雷を除去するには少なくとも10年はかかると分析しています。

日本からはこれまでにウクライナへの農業分野の支援として▽地雷の除去や▽被害を受けた農家に対する農作物の種の提供、それに▽穀物の保管施設の供与などを行っていて、日本政府は今後も農業の復興に向けた支援を継続したいとしています。

農家 十分な作付けできず 苦しい経営状況続く

ウクライナでは、春小麦などの農作物が種まきの季節を迎えていますが、ロシア軍の侵攻で被害を受けた農家は、十分な作付けを行うことができず、苦しい経営状況が続いています。

このうち軍事侵攻当初にロシア軍に一時占拠された首都キーウ近郊のブチャの周辺で農場を経営するペトロ・ホロデンコさん(65)は、倉庫をロシア軍に破壊された上、保管していた農機具も略奪されたり壊されたりするなどして、およそ125万ドル、日本円にして1億6000万円余りの被害を被ったということです。

さらに、種麦や肥料の価格が高騰している上、銀行から新たな資金調達もできなかったため、ことし用意できた小麦の種麦は、例年の半分以下の量だということです。

このため、この春に作付けできる面積は、全体でおよそ500ヘクタールある畑のうち、およそ120ヘクタールと、4分の1以下にとどまる見込みで、広い範囲が今も耕されないままになっています。

ホロデンコさんは「ロシア軍は、私の農場経営を破壊しました。新しい農機具を買うのは難しいため、古い機械を修理して使おうとしていますが、再び自分の足で立ち上がるには資金面や技術面での助けが必要で、日本など支援が可能なすべての国に助けてほしいです」と話していました。

ロシア軍が畑に残した地雷や弾薬 復興の障害に

農業の復興を進める上で障害の1つとなっているのが、ロシア軍が一時占拠した地域で畑などに残していった地雷や弾薬などの爆発物の存在です。

ウクライナのレズニコフ国防相は今月10日、国内に残るこうした爆発物をすべて除去するには、およそ30年かかる可能性もあるという見通しを示しました。

首都キーウの近郊では13日、地元の警察がこれまでに回収した地雷などを爆破処理する様子を公開しました。

警察によりますと、これまでにキーウ周辺だけでおよそ1800ヘクタールの土地で地雷などの除去を終えたものの、今も畑や森などからロシア軍が残した爆発物が見つかることが頻繁にあるということで、農家などに注意を促しました。

警察の担当者は「これまでに膨大な量の爆発物を処理してきたが今も毎日のように見つかり、人々が巻き込まれる不幸が起きている。対応できる要員を育てるには時間も費用もかかり、人数が足りていない上、必要な機器も不十分だ」と述べて、国際社会への支援を求めました。