電力小売りが全面自由化された2016年。
当初は、大手電力会社どうしでの競争は起きていませんでした。
公正取引委員会の調査によると、きっかけとなったのは2017年末に関西電力が他社の管内に進出して本格的な営業活動を始めたことでした。

結ばれた”不可侵協定” 電力カルテル 課徴金1000億【詳しく】
「お互い消耗するのはやめましょう」
関西電力と中国電力、中部電力、九州電力。それぞれ幹部との間で会合がもたれ、お互いの営業エリアには立ち入らないことに。
地域を代表する電力会社が、電気料金の引き下げを狙った「電力小売りの自由化」の趣旨を“骨抜き”にしていた実態が明らかになりました。
公正取引委員会が命じた課徴金は1000億円。背景には何があるのでしょうか。
きっかけは関電の“越境”営業

新電力として参入した大手ガス会社と近畿地方で価格競争を行っていた関西電力が、新たな市場を求めて中部電力、中国電力、九州電力の管内に次々と進出し、各地で営業攻勢をかけたのです。

こうした関西電力の動きに、中国電力、中部電力、九州電力が反応し、各社は課長級、部長級の営業担当者だけでなく、役員もそれぞれ関西電力側と会合を持って、互いの利益を最大化する方法を探ることになったということです。
「お互い消耗するのはやめましょう」
「価格戦についてはいかに脱するか」
「入札において値段を上げていく」
会合ではこうした会話が交わされたといい、たどり着いた結論が、互いの営業エリアでの“不可侵協定”でした。
「お互い消耗するのはやめましょう」
「価格戦についてはいかに脱するか」
「入札において値段を上げていく」
会合ではこうした会話が交わされたといい、たどり着いた結論が、互いの営業エリアでの“不可侵協定”でした。
選んだのは”競争”ではなく“不可侵”
大手電力会社どうしが申し合わせたのが、大規模な工場やオフィスビル向けの「特別高圧」や中小規模の工場や事業所向けの「高圧」の電力をめぐり、自由化以前に各社が電力供給を担当していた地域、いわば「縄張り」を超えて顧客の獲得を行わないことでした。

専門家によると他社の管内で営業をかける際、大手電力会社でもその地域では“新参者”になるため、価格を下げて消費者に訴求する必要があります。
そこで価格競争が発生するため、それを避けて利益を確保する狙いがあったとみられています。
この申し合わせは「関西電力と中部電力」「関西電力と中国電力」の間でそれぞれ行われていました。
そこで価格競争が発生するため、それを避けて利益を確保する狙いがあったとみられています。
この申し合わせは「関西電力と中部電力」「関西電力と中国電力」の間でそれぞれ行われていました。

また、官公庁への電力の供給事業者を決める公共入札では、入札に参加する事業者を「縄張り」内の電力会社に制限したり、入札時の「下限値」を高く設定したりしていました。
この申し合わせは「関西電力と中国電力」「関西電力と九州電力」の間で行われていました。
この申し合わせは「関西電力と中国電力」「関西電力と九州電力」の間で行われていました。
かつては市場を独占
こうした申し入れの背景にあったとみられる「電力小売りの自由化」
電力の小売り事業は、かつて大手の電力会社が地域ごとに市場を独占していました。
国は電気料金の引き下げやサービスの競争を促すため、2000年以降、段階的に自由化を進め、2016年に一般の家庭が電力の契約先を自由に選べる「家庭向けの電力小売り自由化」が始まりました。
経済産業省の「電力・ガス取引監視等委員会」によりますと、国内で販売された電力量のうち新規の事業者=新電力が占める割合は、全面自由化された2016年4月の時点で5.2%でしたが、新規参入が相次ぎ、2022年12月時点では18.7%になっています。
電力の小売り事業は、かつて大手の電力会社が地域ごとに市場を独占していました。
国は電気料金の引き下げやサービスの競争を促すため、2000年以降、段階的に自由化を進め、2016年に一般の家庭が電力の契約先を自由に選べる「家庭向けの電力小売り自由化」が始まりました。
経済産業省の「電力・ガス取引監視等委員会」によりますと、国内で販売された電力量のうち新規の事業者=新電力が占める割合は、全面自由化された2016年4月の時点で5.2%でしたが、新規参入が相次ぎ、2022年12月時点では18.7%になっています。

