【詳しく】トランプ前大統領 34の罪で起訴 大統領選への影響は

アメリカの大統領経験者として初めて起訴されたトランプ前大統領は裁判所で無罪を主張したあと支持者を前に演説し、起訴について自身が立候補を表明している来年の大統領選挙への妨害で不当だと主張し、全面的に争う姿勢を示しました。

大統領選挙への影響について専門家の見方も交えて解説します。

34の罪で起訴 大統領経験者で初

アメリカのトランプ前大統領は、2016年の大統領選挙の前に、みずからの不倫の口止め料の支払いをめぐりビジネス記録を改ざんしたとして、あわせて34の罪でニューヨーク州の大陪審に起訴されました。

大統領経験者が起訴されるのはアメリカ史上初めてです。
トランプ氏は4日ニューヨーク州の裁判所で罪状認否に臨み、すべての罪について無罪を主張した後、南部フロリダ州の自宅「マー・アー・ラゴ」に戻り、支持者を前におよそ30分間演説しました。

この中でトランプ氏は「今わが国ではかつてない規模の選挙妨害が行われている」と述べ、起訴は不当なものだと主張しました。

さらに「この事件を見た誰もが犯罪はないといっている」と述べて改めて無罪を主張し、全面的に争う姿勢を示しました。
来年の大統領選挙への立候補を表明しているトランプ氏は政権奪還を目指す野党・共和党の有力な候補者の1人で、今回の起訴が選挙にどのような影響を与えるのかに関心が集まっています。

トランプ氏の起訴内容は

5日の罪状認否の際に公表された起訴状などによりますと、トランプ前大統領は、2016年の大統領選挙を前に自分にとって不利になる情報を隠すために口止め料を支払い、その支払いを隠すためにビジネス記録を改ざんしたとして使われた伝票や小切手ごとに34の罪に問われています。
口止め料が支払われたとされる相手はあわせて3人です。

その内訳は
▼「トランプ氏と性的関係を持った」と主張するモデルに15万ドル、日本円でおよそ2000万円、
▼「トランプ氏と性的関係を持った」と主張するポルノ女優に13万ドル、日本円でおよそ1700万円、
▼「トランプ氏に婚外子がいる」と主張するトランプタワーの元ドアマンに3万ドル、日本円でおよそ390万円が、トランプ氏の当時の顧問弁護士などから支払われたとされています。

そして、この口止め料をトランプ氏の会社が弁護士側に返済した際「弁護士費用」として処理したことが記録の改ざんにあたるとしています。

計算上は最大禁錮136年も「非常にまれ」

ニューヨークの州法では、ビジネス記録の改ざんに関する罪に対する量刑は最大でも禁錮1年ですが、ほかの犯罪を隠蔽する意図がある場合は最大で禁錮4年の重罪にあたり、今回の34の罪も重罪とされていることから、トランプ氏が望めば、陪審員が判断することになります。

そして、全員が一致すれば、その判断が評決となります。

ここで無罪の評決が出ると、検察官は上訴することはできません。

一方で、有罪の評決が出ると、裁判官が量刑の言い渡しを行うことになります。

仮に今回のケースがすべて有罪となれば、計算上は最大で禁錮136年の刑が言い渡されることになりますが、現地メディアは実際に有罪となってもそこまでの長期刑が言い渡されることは非常にまれだとしています。

別の捜査も進む

トランプ氏をめぐってはこのほかにも司法当局による捜査が進められています。

司法省は去年11月、特別検察官を任命し、南部フロリダ州のトランプ氏の自宅から最高機密を含む複数の機密文書が見つかった問題や、おととし(2021)連邦議会にトランプ氏の支持者らが乱入した事件への関与について捜査を続けています。
またトランプ氏が3年前の大統領選挙で敗れた南部ジョージア州の結果を覆すよう、州当局に圧力をかけた疑いでも州の検察が捜査しています。

選挙戦と並行して裁判に

アメリカでは来年11月に大統領選挙が予定されています。

これを前に、来年2月以降、民主、共和それぞれの党の候補者を選ぶための予備選挙や党員集会が各州で行われることになっています。

トランプ氏は4日の演説で「われわれはアメリカを再び偉大にできると確信している」と述べるなど立候補の姿勢を崩していません。

今回、ニューヨーク州の裁判官はトランプ氏の次回の出廷を12月4日としました。

このためトランプ氏は年明けから大統領選挙に向けた候補者選びの動きが本格化するなか、選挙戦と裁判を並行して行うことになる見通しです。

専門家「共和党側にマイナスに働く可能性」

アメリカ政治が専門のバージニア大学政治センターのラリー・サバト所長は、トランプ前大統領が起訴されたことについて「共和党は党派的な決定とみなして激しく怒っている。短期的にはこれはトランプ氏にとって大きなプラスになる。資金調達の面では今回の起訴で数百万ドルを集めほかの大統領候補たちもトランプ氏のもとに結集した」と述べました。

