知られざる「関空の海」の秘密

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大阪湾に浮かぶ関西空港。
関西の空の玄関口として、年間約3000万人が利用する巨大な人工島です。
その周辺の海に潜ってみると、人知れず命を育む小さな魚から、体長1メートルを超す“巨大怪魚”の群れまで、命に満ちあふれた驚きの世界が広がっていました。
大都会の海とは思えない「関空の海」の豊かさと、その成り立ちの秘密に迫りました。
(和歌山放送局 カメラマン 荻島有祐・大阪放送局 ディレクター 小林あかり)
関西の空の玄関口として、年間約3000万人が利用する巨大な人工島です。
その周辺の海に潜ってみると、人知れず命を育む小さな魚から、体長1メートルを超す“巨大怪魚”の群れまで、命に満ちあふれた驚きの世界が広がっていました。
大都会の海とは思えない「関空の海」の豊かさと、その成り立ちの秘密に迫りました。
(和歌山放送局 カメラマン 荻島有祐・大阪放送局 ディレクター 小林あかり)
漁が禁止されている関西空港周辺の海

大阪湾の沖合5キロに浮かぶ関西空港。
総面積は1055ヘクタールの巨大な人工島です。
空港周囲の海は、飛行機の運航を妨げないように漁が禁止されているほか、保安上の理由から厳重に警備されています。
この海にはどんな世界があるのか。私たちは特別な許可を取り、護岸周辺を中心に生きものの撮影を行いました。
総面積は1055ヘクタールの巨大な人工島です。
空港周囲の海は、飛行機の運航を妨げないように漁が禁止されているほか、保安上の理由から厳重に警備されています。
この海にはどんな世界があるのか。私たちは特別な許可を取り、護岸周辺を中心に生きものの撮影を行いました。
広がる ”海藻の森”

太陽光が降り注ぐ中、水深3メートルほどの浅場に広がっていたのは海藻の森、藻場です。
ホンダワラやワカメなど100種を超す海藻が、護岸を覆い尽くします。
藻場の総面積はおよそ50ヘクタール。甲子園球場13個分ほどの広さになります。
藻場は魚の産卵場所や隠れ家になることから“命のゆりかご”とも呼ばれる重要な場所です。
ここで様々な生きものたちに出会うことができました。
ホンダワラやワカメなど100種を超す海藻が、護岸を覆い尽くします。
藻場の総面積はおよそ50ヘクタール。甲子園球場13個分ほどの広さになります。
藻場は魚の産卵場所や隠れ家になることから“命のゆりかご”とも呼ばれる重要な場所です。
ここで様々な生きものたちに出会うことができました。
集う多様な生き物 特大サイズのアワビも

茂みの中に、体長3センチほどのメバルの子どもたちがいました。
海では、いつ大きな魚たちに襲われても不思議ではありません。
藻場はメバルの子どもにとって、敵から身を守ることができる“隠れ家”となっています。
春先に生まれたメバルの子どもたちは、藻場で過ごした後に、成長とともに住みかを深場へと移していきます。
海では、いつ大きな魚たちに襲われても不思議ではありません。
藻場はメバルの子どもにとって、敵から身を守ることができる“隠れ家”となっています。
春先に生まれたメバルの子どもたちは、藻場で過ごした後に、成長とともに住みかを深場へと移していきます。
私たちに身近な食材であるサザエやアワビも多く目にしました。
これらの貝類は、海底を這うように移動し、海藻を食べながら成長します。
これらの貝類は、海底を這うように移動し、海藻を食べながら成長します。

禁漁区なので市場に出ることはありませんが、15センチを超える特大サイズのアワビも見られました。

好物である貝類を求めて日本の沿岸を周遊するナルトビエイの群れが、マントを広げるように泳いでいました。
大阪湾では10年ほど前から目撃されるようになりました。
この海に来れば食べ物にありつける。
生きものにとって、大阪湾はまさに”楽園”のような場所となっています。
大阪湾では10年ほど前から目撃されるようになりました。
この海に来れば食べ物にありつける。
生きものにとって、大阪湾はまさに”楽園”のような場所となっています。
水質汚染で生きものが減っていた大阪湾
どうして関西空港の周りにこれほど豊かな海が広がっているのでしょうか?
背景のひとつには、過去に大阪湾が直面した環境問題がありました。
背景のひとつには、過去に大阪湾が直面した環境問題がありました。

