販売に“一工夫” フードロス削減のアイデアとは

年間522万トン(2020年推定値・農林水産省)にも及ぶフードロス。食品の販売方法に一工夫を加えることで、廃棄される食品の量を減らそうという取り組みがさまざまな形で広がっています。誰にでも身近なこの問題。解決のヒントを探ります。(経済番組部ディレクター 岩永奈々恵)
シール集めてお菓子と交換
取材に訪れたのは、東京 練馬区にある大手スーパーです。
この店では、消費期限や賞味期限が迫り、値引きされた商品に一緒に貼られているシールがあります。
この店では、消費期限や賞味期限が迫り、値引きされた商品に一緒に貼られているシールがあります。

その名は「もぐにぃシール」。
10枚集めると、お菓子と交換することができたり、途上国の学校給食を支援する国連機関への寄付にも使えたり、集めて交換するだけでフードロス削減に参加できます。
10枚集めると、お菓子と交換することができたり、途上国の学校給食を支援する国連機関への寄付にも使えたり、集めて交換するだけでフードロス削減に参加できます。

この仕組みを考案したのは、マーケティング会社「アッシェ」です。
取引先のあるスーパーから「廃棄する食品をなんとか減らしたい」という相談を受け、考えたといいます。
いちばん大切にしたのは、デジタルではなく、アナログな手法を使うことでした。
取引先のあるスーパーから「廃棄する食品をなんとか減らしたい」という相談を受け、考えたといいます。
いちばん大切にしたのは、デジタルではなく、アナログな手法を使うことでした。

アッシェ 穐津本部長
「普段の買い物のなかで無理なくフードロス削減に取り組んでもらうためには、生活の動線から離れない工夫が必要だったので、消費者の方が実際に手にとる商品にシールを貼るというシンプルな方法を選びました。消費者のシールを集めたいという気持ちをくすぐる仕掛けにしています」
「普段の買い物のなかで無理なくフードロス削減に取り組んでもらうためには、生活の動線から離れない工夫が必要だったので、消費者の方が実際に手にとる商品にシールを貼るというシンプルな方法を選びました。消費者のシールを集めたいという気持ちをくすぐる仕掛けにしています」
実際にシールを集めているという買い物客に話を聞きました。

「シールを集めるのが楽しい」という女性。
当初はあまり関心がなかったということですが、「孫が遊びに来た時に一緒に楽しめそう」「自分自身も寄付に参加してみたい」と、いつの間にかシールを集めるのが日課になったそうです。
女性は、「今日のうちに食べる総菜は、できるだけシールがついたものを選ぶようにしている」と話していました。
この仕組みを取り入れたスーパーも手ごたえを感じているといいます。
当初はあまり関心がなかったということですが、「孫が遊びに来た時に一緒に楽しめそう」「自分自身も寄付に参加してみたい」と、いつの間にかシールを集めるのが日課になったそうです。
女性は、「今日のうちに食べる総菜は、できるだけシールがついたものを選ぶようにしている」と話していました。
この仕組みを取り入れたスーパーも手ごたえを感じているといいます。

牧 副店長(取材当時)
「去年の6月から導入して以降、生鮮食品、総菜、ベーカリーを中心に、廃棄ロスは下がる傾向となっています。シールが楽しくフードロス削減に取り組むきっかけになれば、店としてもうれしいです」
「去年の6月から導入して以降、生鮮食品、総菜、ベーカリーを中心に、廃棄ロスは下がる傾向となっています。シールが楽しくフードロス削減に取り組むきっかけになれば、店としてもうれしいです」
シールは現在、全国13の企業の300店舗以上で導入され、参加店舗は今も増え続けています。
期限間近の商品購入ためらい なぜ?
一方で、消費期限や賞味期限が近い食品の購入をためらう人が少なくないのも実情です。
京都市はおととし、フードロス削減のため、スーパーなどの陳列棚で前の方に並べられた期限の近い商品から手に取る、いわゆる「てまえどり」について消費者にアンケート調査を行いました。
その結果、37.8%の人が「てまえどりをほとんどしない」「てまえどりを全くしない」と答えました。
京都市はおととし、フードロス削減のため、スーパーなどの陳列棚で前の方に並べられた期限の近い商品から手に取る、いわゆる「てまえどり」について消費者にアンケート調査を行いました。
その結果、37.8%の人が「てまえどりをほとんどしない」「てまえどりを全くしない」と答えました。

