米機密文書 ”軍の基地に勤務の20代男性が流出” 米有力紙

アメリカ政府の機密文書が流出した問題をめぐり、有力紙、ワシントン・ポストは、文書を流出させたのは、アメリカ軍の基地に勤務する20代の男性だと報じました。

ワシントン・ポストは12日、「ディスコード」というオンライン・サービス上につくられた招待制のおよそ20人から成るチャット・グループのメンバーの話を伝えました。

それによりますと、「OG」と呼ばれるメンバーの1人が去年からアメリカ政府の機密文書の情報を投稿するようになったということです。
「OG」と呼ばれる人物は、アメリカ軍の基地に勤務する熱狂的な銃の愛好家の20代の男性で、みずからは「携帯電話やほかの電子機器の使用が禁止されている施設内で働いている」と主張していたということです。

また、この男性は当初、機密文書の内容を転載する形で投稿していましたが、その後、文書そのものを撮影した画像を投稿するようになったということです。

いくつかの画像の背景には、男性がメンバーとのビデオ通話の際に使用していたと見られる部屋の家具などが映っていたということで、ワシントン・ポストは「捜査当局が男性を特定する上で、重要な手がかりになる可能性がある」と伝えています。

また、この男性は、ロシアとウクライナのいずれかに肩入れすることはなかったものの、アメリカの司法当局や情報機関については、市民を抑圧する邪悪な勢力だと見なしていたということです。

この男性は、ここ数日取り乱した様子だったということで、機密文書の画像も含めて自身につながる可能性があるすべての情報を削除するようチャット・グループのメンバーに求めたということです。

一方、ワシントン・ポストは、これまでのところ、司法当局は、取材に応じたグループのメンバーには接触していないと伝えています。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は13日、記者会見で文書の流出をめぐるワシントン・ポストの報道について問われたのに対し「司法省の捜査が続いている。ワシントン・ポストのその報道についてはコメントしない」と述べました。

その上でジャンピエール報道官は「国防総省は機密情報へのアクセスについてさらに厳しくする措置をとった」などと述べ、さらなる情報の流出が起きないよう適切に対応していると強調しました。

ウクライナ関連の複数の情報が流出

アメリカの複数のメディアは、SNS上に流出したとされる文書は、およそ100に上るとした上で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関する複数の文書も含まれていると報じています。
有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は、ことし2月28日付けの文書にはウクライナ軍が主力の防空システムとして使用している地対空ミサイルシステム「S300」と「ブーク」の迎撃ミサイルの使用状況についての情報が含まれていたと報じました。

文書には、「ウクライナ軍がこのままのペースで迎撃ミサイルを使用した場合、S300のミサイルは5月3日までに、ブークのミサイルは4月中旬までに枯渇すると分析している」と記されていたとしています。
さらに別の文書には、1月から4月にかけてのウクライナ軍への訓練計画などが含まれていました。

この文書には、編成中の部隊についての概要が記載されていて、アメリカやほかのNATO加盟国の訓練を受けている9つの部隊のうち、6つについては、3月末までに、残りについては、4月末までに訓練が終わることなどが記されていました。

そして、9つの部隊には、戦車250両以上などが必要だと指摘しています。
このほか、別の文書には、戦死者数の情報も含まれていたとした上で、その中では、▽ロシア軍が1万6000から1万7500人、▽ウクライナ軍が7万1500人と推定されていると伝えています。

ただ、ロシア軍の戦死者は少なく、ウクライナ軍は多く見積もられ文書が改ざんされた可能性があるとの専門家の見方も伝えています。

有力紙「ワシントン・ポスト」は、「最高機密」と記された2月上旬の文書では、ウクライナ軍の戦力不足が指摘され、春の反転攻勢について、「領土の奪還はわずかにとどまる」との見方が含まれていたと伝えています。

同盟国や友好国にも諜報活動か

アメリカのメディアは、文書の中にアメリカが同盟国や友好国に対しても諜報活動を行っていることをうかがわせる内容が含まれていると報じています。
このうち有力紙ニューヨーク・タイムズはウクライナへの軍事支援をめぐり、アメリカが韓国政府内の通信を傍受した情報に基づく文書の存在を伝えました。

文書では政府高官のやりとりから、韓国側がバイデン大統領からウクライナへの砲弾の提供を支援するよう直接要請されるのを懸念していたことを把握していたとしています。

これについて韓国大統領府は米韓の国防相による電話会談の結果として「該当する文書のかなりの数が偽造されたものだという見解でアメリカと一致した」と説明しています。
また有力紙ワシントン・ポストはイスラエルに関する文書でイスラエルの情報機関「モサド」の幹部が、ネタニヤフ政権が進める司法制度改革に抗議するようモサドの職員や国民に促していたとする内容が書かれていたと報じました。

さらにエジプトに関する2月17日付けの文書ではエジプトのシシ大統領がロシア向けに、最大4万発のロケット弾を生産するよう部下に命じたとする記述があったということです。

文書はシシ大統領とエジプト軍の幹部が会話したとされる内容をまとめたもので、ロシアに砲弾や火薬を供給する計画にも言及していたということです。

またシシ大統領は西側諸国との問題を避けるためロケット弾の製造と出荷は秘密にするように当局者に指示していたとしています。

これについてアメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者団に対し、文書が本物かどうかについて回答を避けた上で「エジプトがロシアに殺傷能力のある武器を提供している兆候は見られない」と述べました。

米司法省元高官「ここ数年で最も深刻」

CIAの元職員、エドワード・スノーデン氏の情報漏えい事件など、かずかずの事件の捜査に関わってきたアメリカ司法省の元高官、ブランドン・バングラック氏がインタビューに応じました。

今回の情報漏えいについて「今まさに起きている、国の安全保障や外交に関わる問題に非常に絞り込んで漏えいされた」と述べ、「ここ数年でもっとも深刻だ」と指摘しました。

そして、「重要なのは、どの国がどれだけの弾薬を持ち、どこに弱点があるか、といった情報が漏えいしたことだけではなく、今回の文書に含まれる情報が極秘の収集手段や情報源によってもたらされたということだ。情報を漏えいした人物はアメリカの情報収集のメカニズムを傷つけた可能性がある」と述べ、今後、アメリカが機微に触れる情報を得ることが難しくなるおそれがあるとの認識を示しました。

さらに「われわれは今、ウクライナでの戦争や、さまざまな地政学上の問題に直面した、とても敏感な時期にある。こうした漏えいが起きると、ほかの国々は、漏えい元が特定されるまで、情報の共有に前向きではなくなり、国家間の関係にも影響を及ぼすことになる」と指摘しました。

そのうえで、「情報漏えいの脅威は依然として存在する。われわれは、少なくともおおやけには、誰がやったのか、漏えいした人物は今も情報にアクセスできるのか、新たな漏えいがあるのかわかっていない。だからこそアメリカ政府は、このことに最優先に取り組んでいる」と述べました。