なぜ日本企業はアクティビストに狙われるのか?

なぜ日本企業はアクティビストに狙われるのか?
セブン&アイHD、東芝、サッポロHD、大日本印刷、フジテック…。

およそ20年前、“モノ言う株主”として日本企業を相手に敵対的買収を繰り広げてきた「アクティビスト」と呼ばれる投資家の活動が再び日本企業をターゲットにしています。

なぜいま、日本企業はアクティビストに狙われるのでしょうか?

(経済部記者 嶋井健太/大津局記者 光成壮)

アクティビストの要求に変化が

アクティビストといえば、「事業への理解が浅く経営には関心が無い」「短期的な利益を追求し、利益を得るとすぐに売り抜ける」といったイメージが強いのではないでしょうか。

ところが、いま日本企業に対して活動をするアクティビストは様変わりしているというのが取材を通じた実感です。

ひとつの事例を見ますと、滋賀県に本社があるエレベーターメーカー「フジテック」に対して要求を繰り返している香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」。

例えば次のような内容です。
当時の社外取締役について、「コーポレートガバナンス上求められている役割を果たしていない」などとして交代を求めました。

強すぎる創業家の社長が権限を超えて影響力を及ぼしている状況や、社外取締役が形骸化している点を問題視したのです。
2回にわたる株主総会を経て、社長は交代し、現在は、取締役会の半数をオアシスが提案した人物が占めています。

ほかの株主からの賛同も得てオアシスの要求がほぼ実現した形です。

次々にファンド側が優勢な流れになっていく様子を見ると、日本企業のガバナンスをめぐる大きな転換点を迎えていると感じました。

アクティビストは日本企業の何を見ているのか

日本企業のガバナンス(企業統治)をどう見ているのか、オアシスを率いるセス・フィッシャー最高投資責任者を取材しました。
オアシス・マネジメント セス・フィッシャー 最高投資責任者
「企業価値を改善できるか否かはガバナンスによるところが大きいと思う。100%常にそうとは限らないが大半のケースはガバナンスによるのではないかと思っている」
企業ごとに状況は異なると前置きしつつ、セス氏は日本企業に見られるガバナンスの課題について次のような点を指摘しました。
・取締役会の人事権が機能していない
・取締役の独立性、多様性、業界への理解不足
・新しいビジネスに消極的
セス氏は、インタビューのなかで、会社から真に独立し、業界での専門性や財務に関する知識を兼ね備えた「新しい世代の取締役」が必要だと強調しました。

たしかに、そうした課題はこれまでも日本企業に対して指摘されてきた点です。

日本企業では、経営トップに権限が集中し、社外取締役をはじめとする取締役会の機能が形骸化していることは“日本型コーポレートガバナンス”とも指摘されてきました。

それが最近はお飾りのように受け取られがちだった“社外取締役”にも、積極的な役割が期待され、不適格と見なされれば解任もされる重い責任があるとみなされるようになったのです。

セス氏は、日本企業がいまだに抱えるガバナンスの課題が、日本でアクティビストが活動する余地を残していると指摘しました。
セス・フィッシャー氏
「日本においては、ガバナンスの問題を抱えている企業もたくさんあると思っているし、私たちがヘルプできる企業もたくさんあると思っている。日本の企業が継続してパフォーマンスを上げ、改善を図ろうとしている限り、多くのグローバルの投資家の目に触れることになり注目されると思う」

日本の投資家も変化している

アクティビストが建設的な提案をするようになっても、持っている株式は数%にとどまることがほとんどです。

にもかかわらず、株主総会でほかの株主からの賛同が得られるようになったのには、日本の投資家自身の変化もありそうです。

2014年には、機関投資家に対して投資先企業の経営者と積極的に対話し経営改善を促すよう求める「スチュワードシップ・コード」、2015年には経営の透明性を高めることを求める「コーポレートガバナンス・コード」がそれぞれ策定されました。
アクティビストに限らず、投資家に「モノを言うこと」を求め、企業にも「モノを聞くこと」を求めるようになりました。セス氏も日本での投資家の変化について指摘します。
セス・フィッシャー氏
「私たち自身に変化があったかどうか定かではない。しかし、日本の投資家全体については継続して変化していると思う。ガバナンスについてはどんどん理解が深まっているし、会社の提案に盲目的に賛成するのではなく、内容をきちんと吟味して投票するようになったと感じている。以前より日本の株主ベース全体がよりアクティブになってきたと思う」

日本は“良質な市場”

“しゃんしゃん総会”とも呼ばれたかつての日本企業の株主総会に対する向き合い方は、もはや通用しなくなっているように感じます。

アクティビストたちは日本の制度や社会の変化に機敏に対応し、いわば進化を続けてきたとも言えます。

世界の中で見ても、日本はアクティビストにとって“良質な市場”になっているとも指摘されています。

それは、世界の潮流と進化に日本企業が取り残されつつあることを意味しています。
経済部記者
嶋井 健太
2012年入局
宮崎局、盛岡局を経て現所属
電機担当
大津放送局記者
光成 壮
2017年入局
初任地の盛岡局を経て現所属