“サンマ不漁 原因の一つに地球温暖化の影響” IPCC報告書

IPCC=気候変動に関する政府間パネルの報告書では「大気や海洋などの広い範囲で急速な変化が起こっている」としたうえで、漁業など食料生産にも悪影響が及んでいるとされています。こうした中、日本では、食卓になじみの深いサンマの不漁の原因の一つに地球温暖化の影響が指摘されています。

さんまの漁業者の業界団体、「全国さんま棒受網漁業協同組合」によりますと、去年、全国の港に水揚げされたサンマは1万7910トンで、記録の残る1961年以降で最も少なく、豊漁だった2008年の34万3225トンと比べ、わずか5%に減少しています。

かつて水揚げ全国1位を記録したことがある千葉県の銚子漁港では1950年以降で初めて「ゼロ」となりました。

こうしたサンマの記録的な不漁について水産庁の検討会は不漁の原因として、サンマ自体の数の減少とともに温暖化による海水温の上昇や、潮流の変化の影響を受けて「漁場の沖合化」が進んでいるという報告書をおととし公表しました。

サンマの生態に詳しい専門家によりますと、回遊魚のサンマは10度から15度の水温を好み、これまで産卵のため8月以降に親潮に沿って南下し、北海道から千葉県にかけて日本の沿岸を回遊するルートをとっていました。

しかし、気象庁のデータで日本の周辺海域の平均海面水温は2022年までのおよそ100年間に1.2度ほど上昇したことや、2010年以降は、「暖水塊」と呼ばれる温かい海水の渦が釧路沖に長く停滞して水温が上昇するなどした影響で、サンマが回遊するルートが日本の沿岸から沖合に離れていったということです。

さらに沖合はサンマの餌となるプランクトンなどが少ないため、サンマの小型化が進んで日本の沿岸まで回遊しづらくなっていることや、外国船による漁獲が増加し資源の減少につながっていることも原因として考えられています。

東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授は「沖合化が生じると、産卵場が沖に移動し、成長も遅れるため、日本に回遊しづらくなり、サンマはどんどん沖に移ってしまう。これまではサンマは暖水塊などの一時的な水温の上昇には耐えられていたが、いまは地球温暖化でベースとして海面水温が上昇しているため、影響が顕在化しやすくなってきているのではないか」と指摘しています。

北海道では魚の種類に変化

記録的なサンマの不漁の一方で、これまでとれていなかった新たな魚の水揚げの増加に対応を急ぐ動きも出てきています。

かつて主要なサンマの水揚げ漁港のひとつだった北海道の釧路港ではピーク時の2007年には3万トン以上あったサンマの水揚げが去年はわずか25トンにとどまりました。

サンマが減少する一方で、10年ほど前から16度から21度の温かい海水を好むブリの水揚げが増加し、釧路市東部漁業協同組合によりますと、去年はこれまででもっとも多い16トンが水揚げされました。

気象庁によりますと、釧路沖の海面の水温は2022年までの100年あまりで、1.5度あまり上昇していて、年間を通して海面の水温が上昇しているということです。

釧路市の漁業関係者は「サンマがここ数年は激減している上に、最近とれるのは小さいサイズばかりだ。代わりにブリなど、南にしかいなかった魚や珍しい魚がとれるようになるなど、釧路でとれる魚が変わってきている」と話していました。

こうした中、地元の釧路市はなじみが薄かったブリの消費拡大につなげようと、ブリのミートボールや塩漬けなどの加工品などの新しい商品の開発を進めているということです。

釧路市水産加工振興センターの鳴川慶一所長は「ブリは釧路では馴染みがない魚だったが注目して活用していくことが重要だと感じている。本州での料理や食べ方なども参考にして、地元でのブリの消費拡大につなげていきたい」と話しています。

不漁による食卓への影響

サンマの不漁による影響は家計にも出ています。

水産白書によりますと、全国の主要な漁港でのサンマの卸売価格の平均価格は、2006年は1キログラムあたり70円だったのに対して、2021年はおよそ9倍の1キログラムあたり627円に値上がりしています。

また、水産加工メーカー各社も原材料のサンマの不漁などの影響から、サンマの蒲焼きなどの缶詰商品を値上げする動きが続いています。

さらに秋の風物詩として知られる東京の「目黒のさんま祭り」は、去年新型コロナの影響で3年ぶりに開催されましたが、用意できたサンマは例年の5分の1程度の1000匹にとどまったということです。