大阪万博が開催された1970年代。日本は高度成長期にあり、関西でも産業発展や埋め立てによる土地造成が進んでいました。
一方で、海の自然環境は少しずつ変化し、大阪湾でも藻場の減少や水質汚染が問題となりました。生きものが暮らせる環境が失われていったのです。
空港の建設が始まったのは、そうした時代背景の中でした。
一方で、海の自然環境は少しずつ変化し、大阪湾でも藻場の減少や水質汚染が問題となりました。生きものが暮らせる環境が失われていったのです。
空港の建設が始まったのは、そうした時代背景の中でした。
自然と調和した構造の空港を
関西空港では「地域と共存共栄する空港」を目指し、藻場造成をはじめとする、自然と調和した構造の空港建設を行いました。
一般的な埋め立て地は、護岸が水面に対して垂直になっています。
一方、関西空港の護岸は緩やかな傾斜をつけた「緩傾斜石積護岸」と呼ばれるものが採用され、総延長24キロの8~9割がこの形状です。
一般的な埋め立て地は、護岸が水面に対して垂直になっています。
一方、関西空港の護岸は緩やかな傾斜をつけた「緩傾斜石積護岸」と呼ばれるものが採用され、総延長24キロの8~9割がこの形状です。

傾斜が付くことで、光が当たる浅場が増え、光合成で育つ海藻にとって繁茂しやすい環境となっています。
およそ30年かけ、関西空港の周囲の藻場の総面積は50ヘクタールに達し、多様な生きものが集まる豊かな海になりました。
現在も護岸への海藻の種付けが続けられ、藻場は拡大を続けています。
およそ30年かけ、関西空港の周囲の藻場の総面積は50ヘクタールに達し、多様な生きものが集まる豊かな海になりました。
現在も護岸への海藻の種付けが続けられ、藻場は拡大を続けています。
海の豊かさの象徴 巨大怪魚”コブダイ”
取材を進める中で、この海の豊かさを象徴する巨大な魚を見つけました。

大きく発達したコブとアゴが特徴の魚、コブダイです。
日本近海に生息し、大きなものでは体長1メートルに達します。
日本近海に生息し、大きなものでは体長1メートルに達します。

「ゴリッゴリッ」
音が届きにくい水中でも、サザエを豪快にかみ砕く音がはっきりと聞こえます。
コブダイは、貝類が大好物です。
実は、コブダイにはのどの奥に”もう一つの歯”である「咽頭歯」があります。成長とともに発達し、硬い貝殻でもすり潰すように砕くことができるのです。
一日の食事量は2キロほど。海底には、コブダイが食べたであろう貝殻の破片が所々に落ちていました。
音が届きにくい水中でも、サザエを豪快にかみ砕く音がはっきりと聞こえます。
コブダイは、貝類が大好物です。
実は、コブダイにはのどの奥に”もう一つの歯”である「咽頭歯」があります。成長とともに発達し、硬い貝殻でもすり潰すように砕くことができるのです。
一日の食事量は2キロほど。海底には、コブダイが食べたであろう貝殻の破片が所々に落ちていました。
「全国を探してもめったにない」

関西空港周辺では、少なくとも10匹以上のコブダイが密集して生息していました。
コブダイは縄張り意識が強く、普段は単独で行動する魚です。
コブダイは縄張り意識が強く、普段は単独で行動する魚です。
コブダイの観察場所として世界的にも知られる新潟の佐渡島の海で、30年以上観察を続けている高嶋廣光さんは、関西空港周辺でコブダイが密集している写真を見て、驚いたと言います。
高嶋廣光さん
「これだけコブダイが密集する海は、全国を探してもめったにないと思います。広大な藻場が貝類を育み、高密度ながらもそれぞれが縄張りを保持できる絶妙なバランスを保っている。関空周辺はコブダイの”聖域”になっていると思います」
「これだけコブダイが密集する海は、全国を探してもめったにないと思います。広大な藻場が貝類を育み、高密度ながらもそれぞれが縄張りを保持できる絶妙なバランスを保っている。関空周辺はコブダイの”聖域”になっていると思います」
大阪湾全体に広がる藻場づくり

関西空港の藻場は、いま大阪湾全体に広がろうとしています。
空港の運営会社では、2年後に控えた大阪・関西万博に向けて、空港周辺の海藻を湾内の沿岸にも移植するプロジェクトを立ち上げました。
藻場の面積を増やし、大阪湾全体がさらに豊かな海になることを目指しています。
空港の運営会社では、2年後に控えた大阪・関西万博に向けて、空港周辺の海藻を湾内の沿岸にも移植するプロジェクトを立ち上げました。
藻場の面積を増やし、大阪湾全体がさらに豊かな海になることを目指しています。

水質汚染から再生を遂げた大阪湾は、都市と自然が共存するモデルケースとして世界で認知されるかもしれません。

和歌山放送局 カメラマン
荻島 有祐
2015年入局
ニュース撮影を始め、水中撮影も行う。関西の海や川の生きものたちを追って奮闘中。
荻島 有祐
2015年入局
ニュース撮影を始め、水中撮影も行う。関西の海や川の生きものたちを追って奮闘中。

大阪放送局 ディレクター
小林 あかり
2019年入局
報道番組所属。人間社会と野生生物の関係に関心を持ち番組を制作。学生時代はアライグマを研究。
小林 あかり
2019年入局
報道番組所属。人間社会と野生生物の関係に関心を持ち番組を制作。学生時代はアライグマを研究。