社会

教科書検定 WEB動画生かす工夫 性の多様性の記述も

来年4月から小学校で使われる教科書の検定が終了しました。

今回は二次元コード(QRコード)を使ってWEB上の動画などを生かす教科書が増えたほか、性の多様性やいじめ問題を扱うものも目立ちました。

また、新型コロナウイルスについての記述やLGBTQなど性の多様性に関する記述を加えたもののほか、大谷翔平選手の写真を掲載したものもありました。

教科書225点が合格

今回の教科書検定は小学校149点、高校78点のあわせて227点の教科書が申請され、文部科学省の検定意見による修正を経て、高校の「外国語」の不合格1点、「数学」の取り下げ1点を除いた225点が合格しました。

小学校の全教科書にQRコード

小学校ではWEB上の動画などを生かすため、すべての教科書でQRコードが掲載されました。

文部科学省によりますと、1冊あたりのQRコードの数も大幅に増え、英語の発音や理科の実験の動画など、さまざまな授業に生かされるということです。
一方、QRコードをめぐり、検定意見も付きました。

ある国語の教科書では昔話の冒頭のみを教科書に載せて残りをWEBに掲載しましたが、「扱いが不適切」という意見が付き、結末まで教科書に掲載するよう修正しました。
また、紹介できるWEBページは教科書会社が管理するものに限られるため、リンク先を厚生労働省や警察庁のWEBページにしていたQRコードに意見がつき、修正が加えられました。

教科書会社の担当者からは、「WEBページを作成する経費が新たな負担になっている」という声も聞かれました。

活用 現場では

今の教科書でもQRコードの掲載が始まっていて、渋谷区の小学校では英語の発音や書写の書き方などの指導で役立てられています。

渋谷区にある区立幡代小学校は、教科書に書かれているQRコードをタブレットで読み込ませるなどして授業で活用しています。

英語では英文の発音を聞いたり、その表現が実際に使われる場面を動画で見ることができます。

また、書写では書き順やとめ、はらいを実際に書いている動画で学ぶことができます。

国語の教科書で登場した生き物や作品の作者などについて、WEB上で解説する内容のものもあります。

一方で、タブレット端末の電池が切れるなどして、授業がスムーズに進まなくなることもあるということです。

教諭「動画は視覚的に分かりやすい 子どもの理解深まる」

渋谷区立幡代小学校の望月心教諭は「動画は視覚的に分かりやすいので、子どもたちが理解できる場面が多くなり、『もっと調べてもいいですか』と聞かれる事も増えてきた。指導の幅は広がっていて、教師の側も新しい授業の作り方を見いだしていかなければいけないと思います」と話していました。

専門家「学びが広がることを期待」

デジタル教育に詳しい東京学芸大学の高橋純教授は、「インターネットで検索すると情報がありすぎるので、まずはQRコードを使って質が保証された情報に触れていくのは非常に重要だ。子どもの興味が広がったり深まったりすることが期待できる」と話していました。

また、教師の理解度や地域の取り組みによってパソコンやタブレット端末の活用が進んでいない地域もあるとして、「ICTが苦手な先生でもQRコードなら子どもたちに勧めることができるのではないか」と話し、地域による活用の差が縮まる可能性があると指摘しています。

今後については「QRコードの活用をきっかけに、検索やAIとの対話ソフトなどでみずから積極的に学んでいく姿勢が非常に重要になる。世の中で行われる勉強の仕方がどんどん学校にも入り、社会と接続するような授業になるとよい」と話し、QRコードから学びが広がることを期待していました。

新型コロナの話題 記載の教科書も

今回は小学校の検定としては初めて、新型コロナウイルスについて記載された教科書が申請され、合格しました。

このうち保健の教科書では、「2019年12月に中国で初めて発生が確認された後、国境をこえて『あっ』という間に各地に広がり、世界中で大流行した」と記載されています。

また、新聞記事の一部を掲載し、「新しい感染症が現れると、不安をあおるデマやうわさがインターネットに流れることがある」として、正しい情報かどうか判断する必要があると伝えています。
道徳の教科書では、新型コロナの感染者が出る中、防護服を着てかぜの症状がある患者への診察を続ける開業医の話が紹介され、「小さなクリニックでも、かぜとコロナの見分けがつかないなか、命がけで見えないウイルスと戦っている」などと説明されていました。
また理科の教科書では、人工心肺装置=ECMOを紹介し新型コロナの治療でも使われ、多くの命が救われたと記載されています。

性の多様性扱うものも

今回の検定に申請された小学校の教科書では、LGBTQなど性の多様性に関する記述を加えたものが10点あり、前回検定時の2点に比べて5倍に増えました。

性の多様性をめぐっては、▽東京オリンピックで歌手のMISIAさんが性の多様性を象徴するレインボーカラーのドレス姿で登場した写真を掲載し、LGBTQなど性的マイノリティーの人たちへの取り組みが広がってきたことを紹介しています。
また、▽性別による固定観念をなくし「自分らしさ」を尊重できる取り組みとして、男女ともにスカートやズボンの制服を自由に選べる学校が増えていることも紹介されています。

