ビジネス特集

なぜ今、瓶が足りない? 日本酒メーカーも苦悩

「長年、この業界で働いてきたが、こんなことは初めてだ」

創業90年余りの酒造メーカーの役員のことばです。

コロナ禍からの回復でようやく飲食店がにぎやかになり始め、酒造メーカーも生産を増やそうとしていましたが、お酒を入れる瓶の不足という思わぬ試練に直面しています。(経済部記者 鈴木雄大)

日本酒を襲う一升瓶の不足

私が取材に訪れたのは、青森県にある創業90年余りの酒造メーカーです。
青森県にある酒造メーカー
このメーカーでは年間18万本ほどの日本酒の製造・販売を手がけていますが、去年の年末ごろから商品に必要な一升瓶が手に入らなくなったといいます。

このメーカーでは商品ごとに異なる色の一升瓶を使っていて、これまでなら注文してから2週間ほどで届いていたといいます。

ところが、1月に発注した一升瓶は3月下旬となった今も届いていないということです。

この影響で一升瓶サイズの主力商品の販売を3月から中止せざるをえなくなり、720ミリリットルのサイズだけを売ることになりました。
瓶の納入業者に問い合わせても、いつごろ入ってくるかはわからないと言われています。

一升瓶で1日あたり700本を製造する予定だったのが、720ミリリットルの瓶で1000本を製造することにしたため、作業にかかる時間がおよそ1.5倍に増えたうえ、利益面でも苦しいといいます。

3月の売り上げは去年の同じ時期と比べて10%ほど減少する見込みで、来月以降はさらに落ち込むことを懸念しています。
三浦酒造 三浦文仁専務
「一升瓶2本分の売り上げを確保するには、四合瓶(720ミリリットルの瓶)なら5本売れないといけないのですが、いまはカバーするだけの量は出ておらず、売り上げは落ちています」
日本酒の出荷は例年、11月から翌年の6月にかけて行いますが、ことしは現時点で必要な瓶の量を確保できていません。

さらに納入業者からは一升瓶の代わりに使っている瓶も今後、不足する可能性があると言われています。
三浦酒造 三浦文仁専務
「20年以上この業界にいるが、今までこれほど瓶が足りないということはなかった。紙パックに変更するにしても多額の設備投資をしなければいけない。また、パックにした場合、これまで通りに買ってくれる人がどれだけいるかも不安だ」

一升瓶の不足、新型コロナが影響

どうして瓶が不足しているのか。調べてみると、いくつかの要因があることがわかってきました。

1つは新型コロナウイルスの影響による需要の落ち込みです。

3年前に感染が広がったことをきっかけに居酒屋など飲食店の売り上げは大きく減少し、日本酒の販売も影響を受けました。

一升瓶の出荷本数でみてもこの傾向は顕著で、コロナの感染が広がる前の2019年には4936万本だったのが、翌2020年には17%余り少ない4076万本に減少。2021年には3892万本とさらに落ち込みました。
一升瓶などの製造を手がける大手企業は国内に3社ありますが、このうち1社がこうした需要の落ち込みや、このところの燃料費の高騰を受けて、兵庫県姫路市の工場で行っていた瓶の生産を終了しました。

