無人の自動運転「レベル4」がまちを走る

無人の自動運転「レベル4」がまちを走る
「新しい社会を作っていきたい」

自動運転レベル4の普及を目指す会社の社長のことばです。4月1日の改正道路交通法の施行で、特定の条件のもとドライバーがいない状態で自動運転を行う「レベル4」の公道走行が解禁されます。“ドライバーがいない車が人やモノを乗せて街を行き交う”。そんな時代が近づいています。(経済部記者 名越大耕、山根力)

レベル4実現へ 申請目指す企業

通信大手ソフトバンク傘下の企業「BOLDLY」(ボードリー)は、無人の自動運転バスの実現を目指し、東京・大田区の大規模複合施設「羽田イノベーションシティ」で実証実験を重ねています。
日中は運転免許を持つ乗務員がバスに乗り込み、万一の時はいつでも操作できる形で運行していますが、深夜の実証実験では他の車が道路に乗り入れないようにしたうえで、ドライバーなしの状態で運行し、安全性などを検証しています。

今回の改正道路交通法では、レベル4の自動運転を実施する事業者がそれぞれの都道府県の公安委員会に詳細なルートなどの計画を提出し、許可を得る必要があります。

会社はこの施設でレベル4の運行を開始するため、4月以降に申請を行う予定です。

自動運転を“地域の足”に

会社が目指すのは高齢化や過疎に悩む地域の“足の確保”です。

都内でレベル4の自動運転バスを開始したうえで、今後はこうしたサービスを全国各地に展開しようと、自治体と連携して実証実験を行っています。

実現に期待を寄せる地域の1つが人口およそ5000人の北海道上士幌町です。
移動手段の中心は自家用車ですが、東京23区より面積が広いうえ、若い世代が減って高齢化率は35%を超えます。

地元にはタクシー会社が1社あるだけで、公共交通の担い手不足が懸念されています。

そのため、去年12月からは市街地の3.5キロほどのルートで技術的にはレベル4の自動運転も可能なバスを定期運行させています。
バスは人や車を検知する高精度のセンサー8個を備え、時速20キロ以下で走行します。

自動運転のシステムには事前にマッピングされた3Dマップが組み込まれ、車内にある画面で運転開始のボタンを押せば、3Dマップで示された道を自動で走行できます。

高齢の利用者も期待

運転席はありませんが、現在はドライバーが車内の後部に立ち、万一の時はゲーム機のコントローラーのような装置で緊急停止などの対応をとります。

1日4便の運行で、乗車した人数は去年12月からことし2月までの3か月でのべ400人。

1日あたり10人ほどですが、運転免許を返納した高齢者もいる中で、利用者の反応は上々です。
利用者
「外から見ると遅いなと思っていたけど、乗ってみると意外と速い。普通のバスだったらガタガタと揺れたり音がすると思うんですけど、静かで雰囲気も良く快適ですね」
別の利用者
「免許を持っていなくて、運転ができる夫がいない時は、病院まで歩くこともあるんです。家の近くにバス停ができたら、車よりバスのが良いですね」

レベル4でドライバー不足を解決へ

ことし6月からは今の3.5キロからルートを拡大し、市街地から外れた高齢者団地などでも運行する方針です。

町では企業誘致のために3年前にオープンしたシェアオフィスや、観光客を呼び込むためのキャンプ場などと結ぶ路線も計画していて、自動運転での走行距離は今の7倍、のべ24キロ余りにしたいとしています。

走行距離の延長や本数を増加する場合に課題となるのがドライバーの確保ですが、レベル4の自動運転が実現すれば、ドライバーが乗車する必要はなくなります。
上士幌町デジタル推進課 梶達課長
「最寄りの空港から上士幌町まで、企業の方が来るときは民間のバスを乗り継がないと行けず、乗り継ぎも不便な状況です。もし自動運転バスが運転手なしで迎えに行けたら人件費もかからず足の確保ができますよね。そうしたことも実現できる可能性があると思っています」

1か所で全国のバスを遠隔監視も

一方、ドライバーがいない状態でどうやって安全を確保するのか。

今回の法改正では、ドライバーがいないレベル4を認める代わりに、遠隔で車両を監視することが求められています。

このため「BOLDLY」は1か所で全国の自動運転バスを遠隔監視できる体制の構築を進めています。

茨城県境町にある遠隔監視センターは現在、北海道の上士幌町も含めた全国4か所の自動運転バスを一手に監視しています。
今は各地のバスにそれぞれドライバーが乗っているため、監視だけで車両の操作は行いませんが、レベル4で運行する場合には、センターの人員が複数のバスを監視し、緊急時には遠隔でバスを停止させることもできます。