一方、身近なテーマから男女差別や偏見について考えさせる教科書もありました。
ある教科書では、女の子がおばあちゃんにもらったかばんが希望していた水色ではなくピンク色だったという題材をもとに、日常生活でも相手の性別や出身地などで思い込んだり偏った考えをすることがないか問いかけています。
別の教科書は、「女の子だから野球は無理」とか「男の子だから泣くな」とかいった言葉をあげた上で、誰もがそれぞれの違いを尊重して生きるためにはどうすればいいか考えさせる内容となっています。
▽女性が医師になるための試験を受けることが認められていなかった時代に日本で最初の女性医師になった荻野吟子さんや、▽アメリカで弁護士として男女の格差是正を求める訴訟を数多く主導し、連邦最高裁判所の判事も務めたルース・ベイダー・ギンズバーグさんなど、差別や偏見と闘ってきた人たちのエピソードを紹介する教科書もあります。

いじめに関する記述も多く盛り込まれる

昨年度、全国の学校が把握したいじめの件数が61万件を超え過去最多となる中、国語や道徳、保健など48点の小学校の教科書にいじめに関する記述が盛り込まれました。

「保健」の教科書では、▽「からかう、悪口を言う」▽「パソコンやスマートフォンを通じた嫌がらせ」などといった具体的な行動を挙げた上で、「このようなことをされた人がいやな気持ちになったり痛みを感じたりすると『いじめ』になる。した人が『いじめ』と考えていなくても、『いじめになる』」と記載されています。
道徳の教科書では「法律」について取り上げたページで、「相手をぶったりけったりしてけがをさせるいじめは刑法の『暴行罪』や『傷害罪』、持ち物をぬすんだりかくしたりこわしたりするいじめは『窃盗罪』や『器物損壊罪』、相手の悪口を言いふらすいじめは『名誉毀損罪』や『侮辱罪』に当たることがあります」と伝えています。
国語の教科書では、群れで仲間はずれにされたアネハヅルの物語を取り上げ、寄り添ってくれた仲間などとの関係性や心情の変化について議論するように促しています。

“国や郷土愛学ぶうえで不適切”検定意見が過去最多に

小学校の道徳の教科書では、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」を学ぶうえで不適切だという検定意見が13件、付けられ、道徳の教科書検定が始まって以来、最も多くなりました。

今回で3度目の検定となった小学校の「道徳」では、作成した6つの会社の教科書が、文部科学省の検定意見による修正を経てすべて合格しました。

このうち5つの会社が出版する教科書に対し、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の扱いが足りず不適切だという検定意見が13件、付けられました。

前回(2018年度)の2件から大幅に増え、道徳の教科書検定が始まった6年前以来、(2016年度)最も多くなりました。
検定意見を受けて、ある教科書では、地域のあんこ屋の話でお店の人が話す「いつも買いに来てくれるちいきの人のためにも、がんばろうと思うんだ」というせりふの後に、「これからも日本のあじをつたえていきたいね」と追記されるなどの修正が行われました。
別の教科書では、国宝・姫路城で木材を組み合わせる「木組み」の技術を紹介する文に「日本古来のすぐれた」という説明が追記されました。

作成した6つの教科書会社に取材したところ、「国という概念は5年生の社会で学ぶので、低学年の教科書ほど『国を愛する態度』を盛り込むのが難しい」という声や、「他社の教科書との間でどのように個性を出していくか、課題を感じる」という声もありました。

検定意見が増えた背景について、文部科学省は「前回よりも取り扱う題材の入れ代わりが多かったことで、必要な要素が抜けてしまったのだと捉えている」と話しています。

道徳教育に詳しい畿央大学の島恒生教授は、「道徳は一定の価値観を教え込むものではない。子どもたちは、新しい教科書を使って考え、話し合うことでいろいろな見方を知ってほしい。教員には自分の郷土をはじめとして、国や世界へと視野を広げるような授業を期待したい」と話しています。

教科書に大谷翔平選手・藤井聡太六冠も登場

教科書の中には、スポーツ選手や宇宙飛行士、芸能人の写真やエピソードが掲載されています。

小学1年生の算数の教科書にある「かずをさがそう」というコーナーでは、大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手が背番号17番のユニフォームを着た写真が掲載されています。
道徳の教科書の「自分の長所をのばす」というページでは、3月、将棋の八大タイトルの1つ、「棋王戦」を制し6つ目のタイトルを史上最年少で獲得した藤井聡太六冠が取り上げられ、幼いころから負けずぎらいだったエピソードが紹介されています。
英語の教科書では、さまざまな分野で活躍する人たちの特徴を英語で話すよう促していて、
▽3月、地球に帰還した宇宙飛行士の若田光一さんや
▽国民栄誉賞が授与された車いすテニスの国枝慎吾さんらの写真が掲載されています。

※タイトルなどの表現を一部変えています。

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