【解説】ウクライナ 大規模反転攻勢は? 軍事面から読み解く

世界最強の主力戦車とされる「レオパルト2」。
欧米が初めて供与した戦闘機「ミグ29」。

国外での訓練を終えた兵士たちも次々と戦地に戻るウクライナ軍。反転攻勢の大規模作戦は発動されるのか。

重要局面を迎えつつあるウクライナ情勢を軍事面から、国際安全保障担当の津屋尚 解説委員が解説します。
(動画は9分31秒。データ放送ではご覧になれません)

Q.欧米供与の兵器がウクライナに到着 大規模な反転攻勢は?

A.作戦がいつ始まるかその正確な答えはまさに軍事機密だが、天候など条件がそろえば、いつ始まってもおかしくはないとの見方がある一方で、十分な態勢はまだ整っていないとの見方もある。

ウクライナ軍としては、バフムトなどでロシアの猛攻に耐え続けている中で早く反転攻勢に出たい。

後になればなるほど、消耗したロシア軍が戦力を回復してしまうとの思いはあるだろう。

しかし、アメリカの機密文書がネット上に大量に流出してウクライナ軍の戦力に関する情報が暴露されたことが作戦の開始時期に影響するかもしれない。

さらに、レオパルト2の数はまだ十分とは言えないし、大規模な作戦には「陸と空」の戦力が一体となった作戦の能力が必要だが、そのための訓練は十分ではないのではないかと、専門家は指摘している。

Q.陸と空が一体となった作戦 詳細は?

A.戦車は空からの攻撃にぜい弱。

戦車が前進するには、空からの脅威を取り除いていわゆる「制空権」をとった状態にする必要がある。

そのためには、相手の航空機やミサイルを排除してくれる戦闘機や地対空ミサイルなどの援護が必要。

つまり陸と空のさまざまな部隊が一体となって作戦を行う。

通常なら長い間、訓練を重ねてその能力を獲得していくが、今回は、急ごしらえでどこまでできるかという不安はあると思う。
一方、激戦が続くバフムトをめぐっては、ここを死守するより次の作戦に戦力を温存したほうがよいという見方があったが、ゼレンスキー大統領は先週、戦況が厳しくなれば撤退する可能性を示唆する発言をした。

もしウクライナ軍がバフムトから撤退することになれば、それは次の作戦に向かう一つのタイミングかもしれない。

Q.到着した主力戦車 その性能は?

A.レオパルト2など欧米の戦車は、ロシアの旧型の戦車に比べて、「防御力」や「射撃の正確さ」などの強みがあるが、最も大きな違いは、コンピューター制御によってさまざまな操作が自動化されていること。

それによって、相手が撃ってくる前に素早く相手を撃破できる。

そして、戦車は単独ではなく、他の戦闘車両とともに大きな部隊を編成して戦う。

流出した機密文書が正しいとすれば、ウクライナ軍は9つの旅団を編成する。

1旅団が5,000人と見積もると、4万人規模の非常に大きな部隊になる。

この部隊には戦車250両以上と装甲車など350両以上が含まれ、多くは3月31日までに、残りも4月30日までに戦闘態勢が整うということだ。

Q.欧米が供与した戦闘機や兵器 その性能は?

A.欧米が供与した初めての戦闘機は、ウクライナが求めていたアメリカのF16戦闘機ではなく、旧ソビエト製のミグ29。

F16だと1年以上の訓練が必要なので即戦力にはなりえないが、ミグ29なら、能力は劣るけれど、ウクライナ軍も使っているので、すぐに実戦に投入できる利点がある。

戦車などの地上部隊の進軍を支援することが主な任務だとみられる。

もう一つ注目されるのが、長射程の兵器を使った攻撃。
例えば、アメリカが供与する「GLSDB」というロケット弾は射程が150kmと、供与された兵器の最大射程がこれまでのほぼ倍になる。

そして先ほどのミグ29も、実は、長射程の攻撃に使われることになりそうだ。

本来互換性がなかった、射程200km以上の欧米の巡航ミサイルを搭載できるようひそかに改良が行われたとの情報がある。

これを使えば、これまで以上に遠くにある標的、例えば、クリミア半島に点在するロシア軍の拠点などの攻撃も技術的には可能になる。

Q.反転攻勢の作戦 どこから始まる?

A.戦場は1,000kmにも及ぶ長大な戦線だが、このうち、特定のエリアに戦力を集中させて突破を図るのではないか。

最初に攻撃をするのは、ザポリージャ州やヘルソン州など南部が有力視されている。

その理由は、ロシア軍の戦力が東部より手薄なこと。

黒海に面して戦略的価値が高いこと。

そして、奪還を目指すクリミア半島への足がかりになること。

ザポリージャ州のメリトポリでは最近、飛行場や鉄道駅などへで爆発があった。

これらはウクライナ軍による反転攻勢への地ならしの攻撃の可能性がある。

Q.ロシアはどう出ると見られるか?

A.プーチン大統領は、3月中にドネツク州全域の掌握を命じていたが、いまだに達成できていない。

ロシア軍の死傷者はすでに20万人以上にのぼったとみられていて、兵員や兵器の不足、士気の低さなど、かねてからの課題は解消されていない。

プーチン大統領は最近、ウクライナの隣国ベラルーシに戦術核を配備すると表明して、「核による威嚇」を強めている。
核兵器の存在をちらつかせることで、ウクライナ軍や支援を続ける欧米の意思をくじくねらいとみられる。

核による脅しは、ロシアがウクライナの反転攻勢を強く警戒していることの現れだと思う。

ロシア軍の具体的な対抗策については、流出したアメリカの機密文書がロシアが守りを固めるための手がかりになるかもしれない。

クリミアなど南部の地域にはすでに、ウクライナ側の進撃を妨げるためのざんごうや障害物など防御陣地が作られている。
ロシアはまた、ウクライナの戦車に対抗するため「新たな部隊を編成すること」も明らかにしている。

しかし機密文書には、いつ、どこを、どうやって攻撃するかという作戦計画の詳細までは書かれていない。

このことをウクライナ政府がどのように考え、作戦の開始時期をいつにするのか。

非常に大きな決断になると思う。

いずれにせよ、ウクライナ軍による大規模な作戦が始まれば、これまでで最大規模、そして最も難しく、最も重要なものになるだろう。