忍者がノイズキャンセリング? 高校生が忍者道具の謎に挑む

忍者がノイズキャンセリング? 高校生が忍者道具の謎に挑む
さまざまな道具を駆使し、縦横無尽に活躍した忍者。

忍者が使ったとされる道具の中には、秘伝ゆえに今ではその用途や効果が不明なものも少なくありません。

そんな謎の道具の1つが、手のひらにおさまるほどの金属の板、「些音聞金(さおとききがね)」。

山口県の高校生が科学的にその謎を解明しようとしてみたらそこに意外な発見が。

(山口局 田村律子)

見つけた謎の忍者道具

ひょんなことから忍者道具の謎に挑むことになったのは山口県周南市にある徳山高校科学部。

おととし、当時在籍していた部員たちが忍者好きで、本を調べていて、ある不思議な道具を知りました。
それが「些音聞金(さおとききがね)」。縦7センチ、横3センチ、厚さは3ミリほどの真鍮製の板です。

この道具は江戸時代の忍術書にも記録があります。

この書を現代語訳した「完本 忍秘伝」(国書刊行会)では、隣の部屋の声などを盗み聞きする際に使われ、音を増幅させる道具ではないかと推測されています。

謎の解明に挑む

しかし、こんな小さな板で本当に音は増幅するのか?疑問に思った生徒たちは実験を始めました。

市内の鉄工所の協力を得て「些音聞金」を再現して試作。

音の大小や高低を波形で表す「オシロスコープ」と呼ばれる装置を活用し、レプリカの些音聞金に雑音や雨音を当てるなどして実験を繰り返しました。
周りの雑音がデータに影響しないように、朝5時にグラウンドに集合して実験したこともあったといいます。

しかし、何度繰り返しても音が増幅するという結果は得られません。
2年生 鶴丸倫琉さん
「先輩たちが何度も実験したんですが、あれ?増幅しないなという風な感じで予想とは違っていました」
これには、科学部の顧問を務める教諭も驚きの結果だったといいます。
末谷健志教諭
「通説が違ったというところを確認できたことに大きな価値があったと思います。何度も実験を繰り返したのは、本当に大変でしたが、無駄なものが伝わるはずがないと私も生徒も強く思っていたので実験を続けられました」

実は原理は“ノイズキャンセリング”

諦めきれない生徒たち。原理を探ろうと、音をぶつける実験を繰り返しました。

すると、ある現象が起きていることを突き止めたのです。音を増幅するのではなく、雑音が消える現象。

現代のイヤホンなどでも採用されている“ノイズキャンセリング効果”でした。
些音聞金に音を当てて計測すると、高音になるほど音量は小さくなったといいます。

些音聞金に音が回り込む「回折(かいせつ)」が高音ほど起きにくいことに加え、音がぶつかって打ち消し合う「干渉」が発生することが分かったのです。

これが些音聞金で音を聞きやすくする秘密だったというのです。

ついに分かった!? 使い方

さらに実験を重ねて、“ノイズキャンセリング効果”をデータで裏付けたのが2年生の鶴丸倫琉さんと柴崎湧人さんです。
では、高音が消えることが何の役に立つのか。彼らが考えた些音聞金の使い方はこうです。
忍者が壁に聞き耳を立てて諜報活動をしようとします。ところが、周りでは虫の音が邪魔をして、壁の向こうの話し声がよく聞こえません。

そこで、耳元に持ってきたのが些音聞金。
周囲の雑音が抑えられ、話し声がクリアに聞こえるようになるというのです。

実験結果によると、聞き取りやすさはおよそ2倍になりました。
2年生 柴崎湧人さん
「雨音や鈴虫の鳴き声など、周りの環境音を消したかったのではないかと思います。忍者が何百年も前から、この原理を先取りして使っていたことに非常に驚きを感じました」

“秘伝”は現代にも

「忍者の技術を現代に生かしたい」と、2人はこの原理を活用し、3Dプリンターを使って装置を開発。

マイクに取り付けると、雑音が取り除かれて話し声をよりクリアに拾えることができたのです。
去年12月、2人はこの研究成果を、高校生・高専生が自由研究の成果を競うコンテスト「JSEC2022(第20回高校生・高専生科学技術チャレンジ)」で発表し、入賞を果たしました。

忍者道具に科学的な裏付けを与えただけでなく、現代に応用したことなどが評価されました。

専門家 “現代で使うにはさらなる工夫必要”

忍者道具の謎に挑んだ科学部の高校生たち。

今回の研究結果について音響の専門家「日本音響研究所」の鈴木創 所長に聞いてみました。
「些音聞金の大きさから考えると、実際に高音を小さくする効果が期待でき、サイズをさらに大きくするとより高音をカットできると考えられる。ただ、忍者がいた時代とは異なり車の音など低い音源も多く、騒音の種類も増えているため難しいかもしれない。現代でも使えるようにするには道具の大きさを変えるなどさらなる工夫が必要になる」

“忍者は科学者だった”を世界にアピールしたい

今回の研究は高く評価され、柴崎さんと鶴丸さんの2人は、ことし5月アメリカ・ダラスで開かれる世界最大級の高校生科学コンクール「国際学生科学技術フェア(ISEF)」に日本代表として出場することが決定しました。

英語でのプレゼンテーションが求められるので、いまその準備に追われています。

2人は国際的な舞台で忍者をアピールすることを楽しみにしています。
柴崎湧人さん
「世界的に忍者は、すごく注目を集める話題だと思うので、アメリカで発表するときもそういった期待に応えられるよう英語でしっかり発表したいと思います」
鶴丸倫琉さん
「忍者がこういう形で論理的な術や道具を使っていたというのは、あまり認知されていない部分だと思います。忍者は科学者だったということを世界に伝えていきたい」
山口放送局 記者
田村律子
2019年入局
警察司法担当などを経て現在は周南支局で行政や地域の話題を幅広く取材
小学生時代は、折り紙で手裏剣を作るのが得意でした