先行き不透明な日本経済、新入社員への期待

先行き不透明な日本経済、新入社員への期待
新年度が始まり多くの企業で入社式が行われました。久々の“リアル開催”となったそれぞれの会場では、希望や不安を胸にした多くの新入社員の姿が見られました。

答えが簡単には見つからないような難題が山積する日本経済。若い世代への期待が高まっています。

新入社員たちの思いは?受け入れる企業側の期待は?

入社式を通してさまざまな変化が見えました。
(経済部記者 井村丈思、甲木智和、山根力、當眞大気、西園興起)

不確実の時代 “変革志向”持って(金融)

まずは激動の金融業界から。
コロナ禍からの経済活動の回復、それに伴う世界的なインフレの進行と金融引き締めの継続、ロシアによるウクライナ侵攻。

日本銀行の総裁も10年ぶりに交代するなど、銀行業界を取り巻く環境は大きく変化しています。

三井住友銀行の入行式でトップが口にしたのは変革と挑戦でした。
三井住友銀行 福留朗裕頭取
「われわれ自身が素早く変化に対応し、成長を実現していくためには、居心地の良い現状を抜け出し、新しいことにチャレンジし続ける、つまり、”Get out of your comfort zone”という意識を常に持って、変革に取り組んでいく必要がある。非難されるべきは、失敗することではなく現状に安住することだ。皆さんには失敗を恐れて挑戦しないのではなく、たとえ失敗したとしても挑戦することをやめないでいただきたい」
新入行員
「金融業界は世界を見回しても不安定な情勢が続いていると思う。これからは状況を予測したり、臨機応変に対応したりする力が銀行全体としても、そして、私自身としても求められていると思う。そういったことに対応できるようなバンカーになりたいし、努力を怠らないようにしたい」

歴史的な転換期、失敗恐れるな(自動車)

自動車業界は100年に一度の大変革のまっただ中です。
日産自動車の入社式のキーワードは「失敗を恐れないこと」でした。
日産自動車 内田誠社長
「われわれの新しい仲間となった皆さんにお願いしたいことがある。失敗を恐れず何事にもチャレンジして欲しい、ということだ。日産はことし創立90周年を迎えるが、その長い歴史のなかで、先人たちは様々な困難に直面しながらも“他がやらぬことをやる”というチャレンジ精神で、成功と失敗を繰り返しながら日産ならではの価値を生み出してきた。今こそその精神を最大限生かし、会社を変革し、成長させていく必要がある。失敗を恐れる必要はない。この先10年、さらにはその先に向け、ぜひ、一緒にワクワクする未来を創っていこう」
新入社員
「この会社の強みはどんどん挑戦していくところだと感じている。これからの自動車業界は、日本だけでなく世界に対して自分たちの存在や技術を発表することが出来る環境だと思う。車の新しい価値の提供に向けて、開発という立場で携わっていきたい」

新時代の消費を取り込め(小売り)

記録的な物価高、人口の減少、さらにネット通販の普及など。

小売業界も激動と変化の時代を迎えています。
流通グループ大手のイオンは、会社が直面する課題の1つとして、来店客の年齢層の上昇を挙げています。

入社式では、今後の成長に不可欠な若い顧客層の開拓に向け、新入社員の”感性”に期待を示しました。
イオン 吉田昭夫社長
「これから消費を動かしていくのはミレニアル世代、Z世代と言われている。まさしく皆さんは今後、消費を動かしていく年代で、皆さんの新鮮な発想、積極的な行動で、若いお客様の支持が得られる企業としていきたい。持続的に成長をするためには、世の中の変化を見据え、新たな提案で時代を引っ張っていく必要がある。疑問に思うことや自分の感じたことをちゅうちょすることなく発信することも重要な事だ」
新入社員
「お客様第一という理念、看板を背負っていくことに責任を感じ、身が引き締まる思いです。挑戦を恐れず、自分の頭で考えて行動する社会人になりたい。将来はまち作りに携わりたい気持ちがあるので、まず目の前のことを頑張っていきたい」

