“メタバースで婚活” 新たな出会いの形

“メタバースで婚活” 新たな出会いの形
若者を地方に呼び込むために全国の自治体が盛んに行ってきた事業の一つに婚活イベントがありますが、新型コロナや技術の進歩を機に、婚活も多様になってきています。

そんな中、山梨県北杜市が思いついた新たな婚活の形は…。

出会いを求める人たち全員をインターネット上の仮想空間“メタバース”に連れて行って、まずは仮想空間の中でカップルになってもらおうというものです。

仮想空間上での婚活イベント。
名案か?それとも…?

変化してゆく出会いの形を5か月にわたって密着取材しました。
(甲府放送局記者 大友瑠奈)

分身“アバター”で出会う!

画像に写っている“人形たち”は、れっきとした婚活中の男女です。

事前に登録した39歳以下の男女あわせて23人が“メタバース”上の婚活に参加しました。

メタバースの婚活パーティーでは、人形のような自分の分身“アバター”を事前に作成し、アバターの姿で参加します。

髪型や服装など多種多様、皆さん個性的な装いで参加しています。
メタバースの世界でも従来の婚活パーティーさながらに、参加者1人ずつが自己PRする時間も設けられます。

趣味やこの日の出会いにかける意気込みが伝えられます。

参加者
「今後一緒にすてきな人生を歩めたらなと思います、よろしくお願いします」
1人ずつお相手とおしゃべりする時間も。

アバターのままですが、メタバース上にある青い円の中に入ると、円内の人のみが会話しあえるようになり、2人きりの会話が楽しめます。
この婚活パーティーでは顔や年齢などリアルな情報は明かされず、参加者たちは相手の声や口調で相性を確かめます。

不便に思えますが、女性の参加者からはこれまでの婚活パーティーよりも参加しやすいという声も。
参加した30代の女性
「正直婚活もしたことなかったんですけど、だからといって急にそういう感じの人と直接会うのもなんか嫌だなって。安心する声とか、結構声がポイントなのもあった気がします」。
男性の参加者からは、声だけでも楽しめたという声が。
参加した20代の男性
「やっぱり顔が見えないのは不安ですけど、声のトーンとかで楽しんでいるなとか、相手もちょっと不安な部分があるっていうことを感じられたので、始まってみて特に違和感なく、話ができたと思いました。今こういう社会になってきているので、こういった会もありかなと思いました」

デートもメタバースで

最初のパーティで、8組のカップルが誕生しました。

8組は後日メタバース空間につくられた町で初めて1対1でデートします。
アバターを操作して山に登って町の景色を眺めたり、2人でモーターボートに乗って海の上を走ったりと、現実の世界のようにさまざまなデートコースを楽しみます。

地方婚活の活路に?

北杜市 子育て政策課 篠原伸宗さん
「ここ3年ほどコロナの影響でなかなかリアルができないというところで、ちょうど悩んでいました。ZOOMでの婚活パーティーを2回やったんですけども、それに限らず何か新たな切り口がないかなと模索していた中で、メタバース婚活はおもしろい切り口だと、今回開催をさせていただくことになりました」
北杜市では、地域に若者を呼び込もうとこれまで20年以上にわたって、婚活パーティーやお見合いバスツアーなどのイベントを企画してきましたが、新型コロナの感染拡大の影響で、対面で集まるイベントは2020年から自粛しています。
ウィズコロナ時代の新しい出会いの形として目を付けたのが“メタバース婚活”だったのです。

北杜市では初めての試みを安全なものにしようと、運営会社と一緒に事前に参加者の身分証を確認したり、本人と連絡を取り合ったりして、本人確認を徹底し、参加者に安心してもらえるよう最大限の配慮が行われました。
こうした配慮も功を奏したのか、メタバース上では23人中16人、8組という高い割合でカップルが誕生しましたが…。

メタバース上のご縁から、実際に現実社会でおつきあいする人は一体どのくらい現れるのでしょう?