内訳を見ると、2016年4月の時点での新電力のシェアは大規模な事業所向けの「特別高圧」で5.3%、中小規模の事業所向けの「高圧」で10.5%だったのに対し、2022年12月時点では「特別高圧」で8%、「高圧」で22.7%となり、小売りの全面自由化後、新電力がシェアを伸ばし競争が激しくなっている様子がうかがえます。

野村総合研究所カーボンニュートラル戦略グループの稲垣彰徳グループマネージャーは次のように指摘します。
「2016年に家庭向けの『低圧』も含めて全面自由化するにあたり、地域間の電力会社の競争、要はエリアを越えて越境していくことによる競争が出てきたことが『高圧』も含めて競争が厳しくなった要因の1つだと思う。特に『高圧』に関しては、消費者の価格感度が非常に高く、より安い価格を求めるので価格競争になった」
「2016年に家庭向けの『低圧』も含めて全面自由化するにあたり、地域間の電力会社の競争、要はエリアを越えて越境していくことによる競争が出てきたことが『高圧』も含めて競争が厳しくなった要因の1つだと思う。特に『高圧』に関しては、消費者の価格感度が非常に高く、より安い価格を求めるので価格競争になった」
カルテル申し合わせの会合に副社長も
公正取引委員会が立ち入り検査に入ったのは2021年4月。

検査を受けたのは、中国電力、中部電力、関連会社の中部電力ミライズ、関西電力など。
その3か月後には九州電力、関連会社の九電みらいエナジーにも入りました。
独占禁止法では、企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産量を共同で取り決める行為は競争を制限する「カルテル」として禁止していて、今回の電力会社どうしの申し合わせは電気料金の安値での取り引きを実質的に制限している疑いがあると判断したのです。
その3か月後には九州電力、関連会社の九電みらいエナジーにも入りました。
独占禁止法では、企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産量を共同で取り決める行為は競争を制限する「カルテル」として禁止していて、今回の電力会社どうしの申し合わせは電気料金の安値での取り引きを実質的に制限している疑いがあると判断したのです。

2023年3月30日。
公正取引委員会は調査結果を公表し、カルテルは電力自由化のあと、遅くとも2018年秋ごろからおよそ2年間にわたって結ばれていたと認定しました。
申し合わせの会合に参加していたのは、以下の人たちです。
公正取引委員会は調査結果を公表し、カルテルは電力自由化のあと、遅くとも2018年秋ごろからおよそ2年間にわたって結ばれていたと認定しました。
申し合わせの会合に参加していたのは、以下の人たちです。

課徴金が科されたのは4社で、最も多かったのは中国電力の707億円余り。
続いて中部電力が201億円余り、その関連会社が73億円余り、九州電力が27億円余り。
合わせて1010億円に上りました。
公正取引委員会が納付を命じた課徴金としては過去最高額で、このうち中国電力に命じた課徴金も、1つの会社に対する課徴金として最も多くなりました。
続いて中部電力が201億円余り、その関連会社が73億円余り、九州電力が27億円余り。
合わせて1010億円に上りました。
公正取引委員会が納付を命じた課徴金としては過去最高額で、このうち中国電力に命じた課徴金も、1つの会社に対する課徴金として最も多くなりました。
公取委「電力自由化の理念 ないがしろに」