“三方よし”の判断基準で(商社)

企業は社会にとってどのような存在であるべきか。

それを改めて自問したのは大手商社の伊藤忠商事です。
会社では、近江商人ゆかりということもあり、売り手と買い手、そして世間(社会)がともに満足する共存共栄の考え方、「三方よし」を企業理念として掲げていますが、若い世代にも、この理念をビジネスの基本に据えて欲しいと訴えました。
伊藤忠商事 石井敬太社長
「SDGsの重要性が一段と高まりを見せる中、たびたび『三方よし』という言葉が引用されている。ビジネスの基本は信用で、信用のない仕事は長続きしない。自分の利益中心でなく、お客様や仕入れ先のことを考え、また、そのビジネスが社会に貢献するものであるかどうかを大事にしていれば必ず周囲からの信用を得ることができる。いろいろな判断や決断を迫られる場面が出てくると思うが、『三方よし』は判断基準の1つになると思うので心にとどめてほしい」
新入社員
「自分が関わったビジネスや仕組みが誰かのためになって誰かの笑顔を支えるような仕事がしたいと思って志望しました。私たちを取り巻く環境は新型コロナとの共存など数年前には予想だにしなかったようなことが日々起きていますが、そうした変化の時代に1人の商人として、買い手のために、売り手のために、なにより世間のために何ができるか、使命を持って仕事にまい進していきたい」

脱炭素社会は前人未到(鉄鋼)

若い世代にとっても大きな関心事となっているのは、脱炭素社会の実現です。

製造過程で多くの二酸化炭素を排出する鉄鋼業界は、脱炭素への対応が大きな課題となっています。
国内最大手の日本製鉄では、難しい課題にこそチャンスを見いだせると新入社員に奮起を促しました。
日本製鉄 橋本英二社長
「開発競争はすでに始まっており、今後とも日本製鉄が世界をリードしていくためには、カーボンニュートラル・スチール(※温暖化ガス実質ゼロの鉄鋼製品)の生産体制を世界で最初に実現しなくてはならない。前人未到の超革新技術への挑戦となるが、この戦いに勝ちきることで、当社の優位性は絶対的なものとなる。当社にとって極めてチャンスの大きい時代が来たと前向きに捉え、積極的に取り組んでいく。社長である私がみずから先頭に立ち乗り越えていく決意だ。経営陣や会社を信じてついてきてほしい。一致団結して、世界に大きく飛躍しよう」
新入社員
「きょうの社長の話の中で、力強く、重たいことばが出てきて、責任感をもって力強く進んでいる会社なんだなという印象を受けました。いま、脱炭素への取り組みは、研究開発の段階にあると思いますが、世界レベルで問題になっている事への責任感も感じながら仕事をしていければ自分自身も成長できると思うので、ひとつひとつ出来ることを増やしていきたい」

取材を通じて…

入社式で会社が若い世代に期待のことばを述べるのは、もちろん当たり前ですが、ことしの入社式は、新入社員たちの意識の高さと会社側の期待の大きさを例年以上に強く感じました。

将来への無気力や諦めといったことばがよく使われてきましたが、それとは真逆の挑戦や変革を“楽しもう”という前向きな意気込みがありました。
一方の企業の側も、経営者のことばからは前例踏襲にとらわれない全く新しい価値観や手法に突破口を見いだそうとする危機感がありました。

世代間の分断や諦めではなく、世代を引き継ごうというそれぞれの意識の“変化”に期待が高まったことしの入社式でした。
経済部記者
井村 丈思
1998年入局
流通業界を担当
経済部記者
甲木 智和
2007年入局
財界や商社を担当
経済部記者
山根 力
2007年入局
自動車業界を担当
経済部記者
當眞 大気
2013年入局
鉄鋼・自動車業界を担当
経済部記者
西園 興起
2014年入局
金融業界を担当