【詳しく】亡くなった人の遺留金21億円 保管自治体の苦悩は?

身寄りのない人が亡くなったあとに残された「遺留金」。総務省の調査で、全国の市区町村に総額21億円あまりが保管され、その額は3年半で8億4000万円増えていることがわかりました。

保管する自治体は家族や親族など相続する人を探す調査にあたりますが、みつからなかったり、家族のつながりが希薄で相続を拒否されるケースも。

遺留金をめぐる実情を、詳しくまとめました。

そもそも「遺留金」とは?

「遺留金」は、亡くなった人が残したお金のことです。

総務省行政評価局は身寄りのない人が亡くなったあとに残した遺留金の保管や処理について全国1741すべての市区町村を対象に調査を行い、1000を超える自治体から回答がありました。

それによりますと、全国の自治体が保管する遺留金の総額はおととし10月末の時点で少なくとも21億4900万円あまりに上ったということです。

2018年3月末の時点ではおよそ13億円で、3年半で8億4000万円増加しています。

保管する自治体は相続人を探し、みつからなければ最終的には遺留金を国庫に納めることになりますが、単身世帯が増えて家族のつながりが希薄になる中、調査は難しくなっていて、自治体の負担が課題となっています。

遺品整理の現場では

3月、千葉県松戸市のマンションの一室で、遺品整理の現場を取材しました。

部屋に住んでいた60代の男性はことし1月、布団の上で亡くなっているのがみつかりました。

死因は急性心筋梗塞で、死後3日がたっていたということです。

財布やスマートフォンなどは警察を通じて家族が受け取り、さらにこの日の業者による遺品整理では小銭や通帳、身分証などが見つかり、家族に引き渡されていました。
遺品整理に立ち会った30代の長女は「亡くなる1週間ほど前に病院への付き添いで会いましたが、一緒に住んでいる訳でもなく、少し疎遠になっていました。相続の手続きもあって慌ただしいので、落ち着いて思いをはせることもまだできません」と話していました。

亡くなった人が残した「遺留金」について、この男性の場合は娘など家族が相続することになります。
一方、相続人が見つからなかったり、相続を放棄したりしたケースでは自治体が保管しなければならなくなります。

遺品整理にあたった会社の担当部長は「10年近く仕事をしていますがアパートや団地などで1人で亡くなる人の遺品整理が増えています。一見わからないような所に現金が保管されていることも多く、慎重に探すようにしています」と話していました。

引き取り手なく負担増す自治体

今回の総務省の調査では、亡くなった後に引き取り手のない人が2021年10月までの3年7か月の間に、全国で少なくとも10万5773人いたこともわかったということです。
神奈川県の横須賀市役所には、引き取り手がない遺骨およそ150柱が納められた骨つぼが並ぶ部屋があります。

市の納骨堂に移すまで一時的に保管する場所で、30年ほど前はほとんどなかったのが、最近は年間で50前後に上ると言います。

身元がわかっていても、▽親族が見つからなかったり、▽見つかっても引き取りを拒まれたりするケースが少なくないということです。

亡くなった人の引き取り手がない時には「墓地埋葬法」などの法律で自治体が火葬すると決められていて、費用も自治体の負担となります。

引き取り手ない人の火葬 1人につき約21万円

川崎市では、こうした法律を適用して市が火葬するケースが2017年度は20件でしたが4年後の2021年度には81件とおよそ4倍に増えました。

川崎市の場合、火葬は1人につき21万円ほどかかり、遺体の保管料などもあわせて市が負担する葬祭費用は年間2400万円あまりとなっているということです。

川崎市担当者「市の負担増に懸念」

川崎市生活保護・自立支援室の山崎隆史担当課長は「葬祭の費用は亡くなった人の所持金から充当するものの、すべてまかなえるほど余裕がある人ばかりではなく不足分は市で負担している状況です。今後、件数が増えればそれだけ負担が増えるので懸念している」と話していました。

増える遺留金の事務負担 独自の対応とる自治体も

自治体の中には増え続ける「遺留金」による事務の負担に苦慮する中で独自の対応をとるところもあります。

神戸市では、相続人の調査などの負担を軽減しようと2018年に
▽「遺留金」の発生から相続人調査を経て処理するまでの流れや
▽相続人が見つらない場合の手続きなどまとめた職員向けのマニュアルを独自に作って対応しています。