その理由として、75%の人が「期限までに使い切れない心配があるから」と答えました。
“使い切り”を助ける
せっかく買った食品を、むだなく使い切りたいという消費者の思いを、手助けする取り組みも始まっています。
取り組みに参加している青森県弘前市のスーパーを取材しました。
必要なアプリは2つ。買い物した際にバーコードを読み込むことなどで、買った商品を自動で記録できるアプリ。そして、レシピを提案するアプリです。
この2つのアプリを連携することで、レシピの提案アプリに、家庭にある期限の迫った食材を使ったレシピなどが、随時示されるというのです。家庭にある食材も含めて“使い切りを助ける”などのねらいです。
取り組みに参加している青森県弘前市のスーパーを取材しました。
必要なアプリは2つ。買い物した際にバーコードを読み込むことなどで、買った商品を自動で記録できるアプリ。そして、レシピを提案するアプリです。
この2つのアプリを連携することで、レシピの提案アプリに、家庭にある期限の迫った食材を使ったレシピなどが、随時示されるというのです。家庭にある食材も含めて“使い切りを助ける”などのねらいです。

今年1月から2月にかけては、これらのアプリを使った実証実験が青森県などで行われ、新たな機能の検証も行われました。
新しい機能では、時期によっては在庫が増えがちで、生産者やスーパーがこのタイミングで特に買ってほしいと考える食材とそれを使ったレシピが「クエスト」として提示されます。
一方の消費者。実際に料理を作って写真を投稿すれば、「クエスト達成」となり、店で使えるポイントがもらえるという仕組みです。
新しい機能では、時期によっては在庫が増えがちで、生産者やスーパーがこのタイミングで特に買ってほしいと考える食材とそれを使ったレシピが「クエスト」として提示されます。
一方の消費者。実際に料理を作って写真を投稿すれば、「クエスト達成」となり、店で使えるポイントがもらえるという仕組みです。
ことし2月これらのアプリを利用している女性の買い物に同行させてもらいました。

この日、アプリからは、牛乳や餅とそれらを使ったレシピなどが「クエスト」として提示されました。

牛乳は全国的に需要が落ち込んで余剰となっていた食材。餅は年末年始を過ぎると売れ残りやすい食材です。フードロスを防ごうと、アプリが提案してきました。
女性は、提案されたもちと牛乳を購入。
女性は、提案されたもちと牛乳を購入。

示されたレシピをもとに、ピリ辛の「豚キムチチーズもち」と、牛乳を使ったコーンスープを作りました。

アプリを利用する女性
「おもちをおかずの一品にできると発見になりました。今まで考えたことがなかった食材にもチャレンジしてみようかなと思うようになっています」
「おもちをおかずの一品にできると発見になりました。今まで考えたことがなかった食材にもチャレンジしてみようかなと思うようになっています」
スーパーは、こうした仕組みが、買い物客の利便性向上につながると考えています。

成田 店長
「これまで当店でも独自にレシピ提案を行ったりと、工夫はしてきましたが、アプリ内で多くのレシピを提案することで新たなニーズを掘り起こすことができているのではないかと考えています」
「これまで当店でも独自にレシピ提案を行ったりと、工夫はしてきましたが、アプリ内で多くのレシピを提案することで新たなニーズを掘り起こすことができているのではないかと考えています」
レシピ提案アプリを運営するサッポロホールディングスは、食材の使い切りには魅力的なレシピの提案が欠かせないと考えています。

サッポロホールディングス 経営企画部 保坂将志マネージャー
「『買ったはいいが、どうしたら食べ切れるのか』が必ず課題になるので、あらかじめ『こんなにすてきなレシピがあって、こんなにおいしく食べられる』と生活者の方に提案することで、購入へのハードルを一気に下げることができます。使い切るところまでアプリでサポートすることで、ごはんづくりや食卓をより楽しくする手助けができたらと考えています」
「『買ったはいいが、どうしたら食べ切れるのか』が必ず課題になるので、あらかじめ『こんなにすてきなレシピがあって、こんなにおいしく食べられる』と生活者の方に提案することで、購入へのハードルを一気に下げることができます。使い切るところまでアプリでサポートすることで、ごはんづくりや食卓をより楽しくする手助けができたらと考えています」
消費者にもメリットを感じられる仕掛けを
今回取材して、フードロスの問題に取り組みやすいよう、さまざまな仕掛けが誕生していることを知りました。
いつもと違う食材を買ったり、賞味期限の近いものを積極的に購入するなど、行動を変えることにハードルを感じる人が多いからこそ、普段の生活の動線の中で取り組める動きが注目されているのだと感じました。
消費者の側にもメリットを感じられる仕掛けをつくることで、フードロス対策に協力しようという人のすそ野が広がっていくのではないかと思います。
いつもと違う食材を買ったり、賞味期限の近いものを積極的に購入するなど、行動を変えることにハードルを感じる人が多いからこそ、普段の生活の動線の中で取り組める動きが注目されているのだと感じました。
消費者の側にもメリットを感じられる仕掛けをつくることで、フードロス対策に協力しようという人のすそ野が広がっていくのではないかと思います。

経済番組部ディレクター
岩永奈々恵
2017年入局
松江局やおはよう日本部などを経て現在は経済番組を担当
岩永奈々恵
2017年入局
松江局やおはよう日本部などを経て現在は経済番組を担当