ただ大統領選挙に向けた野党・共和党の候補者選びでトランプ氏が勝てるかどうかについては「候補者選びは来年2月まで始まらない。それまでに裁判は終わるのか、さらに深刻なほかの捜査はどうなるのか、候補者選びまでに問題がすべて片づくとは思えない」と述べて裁判の結果など今後の推移を見る必要があるという認識を示しました。

またサバト氏は民主党の候補者と争う来年11月の選挙への影響について「トランプ氏が有罪となり他の事件でも起訴された場合、民主党をかなり助けることになると思われる。またトランプ氏が共和党の大統領候補にならなかったとしても最終的な候補者はトランプ氏を支持したことについて多くの説明をしなければならなくなった」と述べて共和党が幅広い層の支持を獲得する上でマイナスに働く可能性があるという認識を示しました。

専門家「トランプ氏に追い風」

トランプ前大統領が裁判所の要請に応じて罪状認否に臨むことについて、アメリカ政治に詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は「大統領経験者が呼び出されることは前代未聞で次期大統領選挙にすでに立候補を表明していることからしても今後のアメリカ政治を考える上で大きなできごとだ」と指摘しました。

そして、「民主党系の人は法の支配という意味から今回の起訴を正当化していくが、共和党系の人は民主党の都合のよい法解釈によるものだとみている。見方が真っ二つに分かれ、現状認識もかみ合っていない」と述べ、アメリカ社会の受け止めは二分していると分析しました。

そして、今後の見通しについては「検察側はトランプ氏の全面否定は想定した上でそれなりの自信がないとここまでには至らない。一方、トランプ氏側は長引けば長引くほど有利になると考えている。当然、罪状は認めないし、それどころか証拠や大陪審のメンバー、検事の資質などプロセスすべてがでたらめだとアピールして政治的に判断を下すのが難しくなる、大統領選の予備選挙の時期まで引き延ばしていくだろう」という見立てを示しました。

また、トランプ氏が立候補を表明している来年の大統領選挙への影響については「トランプ前大統領にとっては短期的には追い風になった。普通であれば政治家にとって政治生命に関わる事態だが、自分は犠牲者、共和党の危機とアピールし、裁判所に行く際は、みずからの求心力を高めていくためのパフォーマンスにしてさまざまな演出をしていくだろう」とし、今回の起訴を選挙戦に利用していくと指摘しました。

米メディア「立候補可能」

「キャッチ!世界のトップニュース」望月麻美キャスター
注目される大統領選挙への影響について「キャッチ!世界のトップニュース」の望月麻美キャスターの解説です。

立候補が可能かどうかについてアメリカのメディアは、トランプ氏が仮に有罪となっても、立候補自体は可能だと伝えています。

アメリカ合衆国憲法は、大統領になる要件を
▽アメリカ生まれであること
▽35歳以上であること
▽14年以上アメリカに居住していることなどとしています。

犯罪歴が制約になることは明記されていないためです。

起訴で支持者の結束 高まる側面も

トランプ氏は過去に2度にわたる弾劾訴追を受けながら、岩盤支持層とも呼ばれる熱狂的な支持者はほとんど離れませんでした。

そして今回の起訴で支持者の結束が高まっている側面もあります。
ロイター通信などが起訴翌日の3月31日から4月3日に、共和党支持者を対象に行った世論調査の結果です。

トランプ氏に大統領候補になってほしいと答えた人は48%。3月中旬の調査結果(44%)から4ポイント上がりました。
さらにトランプ氏は、起訴後に集まった寄付は1000万ドル、日本円で13億円以上にのぼっているとしています。

米政治の行方に大きな影響か

トランプ氏が無罪を主張し続ければ、審理は1年以上かかることが予想されます。

現在、共和党の有力政治家は民主党による司法権の乱用だとトランプ氏に同調しています。

しかし時間がたてば、共和党の穏健派から、本選で民主党に勝てるようトランプ氏以外の候補者を求める声が強まることも考えられます。

アメリカ大統領の経験者が起訴されるという前代未聞の事態は、アメリカ政治の行方に大きな影響を及ぼしそうです。