会社はドライバー不足が深刻な地方の公共交通の課題解決につなげたいとしています。
BOLDLY 佐治友基社長
「レベル4が実現すれば、ドライバーの人件費が圧縮され、同じコストでより多くのバスを運行できるようになります。日本は地域の公共交通機関を中心にドライバー不足が深刻化しています。これから自動運転バスによる新しい社会のモデルを作っていき、2030年には1万台の自動運転バスを日本全国に普及させていきたいです」

物流業界の人手不足対策にも

レベル4の実用化で、物流業界が抱える人手不足に対応しようという動きも出ています。

来年4月からトラックドライバーの時間外労働の規制が強化されることから、ドライバー不足の深刻化による輸送量の減少が懸念され、「2024年問題」とも言われています。
とりわけ、都市間を結ぶ長距離輸送で影響が深刻だとされています。

そこで大手商社の三井物産とAI=人工知能の開発などを手がけるプリファードネットワークスは去年、「T2」という合弁会社を設立し、自動運転トラックを使った幹線輸送サービスの事業に乗り出そうとしています。
日本の物流の大動脈となっている東京・大阪間の高速道路で無人のトラックを走らせ、さまざまな荷物を運ぶ計画で、政府の目標も踏まえ、2025年度の事業開始を目指しています。

会社では、開発中の自動運転トラックを使ったテスト走行を繰り返しています。

10トンの大型トラックに車や障害物を検知するセンサーやカメラを取り付け、千葉県内の物流施設などで走らせていて、取材に訪れた日は車線変更がスムーズにできるかを確認していました。
下村正樹CEOみずからが運転席に座り、事前に設定したプログラム通りに車線変更ができるかどうかを厳しくチェックしたところ、車線変更はできたものの、人のドライバーが操作するようなスムーズな動作にはなっていなかったといいます。
さらにトラックは積み荷の重さがその都度変わるうえ、時速80キロで走行する高速道路では横風などの影響も受けやすく、乗用車と比べて、制御が難しいということです。

会社は4月にも実際の高速道路で走行実験を行う予定ですが、下村さん自身も「まだ完成までは20%ぐらい。これから乗り越えるべき課題というのは山積している」と話します。

一方で、ドライバー不足への対応は待ったなしとなっているだけに、テストに協力している物流会社では、トラックでのレベル4の実現に大きな期待を寄せています。
三井倉庫ロジスティクス 松川健一 上級執行役員
「2024年問題が一番の大きな課題だが、物流事業者としてはモノの流れや社会を止めないことが至上命題だ。まだまだ技術的にはいろんな課題や問題点もあるのかもしれないが、私たちの施設でトラックを走らせている姿を見ると期待感が高まっている」
2025年度のサービス開始に向けて、技術開発のさらなる加速や必要な車両の確保などに200億円程度の追加資金が必要だということで、事業に賛同する運送事業者などに対しても出資を呼びかけているということです。

また、複数の都道府県をまたいで走行する長距離輸送のレベル4を実現するうえでの法規制の課題などについても関係省庁と連携して取り組んでいきたいとしています。
T2 下村正樹CEO
「少し大げさだが、日本の物流を支えるといういう国家プロジェクトのようなつもりでやっていこうと思っている。たとえ東京・大阪間は自動で走れたとしても、それにつながる物流全体が変わっていかないとこのシステムは実現しない。それぞれに賛同いただける仲間の方に集まっていただいて、本当にこの国の物流を支えていくんだと、そういったチームを作っていけたらなと思う」

社会課題の解決につなげられるか

政府は2025年度をめどに自動運転サービスを全国50か所程度に展開することを目標に掲げています。

人口減少に伴う労働力の不足、地方を中心に加速する高齢化といった日本が直面する課題の克服に向けて、自動運転が果たす役割への期待は高まっています。
一方で、レベル4の普及に向けては安全性など技術的な課題の解決はもちろん、さらなる法規制の整備や、人々の自動運転に対する理解の促進が不可欠です。

こうした課題を1つ1つクリアして、高齢者など移動が困難な人たちの助けとなる自動運転のサービスが普及していけるか、今後も国や企業の取り組みを検証していきたいと思います。
経済部記者
名越大耕
2017年入局
福岡放送局を経て現所属
経済部記者
山根 力
2007年入局
松江局、神戸局などを経て現所属