一方で、去年に入ってからはコロナの行動制限がなくなる中で、飲食店の需要も徐々に回復していきました。

一升瓶の出荷本数も去年、回復に転じましたが、需要の急回復に供給が追いつかなくなっているといいます。

一升瓶だけでなく、ビール向けなど飲料用の瓶も不足しています。

再利用の後退など構造的な要因も

もう1つ、深刻なのが業界を取り巻く構造的な要因です。

日本酒離れや、ペットボトルの普及など容器の多様化で、一升瓶などの出荷本数はコロナ禍の前から減少傾向が続いていました。

さらに瓶そのものの色や形状も多様化していく中で、瓶の分別や回収が複雑になったことで、再利用されずに廃棄されるケースが増えているといいます。

業界団体の統計を見ても、酒や調味料などに使われる一升瓶の回収量は15年前の2007年度には1億9896万本あったのが、2021年度には4751万本とおよそ4分の1に減少しています。業者による一升瓶の回収率も15年前には85%余りだったのが、71%余りまで減少しています。
ガラス瓶の回収と販売を手がける商社の社長で、瓶の再利用の促進活動などを行う全国びん商連合会の今井明彦会長は、新品の一升瓶が不足していることを受け、酒造メーカーの中には再利用の一升瓶に切り替える動きも出ているとしつつも、こうした構造的な問題がある中で、瓶不足を直ちに解消するのは難しいという見方を示しています。
全国びん商連合会 今井明彦会長
「もしかすると数年は続くのではないかなと思います。将来的にどんどんガラス瓶が必要になってくるのであれば、瓶メーカーが新工場を作るとか、設備を増強して生産能力を増やすこともあると思うが、長期的にみれば、瓶の需要が減っていく可能性のほうが残念ながら高いので、それはできない気がする」

瓶メーカーも生産ひっ迫

瓶の製造でトップシェアの日本山村硝子は、年末年始の休暇を5日短縮するなどして、休日返上で増産体制を敷いていますが、それでも限界があるといいます。

本格的な増産を行うためには、瓶を作るための新たな窯を新設するなど100億円近くの設備投資が必要になるとみているうえ、仮に投資をするとしても完成までには2年ほどを要すると話しています。
日本山村硝子 高橋啓市さん
「取引先などからは供給量をもっと増やしてくれということを言われているが、すぐにこの状態を解消することは難しい」

ポイントで瓶のリユース促進を

こうした中、瓶を繰り返し使うリユースを積極的に進めようという酒造メーカーも出てきています。

北海道旭川市の酒造メーカー「男山」は、2年前からメンバーシップ制度と呼ばれる取り組みを始めました。

対象となる空き瓶をこの会社に直接持って行くと、ポイントがたまる制度です。
再利用のポイントカード
対象となっている一升瓶や720ミリリットルの瓶を持っていくと、サイズに関係なく空き瓶1つにつき1ポイントがもらえ、北海道の酒造メーカーの空き瓶の場合には、倍の2ポイントになります。

36ポイントで720ミリリットルの商品と、72ポイントためれば一升瓶の商品と交換できます。

徐々に制度の認知度が上がったことで、空き瓶を持ち込む人も増えてきたということで、これまでにおよそ2万本を回収したということです。
瓶を持ってきた人
瓶を持ってきた人は「リサイクルにも出せるけど、ただ出すだけなので、こっちにもってくるとお得な感じがします。そのまま使ってもらえるなら1番いいですよね。洗って消毒してそのまま使えるというのが一番いいかなと思います」と話していました。

回収した瓶は専用の機械で洗浄し、再び商品の容器として活用します。

こうした取り組みもあって、この酒造メーカーでは販売される一升瓶の商品うち、およそ9割で再利用の瓶、いわゆるリユース瓶が使われています。
男山 山崎五良取締役
「リユースできる瓶なのに、捨てられている瓶がまだまだ見受けられる。そういった瓶を積極的に使うことでわれわれにもメリットがあるし、消費者の皆さんに持ってきていただければ、ポイント還元の形でメリットが出るので、どんどん進めていきたいと思っている」

環境を意識して変革を

日本では一升瓶などの需要はこれまで減少が続いてきましたが、世界を見渡せば、環境意識の高まりで空き瓶のリユース需要は高まっていると言われています。

私が取材を進める中でも「ペットボトルなどの瓶以外の容器は使い勝手がいいが、環境を考えれば、それ以外の選択肢があってもいいのではないか」ということばを関係者から聞きました。

「持続可能な社会」の実現に向けて、環境への負荷をいかに減らすかが世界で議論されていることを考えれば、私たちもいま一度、使い捨てから脱却し、瓶など再利用しやすい資源の価値を見直す時に来ているのではないかと思います。
経済部記者
鈴木雄大
2022年入局
北九州市出身
4月から宮崎局へ

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