小さくなって生き残る 地方百貨店の戦略

小さくなって生き残る 地方百貨店の戦略
人口減少やインターネット販売の普及などを背景に、百貨店の閉店が相次いでいます。

「百貨店の時代は終わった」

そんな声も聞こえる中、ある百貨店が生き残りをかけて選んだ道は、店舗を“縮小”し、”移転”するというものでした。その戦略の狙いとは?
(甲府放送局記者 飯田章彦)

老舗百貨店 売り場面積4分の1に

ことし2月14日。

山梨県甲府市のにぎわいのシンボルともいえる百貨店の岡島は、180年の歴史をつないできた8フロアある店舗を閉館しました。
建物の老朽化が進んでいたことに加え、新型コロナの感染拡大で売り上げの減少が続くなど、厳しい経営環境が続く中で下された決定でした。

生き残りをかけて選んだ道は、店舗の「移転」、そして売り場面積の大幅な「縮小」です。

移転先の商業ビルは、2010年に完成した地上20階建てのビル。

居住区域などを除いた8フロアには、飲食店や衣料品販売店などが入居していて、岡島はこのうちの3フロアに出店しました。
移転によって、売り場面積は一気に4分の1まで減りました。

この決断を下したのは、岡島の雨宮潔社長です。

東京の大手百貨店で働いた手腕などをかわれ、5年前の2018年5月、立て直しのために社長に就任しました。
岡島 雨宮潔社長
「どんな時代になっても、百貨店が果たすべき役割を果たせるようなソフトとハードに変えていきたかった」

百貨店 冬の時代

岡島は、180年前の江戸時代に呉服屋として創業し、昭和11年に百貨店として営業を開始しました。

昭和20年の甲府空襲でも消失を免れ、焼け野原となった甲府の復興の象徴として、いち早く営業を再開し、かつては大勢の客でにぎわいました。
しかし、百貨店は冬の時代に入ります。

郊外型ショッピングセンターの増加などを背景に全国で閉店が相次ぎ、この10年でその数は4分の1にまで減少しました。

かつて甲府駅前には3つの百貨店がありましたが、現在残るのは岡島だけです。

百貨店にとって、幅広い品ぞろえを可能にする売り場の「広さ」は、大きな強みとも言えます。

にも関わらず、なぜ、あえて捨てたのか?

コロナ禍の経験 決断後押し

思い切った決断を後押ししたのは、コロナ禍での経験でした。

経営の再建を期待されて就任した雨宮社長ですが、就任直後にまさかの新型コロナウイルスの感染拡大。

売り上げが大幅に減少するなど、先行きが見えないなかで可能性を見いだしたのが、地域を支援する企画でした。

宿泊客の減ったホテルをサポートするため、ホテルの味が楽しめるお弁当を販売したり、成人式が出来ないなかで、新成人の写真展をしたりしました。

その結果、岡島はコロナの影響を受けながらも、2期連続で黒字を達成することができたのです。
雨宮社長
「自分にジャストフィットするものをより貪欲に見つけたいということが、コロナ禍でも非常に多く見受けられたし、そこにお応えしたことが百貨店の使命として果たせた重要な役割だった。

必要最小限の面積であれば、また新しい形の百貨店像が作れると確信した」

目指す新しい売り場とは?

売り場面積は4分の1になった岡島。

テナントの数はおよそ150から75に一気に減りましたが、百貨店にしか扱えないハイグレードなブランドを厳選。

百貨店ならではの「何でもそろう」から「売れ筋」に絞った商品展開を目指しています。

小さくても徹底的に顧客のニーズに応え、地元と一緒に作り上げる“地域共創型スペシャリティストア”というコンセプトを掲げています。
売り場がコンパクトになったことで、光熱費などの固定費も削減されました。

売り上げは、以前の店舗の6割程度を目指すとしています。

力を入れている取り組みの1つが、県内の名産品の掘り起こしです。

百貨店の売り場を生かしてその魅力を発信し、地域経済の活性化の役割を担っていく狙いです。

この日訪れたのは、県内にある伝統的な織物で傘を作っているメーカーです。
地域の伝統的な絹織物である甲斐絹と印伝を持ち手に使った美しい傘を、オープンに合わせて出店してもらうことになりました。

地元に密着した百貨店になるためには、顧客からの意見を取り入れることも欠かせません。

外商と呼ばれる顧客回りをする担当者を集めて、新たな戦略も検討しました。
外商担当
「やっぱりお客様からはファッション関係の店が少なくなってしまうのではとの不安の声が出ています」
縮小する店舗に対する不安の声にどう応え、いかに顧客の満足度を高めるのか。

顧客が求める生の声を聞くため、社長みずから外商担当と顧客のもとを訪ねています。

取材に訪れた日、顧客の女性からは「銀座のおいしいスイーツや食料品を利用できたら」という声が寄せられていました。

各階にプロモーションエリア

こうした顧客の声を生かすため、週替わりでニーズが高い商品を柔軟に販売できるプロモーションエリアを各フロアに設けました。
このスペースを活用し、流行の商品や、顧客が求めるブランドやスイーツを販売するイベントを次々と開催するなどして、より新鮮味のある店づくりを目指していく計画です。
雨宮社長
「百貨店の新しい姿を作るには自分たちの既存の概念を壊さなければいけない。地元の声をゼロベースで聞き、小さくなった店舗でも、新たな山梨の消費を生み出す一方的に百貨店が品ぞろえするのではなく、ご要望をしっかりと聞きながら甲府ならではの消費文化を作り上げたい。十分、百貨店の存在意義につながると思います」

地方百貨店の新モデルとなるか

今回の取材を通じて、戦後、経済が成長し続ける中で生まれた百貨店というビジネスモデルを、先が見えない縮小経済の中で、百貨店みずからが壊す挑戦に新たな光を見た気がしました。

“百貨店の時代は終わった”といわれて久しいですが、岡島が目指す新しい百貨店の形は、新たな時代の地方百貨店のモデルとなるのではないかと感じました。

進化し続けるために、身の丈にあった姿で、時代が求める百貨店を模索する会社の挑戦をこれからも見続けたいと思います。
甲府放送局記者
飯田章彦
2004年入局去年11月から甲府局
基幹産業のワインや宝石などの経済取材
生活困窮者の支援の取り組みなど取材