イベントで誕生した1組のカップルの初デートにお邪魔してきました。

初デートに密着!

30代の女性、すみれさんと20代の男性、レッドさんです。

2人は北杜市が主催したメタバース婚活パーティーで出会い、後日メタバース空間でのデートで相性を確認したあと、実際に対面でデートすることになりました。

女性は東京、男性は北杜市に住んでいますが、初デートの場所は出会いのきっかけにもなった北杜市に決まりました。
年明け早々の1月3日、駅で待ち合わせた2人。

初対面になんだかぎこちない雰囲気です。
市内の神社を参拝して一緒におみくじを引いたり、スケート場を訪れスケートを楽しんだりして、一緒の時間を過ごすうちに2人の距離は徐々に縮まっていきます。

夜ごはんは市内のレストランで。

会話の中にはメタバース婚活パーティーの思い出話も。
女性「全然アバターとは違う。なんであのアバターに?」
男性「本当は似せようと思ったんですけど、全然似ないので全く違うのでいいやって」
2人はデートの最後に今後も会うことを約束して、初デートを終えました。

事前にアバターどうしでコミュニケーションを取っていたことから、実際のデートにつながっても互いのよさを実感できたようでした。

今後2人はゆっくりと関係を深めていきたいと話していました。

顔や年齢わからず破局も

一方、イベントでマッチングしても交際には発展しなかったという人にも話しを聞くことができました。
北杜市在住の20代の男性です。

イベントでマッチングした女性と、直接会ってデートまでしたものの、今は連絡を取っていないといいます。
20代男性(ホワイトさん)
「職場での出会いも少ないですし、イベントでいろんな人と接することができる機会と思ったので参加しました。相手の年齢が自分よりもちょっと上だった、あとは住んでいるところが遠くなっていたっていうのもあって、いろいろな理由が合わさって、今回はしょうがなかったかなっていう部分が多いですかね」
最初から年齢や容姿がわからないというメタバースならではの特徴が、あだとなることもあるようです。

メタバースのほうが出会える?

しかし、メタバース婚活パーティーを運営する東京の企画運営会社は、従来の婚活パーティーよりも顔の見えないメタバース空間での婚活の方がより内面を重視した出会いにつながるため、1回のイベントでカップルが成立する割合が高いと話します。
東京の企画運営会社 高須美谷子代表理事
「仲人業をやってきて、今までミスマッチがすごく多かった。従来の婚活パーティーは会場内で1番きれいな人、条件がいい人に集中してしまう。メタバース婚活の場合には容姿や条件はわかりませんので、話したフィーリングを主だって皆さん記憶して次に進むという特徴があります。メタバース婚活では7割から9割のマッチング率を誇っています。話してみる婚活、フィーリングから入る婚活をぜひ体験してみていただきたい」
この会社では、北杜市以外にも三重県や島根県でも同様のイベントの開催の相談を受けているそうで、“仮想空間”を入り口にした婚活は新たな出会いの形として広がっていきそうです。

取材を終えて

はじめは本当にうまくいくのか?と半信半疑で取材を始めましたが、いざ参加者を取材すると「安心する声かどうか、話が弾むかどうかなど相手の特徴がわかる」という声が多く、皆さん結構楽しんでいたのが印象的でした。

女性の参加者には、婚活したいと思っていてもすぐに見知らぬ相手と直接会うのには抵抗感を感じたり、婚活パーティーに行くために化粧や改まった服装など準備に負担を感じたりする人も多く、顔や名前を伏せた状態のアバターでの出会いがかえって安心するようです。

参加費も対面でのパーティーよりは割安でした。

出会ったその先は相性しだいですが、メタバースから伸びるご縁の糸、気軽な気持ちでたぐってみるのもいいのではと思いました。
甲府放送局記者
大友瑠奈
2018年入局
山口局を経て、甲府局で県政と北杜市を担当
今回メタバースを初体験、声から始まる婚活もあり!と感じています