調査を終えた公正取引委員会の田辺治審査局長は記者会見でこう指摘しました。
「地域を代表する企業である電力会社により長年にわたり推進されてきた自由化の目的・理念である電気料金を最大限抑制することや事業者の事業機会を拡大するという理念をないがしろにする違反行為だ。
電力会社間の協調関係を背景に会社によっては、代表者を含む役員級など幅広い層が関与して違反行為が行われた。相手方の供給区域の顧客を競争で奪わないようにするという2社間の市場分割であり、自社の供給区域における競争を制限するものにほかならない」
「地域を代表する企業である電力会社により長年にわたり推進されてきた自由化の目的・理念である電気料金を最大限抑制することや事業者の事業機会を拡大するという理念をないがしろにする違反行為だ。
電力会社間の協調関係を背景に会社によっては、代表者を含む役員級など幅広い層が関与して違反行為が行われた。相手方の供給区域の顧客を競争で奪わないようにするという2社間の市場分割であり、自社の供給区域における競争を制限するものにほかならない」

また、公正取引委員会は、今回の調査で各電力会社が業界団体である電事連=電気事業連合会の会合の機会を利用して、カルテルに関する打ち合わせを行ったことも明らかになったため、今後同じようなことがないよう電事連の池辺会長に申し入れを行いました。
なぜ?過去最高額の課徴金1000億円
カルテルなどの違反行為には、原則、違反行為を行っていた期間の売り上げの10%をもとに課徴金が算定されます。
電力会社は企業規模が大きいうえ、「特別高圧」「高圧」では大企業が取引相手で売り上げも大きく、こうした要因が過去最高額になった背景にあるとみられます。
また、カルテルと認定された事業は以下のとおりです。
電力会社は企業規模が大きいうえ、「特別高圧」「高圧」では大企業が取引相手で売り上げも大きく、こうした要因が過去最高額になった背景にあるとみられます。
また、カルテルと認定された事業は以下のとおりです。

中国電力は幅広くカルテルを結んでいたため、突出して多い金額になったのです。
関西電力 なぜ課徴金免除?
一方、各社とカルテルを結んだ関西電力は課徴金を免除されたうえ、排除措置命令も受けていません。
これは関西電力が「課徴金減免制度=リーニエンシー」と呼ばれる制度を利用したためです。
これは関西電力が「課徴金減免制度=リーニエンシー」と呼ばれる制度を利用したためです。

「課徴金減免制度」は談合やカルテルに加わった企業などに対し、自主的な違反申告を促そうと、2006年に導入された制度です。
公正取引委員会の調査が始まる前に最も早く申告した事業者は、課徴金が全額免除され、あとに続いた事業者も申告順や協力の度合いによって最大で60%減額されます。
今回、関西電力は最初に自主申告したため、課徴金も排除措置命令も免れました。
また、九州電力は立ち入り検査のあとに自主申告したうえ、調査に積極的に協力したため、真相解明に貢献度が大きい企業の課徴金を減額する「調査協力減算制度」が適用され、合わせて30%が減額されました。
公正取引委員会の調査が始まる前に最も早く申告した事業者は、課徴金が全額免除され、あとに続いた事業者も申告順や協力の度合いによって最大で60%減額されます。
今回、関西電力は最初に自主申告したため、課徴金も排除措置命令も免れました。
また、九州電力は立ち入り検査のあとに自主申告したうえ、調査に積極的に協力したため、真相解明に貢献度が大きい企業の課徴金を減額する「調査協力減算制度」が適用され、合わせて30%が減額されました。
電力会社に求められることは?
今回の問題を受けて、各社に求められることは何なのか。

