自転車用ヘルメットの着用が努力義務化 あなたはどうする?

自転車用ヘルメットの着用が努力義務化 あなたはどうする?
ことし4月1日から自転車に乗る際のヘルメットの着用がすべての人を対象に努力義務化されます。

まだ周りを見渡してもヘルメットをかぶって自転車に乗っている人は少ないように感じます。

あくまでも努力義務なので、かぶらなくても罰則などはありませんが、皆さんはどう考えますか?
(松山放送局 カメラマン 岡部馨)

あの時、ヘルメットをかぶっていたら…

渡邉大地さんです。

愛媛県伊予市の高校に通う1年生でした。

9年前、交通事故で亡くなりました。
優しい性格で写真部に所属し、日常の何気ない一瞬を切り取ることが得意だったといいます。

大地さんが事故に遭ったのは平成26年12月。

期末試験の勉強を終えて、学校から自転車で帰宅する途中、横断歩道をわたっていたところをトラックにはねられたのです。

頭などを強く打ち病院に運ばれましたが亡くなりました。

へルメットはかぶっていませんでした。

相次ぐ自転車の重大事故 ヘルメット着用が努力義務化に

自転車が関係する重大事故は全国各地で相次いでいます。

警察庁によりますと、おととし1年間に自転車が関係する事故は全国で6万9694件、交通事故全体に占める割合は年々、増加傾向にあります。
また亡くなった人は、おととしまでの5年間に2145人で、このうち6割が頭部の致命傷が原因だったということです。

自転車に乗る際のヘルメットの着用について、これまで法律では13歳未満の子どもを対象に保護者が着用させるよう努めなければならないとされていました。

しかし、大人を含めて着用を習慣づけてもらうことで事故による被害を最小限に抑えようと、法律が改正され、4月1日からすべての人に着用が努力義務化されることになったのです。

へルメット着用しないと致死率が2.2倍に

実際の事故で頭部にどれくらいの衝撃がかかるのか。

JAF=日本自動車連盟が自転車どうしの衝突事故を再現して、人形を使って実験しました。
ぶつかった衝撃で自転車は転倒し人形の頭は地面に打ちつけられます。

ヘルメットを着用した状態と着用していない状態で頭部の衝撃を比較すると、着用していない場合の衝撃はおよそ17倍に上ることが分かりました。

また警察庁によりますと、おととしまでの5年間の自転車事故で、ヘルメットを着用していなかったケースの致死率は、着用していたケースの2.2倍以上だったということです。

着用していないと頭蓋骨を折るなどの大けがにつながり、死亡のリスクが大幅に高まります。

着用率全国1位 “サイクリング先進県”の愛媛県

愛媛県と広島県を結ぶ「しまなみ海道」。
瀬戸内海の景色を楽しみながら橋の上を自転車で走ることができ、「サイクリストの聖地」として知られています。

また愛媛県は11月の第2日曜日を「愛媛サイクリングの日」に定め、各地で自転車に関連するイベントを開催するなど自転車文化の普及に力を入れています。

いわばサイクリング先進県とも言える愛媛県。

民間団体が3年前に行った自転車用ヘルメットの着用率の調査では、全国平均が11.2%だったのに対して、愛媛県は29%と全国1位でした。
朝の通学時間帯には、ほとんどの高校生がヘルメットをかぶって通学していて、実際に中高生に限って着用率を見ると、県警が去年10月に行った調査では、ほぼ100%という結果でした。

愛媛県でのヘルメット普及 背景に息子を亡くした父親の思い

愛媛県の中高生の間で、自転車用ヘルメットが定着した理由は渡邉大地さんの事故など、かつて通学中の高校生が巻き込まれる悲しい死亡事故が相次いだことがありました。
大地さんの父親、渡邉明弘さんです。

自分のように子どもを交通事故で失って悲しむ人を二度と出したくないと、渡邉さんは事故の後から交通安全と命の大切さを訴える講演活動を続けています。
渡邉明弘さん
「私たちが15年間大切に育ててきた命が、事故が起きてたった5時間で終わってしまいました。万が一、交通事故に遭って頭を打ったときには、ヘルメットが割れて犠牲になり、大切な命を守ってくれます。交通事故は一瞬にして家族の平和を奪っていきます。そのことを忘れないでください」
渡邉さんの思いは行政を動かします。

県教育委員会は事故の翌年の平成27年、県立高校の生徒などに対して自転車に乗るときのへルメットの着用を義務化しました。

さらに県も県立高校の生徒に自転車用ヘルメットを無償で配布するなど、予算の面でも支援を行いました。
大地さんが通っていた高校でも、自転車通学を希望する生徒に対してへルメットの着用と保険の加入を義務づけるようになり、今では自転車に乗る時のヘルメットの着用は当たり前になっています。

「ヘルメットで助かった命」

「へルメットのおかげで今も生きている」と話す人がいます。
高校3年生の兵頭穂乃花さんです。

9年前の事故で亡くなった渡邉大地さんと同じ高校に通っています。

兵頭さんは、おととし交差点を自転車で横断中に大型トラックにはねられる事故に遭いました。

衝撃で体はアスファルトの道路に強くたたきつけられて、左ひじの骨を折る大けがを負いました。

一方、頭部も強く打ちましたが、へルメットをかぶっていたこともあって命に別状はなかったということです。
兵頭穂乃花さん
「左ひじの骨折と左側頭部を強く打ちました。事故の衝撃でかぶっていたヘルメットは割れました。かぶっていなかったら死んでいたと思います。病院の先生にも『ヘルメットがなかったら死んでた』と言われてドキっとしました」

助かった高校生「夢や人生守るため着用して」

ヘルメットのおかげで九死に一生を得たと話す兵頭穂乃花さん。

この春「家庭科の教師」を目指して県外の大学に進学します。

一度きりの人生を大切にするために、1人でも多くの人にヘルメットを着用してほしいと話しています。
兵頭穂乃花さん
「あのとき、もしヘルメットをかぶっていなかったら、今自分がやりたいと思っていることができなくなっていたと、すごく感じています。ヘルメットを着用しているかしていないかで自分の人生が続くか終わるか変わってくると思います。将来やりたいことがある人や人生を終わらせたくない人は絶対にヘルメットを着用してほしいです」

息子亡くした父「まずは大人が模範示して」

かけがえのない息子を事故で失った渡邉明弘さん。

大切な子どもの命を交通事故から守るため、自転車に乗る時には大人が率先してヘルメットをかぶり、子どもたちに模範を示すことが大切だと訴えます。
渡邉明弘さん
「子どもの見本になるという意識があれば、ヘルメットをかぶることができると思います。子どもは大人を見て育ちます。周りの大人が当たり前にかぶっていれば、子どもたちも同じように自然とかぶるようになり、いい連鎖が続いていくと思うんです。そうやって少しずつみんなの意識が変わっていけばいいです。今はまだ『ヘルメットかぶったら暑い』とか『髪型が崩れる』とかいう人もいるかもしれませんが、いずれは『かぶるのが当たり前』とみんなが言うような時代になればいいなと思います」
松山放送局 カメラマン
岡部 馨
2007年入局
専門は山岳取材
登山も自転車も安全第一
かぶろう自転車ヘルメット