一方、保管する遺留金は
▽2021年度には376件、6604万円で件数、金額ともに増え続け、事務作業の負担も大きくなっているということです。

遺留金は最終的には国庫に入る仕組みで、自治体には財政的な支援もないとして、神戸市保護課の担当者は「単身高齢者の増加に伴い、今後も遺留金の増加が予想される。遺留金を自治体の財源とするなど現場の負担感が減る取り扱いを国に求めていきたい」と話していました。

自治体の中には庁舎内で保管していた遺留金を紛失するケースも出ています。

遺留金「紛失」する自治体も

福井県小浜市は、引き取り手なく亡くなった人の遺留金41万円を紛失したと3月17日に発表しました。

市によりますと、遺留金は2016年から保管し、その後7年間、相続人の有無に関する調査が難航したことなどから市役所の中の金庫に入れられていましたが、その間、1度も金庫の中を確認していなかったということです。

市では今後、現金はできるだけ庁舎内には置かず、金融機関に預けるなどして再発防止を図るとしています。

また、同じ17日には福岡市博多区も金庫で保管していた遺留金およそ1万円や通帳を紛失したと発表しました。

福岡市では葬祭費の支払いを終えて残った遺留金は速やかに市の口座に移して保管するというルールを定めていましたが、職員がこのルールについて認識していなかったということです。

市では保管に関するルールを徹底するほか、毎月、金庫内の現金や通帳について保管記録と照合するなど、対応を強化するとしています。

横須賀市担当者「調査に労力割かれ 支援必要な人にとどかず」

神奈川県横須賀市では、福祉の窓口となる地域福祉課の職員が相続人の調査に対応にあたっています。

市によると、遠方に住む親族との手紙でのやりとりに数か月かかったり、相続人が何人もいて調整が必要になるなど対応に時間と労力がかかるケースが少なくないということです。

地域福祉課の岩崎俊樹主査は「調査などに労力を割かれることで、福祉の支援を必要としている今を生きる人に労力を使えない状況は難しい。一定のルールが示されて、遺留金の対応や引き渡しがスムーズになればそうした人への支援に注力できる」と話していました。

「わたしの終活登録」で負担軽減を

こうした中、市が取り組むのは、自治体が主導で行う「わたしの終活登録」です。
希望する市民が
▽葬儀の契約先や
▽遺言書の保管場所
▽墓の所在地などの情報をあらかじめ登録し、
本人が亡くなったあとに、病院や警察、本人が指定した人などからの問い合わせに限って、登録した情報を開示する仕組みです。

本人の希望を行政が把握しておくことで本人の望んだ形で葬儀などが行われ、残った財産も有効に使われることを目指して市が登録を呼びかけています。
横須賀市終活支援センターの北見万幸福祉専門官は「どんなにエンディングノートや遺書に書いても見つからなければ意味がなく、自治体がプラットフォームを提供することは重要だと考えています。最低でもお金や大切な物をどうして欲しいかはあらかじめ誰かに伝えておいた方がいいと思います」と話していました。

国はどんな対応?

今回の調査結果を発表した総務省は、保管する自治体では負担が大きくなっているとして、厚生労働省などに対し、負担の軽減につながる情報を関係機関に周知するよう勧告しました。

調査では▽死亡届が親族から提出されず、相続人の調査に必要な戸籍謄本の交付を請求できないケースや、▽亡くなった人の葬祭費に充てるために自治体が本人の口座から預金を引き出そうとしても金融機関が応じないケースも確認されたということです。

このため総務省は、遺留金の取り扱いについて指針を出している厚生労働省と法務省に対し、戸籍謄本の交付の請求や預金の引き出しについては、必要な場合には自治体が対応できる法的根拠があることを指針で示し、関係機関に周知するなど改善を行うよう勧告しました。

専門家「負担軽減には国の財政的支援が必要」

自治体法務に詳しい福知山公立大学の藤島光雄教授に聞きました。

藤島教授は「各地の自治体では生活保護の受給者が増える一方、ケースワーカー不足も深刻でただでさえ業務が忙しく、遺留金に付随する相続人調査の業務は大きな負担で、遺留金の処理は緊急の課題だ」と指摘しています。

その上で「遺留金などについて国も少しずつ前向きに取り組んできてはいるが、今後も増えることが見込まれる中、相続人調査など処理にかかる費用は自治体の持ち出しで、負担を軽減するには国の財政的な支援が必要だ」と話していました。