公共経済学が専門で電力やガスの政策に詳しい東京大学社会科学研究所の松村敏弘教授に聞きました。
「本来はいろいろな事業者の競争によって切磋琢磨し、消費者の利益を図るということが自由化やシステム改革の本旨であるにもかかわらず、競争を制限し、価格を高止まりさせるような具体的な行動が出たことはとても残念だ」
「まずはコンプライアンスなどを今まで以上に整備し、このようなことを繰り返さないことを体制として整備することが重要だ。それに加えて全国規模で切磋琢磨しながら競争し、『今までと体質が変わった』と消費者に分かるような形で積極的にアピールする必要がある。今回問題とならなかった地域でも“暗黙のカルテル”が起こる可能性はあるため、本当に競争が機能しているのか、電力・ガス取引監視等委員会や公正取引委員会、それに消費者も厳しい目で見ていく必要がある」
「本来はいろいろな事業者の競争によって切磋琢磨し、消費者の利益を図るということが自由化やシステム改革の本旨であるにもかかわらず、競争を制限し、価格を高止まりさせるような具体的な行動が出たことはとても残念だ」
「まずはコンプライアンスなどを今まで以上に整備し、このようなことを繰り返さないことを体制として整備することが重要だ。それに加えて全国規模で切磋琢磨しながら競争し、『今までと体質が変わった』と消費者に分かるような形で積極的にアピールする必要がある。今回問題とならなかった地域でも“暗黙のカルテル”が起こる可能性はあるため、本当に競争が機能しているのか、電力・ガス取引監視等委員会や公正取引委員会、それに消費者も厳しい目で見ていく必要がある」
電力各社の反応 訴訟の対応も
公正取引委員会から課徴金の納付命令などを受けたことについて、電力各社は会見を開いたり、コメントを発表したりしました。
関西電力「2度と起こさないよう」
関西電力の森望社長は、30日夕方、大阪市内で記者会見を開き、違反行為について謝罪しました。

会見で自主申告を決断した経緯などを問われたのに対し、森社長は「2020年の秋ごろに外部からの指摘を受けて社内調査を行った結果、独占禁止法違反に該当すると考えられる行為を認識したので、その時点で公正取引委員会に報告を行った。他社についてのコメントは差し控えさせていただく」と述べました。

その上で森社長は「競合他社との接触に関するルールを設けるなどこれまでも対策に取り組んできたが、このような事態を2度と起こさないという強い決意のもと、私が先頭に立って再発防止と法令順守体制の強化の取り組みを徹底していく」と述べました。
中国電力 社長退任へ「深くおわび」 見解の違いも
中国電力は清水希茂会長と瀧本夏彦社長が、ことし6月の株主総会で退任することを明らかにしました。

瀧本社長は30日夕方に開いた記者会見の中で「電力自由化の目的に反し、公正で自由な競争を阻害しかねない事案を起こしたことについて極めて厳しく受け止めるとともに、お客様をはじめ関係者に多大なる心配や迷惑をかけたことを深くお詫び申し上げます」と述べました。
ただ公正取引委員会から課徴金の納付命令と排除措置命令を受けたことについては、事実認定と法の解釈に公正取引委員会との間で一部見解の違いがあるとして、今後、内容を精査、確認のうえ、命令の取り消しを求める訴えを起こすことも視野に入れて、慎重に対応を検討していくとしています。
ただ公正取引委員会から課徴金の納付命令と排除措置命令を受けたことについては、事実認定と法の解釈に公正取引委員会との間で一部見解の違いがあるとして、今後、内容を精査、確認のうえ、命令の取り消しを求める訴えを起こすことも視野に入れて、慎重に対応を検討していくとしています。
中部電力「見解に相違」 取り消し求め訴訟へ
中部電力は水谷仁副社長が記者会見し「見解の相違がある」として、命令に対して取り消しを求める訴訟を起こすことを明らかにしました。
水谷副社長は「関西電力との間で営業活動を制限するような合意はなかった。今後、訴訟において当社の考え方を説明し、司法の公正な判断を求めていく」と述べました。
水谷副社長は「関西電力との間で営業活動を制限するような合意はなかった。今後、訴訟において当社の考え方を説明し、司法の公正な判断を求めていく」と述べました。
九州電力「厳粛に受け止め」
九州電力は「コンプライアンス行動指針の中で競合企業と公正な競争関係の維持を明記し、従業員への周知徹底をはかるなどしてきたが、今回、行政処分を受けたことを厳粛に受け止めている」とコメントしました。
今後の対応については、命令の内容を精査、確認したうえで、行政処分を受け入れるかどうかを慎重に判断するとしています。
今後の対応については、命令の内容を精査、確認したうえで、行政処分を受け入れるかどうかを慎重に判断するとしています。