時速100キロ!? 広がる“物流革命”

時速100キロ!? 広がる“物流革命”
「3、2、1」

カウントダウンとともに発射台から勢いよく上空に飛び立つドローン。

時速はおよそ100キロ。

そして空中で、機体から飛び出すのはパラシュート付きの箱。

箱を開けると、緩衝材に包まれていた弁当は全く崩れていませんでした。

(長崎局記者 橘井陸/サタデーウオッチ9取材班)

離島の課題 日常の買い物

ドローンが飛ぶのはNHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」の舞台になっている長崎県の五島列島です。

その五島列島の中にあり、10の有人島から構成される離島の五島市。

市の中心地の福江島は3万人以上の人口を抱える一方、そのほかの島は人口が10人ほどからおよそ2000人です。

このうち、本土から直接の空路や航路がない島は、「2次離島」と呼ばれ、過疎化が進む離島の中でも特に大きな課題となっています。
五島の「2次離島」のほぼ唯一の交通手段は福江島との定期船。

買い物の際、住民は定期船を使って福江島のスーパーなどに行き、1週間以上の食材や日用品をまとめて購入します。

なかには朝一の便で福江島に行き、夕方の便で帰ってくるなど、日常の買い物のため丸1日をかけざるを得ない離島もあります。

さらに高齢化で福江島まで買い物に行くことが難しい人が増えていることや、人口減少に伴う人手不足の影響で、定期船を維持していくことにも課題があります。

2週間分を買い置き

「2次離島」の久賀島は福江島から定期船で20分ほど。

人口およそ250人で住民に話を聞くと日常の買い物が大変だという声が多く聞かれました。
「買い物は福江島で週に1回、悪いときは2週間に1回。買い置きしないといけないので、なま物や新鮮な野菜などは冷凍するしかない」

「年寄りはなかなか買い物にいけない。島にお店があまりないし」

海を渡るドローン

こうした島の課題解決策のひとつとして期待されているのが冒頭でご紹介したドローンです。
運航を行うのはおととし設立された大手商社の子会社。

使われているドローンは、翼がついた「固定翼型」と呼ばれ、悪天候に強く、船が出ないような天候でも飛行できることが強みだということです。
このドローンが配送するのは医療機関向けの医薬品と日用品。

注文を受けた後、会社が設置した福江島の拠点から、市内の離島や隣接する新上五島町まで、最長片道70キロのルートをおよそ50分で飛行し、運んだ先の上空で荷物が入ったパラシュート付きの箱を投下して届ける仕組みです。

徐々にルートを拡大し、現在、五島列島で7つのルートを開設して配送を行っています。

個人宅まで届くサービスへ

また、ことし2月からは新たに、ドローンで運んだ食品や日用品を注文元の住民の住宅まで届ける「個宅配送」の実証事業を行いました。

離島に住む住民がより使いやすいサービスにするために模索を続けています。
一方、課題のひとつが「収益性」。

日用品については、1箱の料金が1100円。

割高になれば利用は限られ、事業の継続は難しくなります。

会社では今後、利便性の検証や事業者向けへの配送の拡大など安定した収益確保に向けた取り組みを続けたいとしています。
そらいいな 松山ミッシェル実香代表取締役
「島民から『こういう便利なサービスがあって良かった』という声もいただいている。より革新的な物流のレベルアップや変革の可能性、これまでとは違った利便性の良さやポテンシャルがあると思っています」

人手不足の救世主になりうるか

こうした無人の配送サービスは離島に限らず、物流業界全体に広がろうとしています。

背景にあるのは深刻な人手不足。

神奈川県藤沢市の住宅地で大手電機メーカー、パナソニックホールディングスはロボットによる配送サービスの実証実験を行っていて、現在、最終段階に入っています。

運ぶのは小型の自動走行ロボット。
およそ560世帯の住民を対象にネットで注文されたパンや野菜などを届けています。

去年、国内で初めて保安要員を置かずに歩道を走行させる許可を得ました。

配送先まで自動走行

ロボットの時速は時速4キロまでの低速走行。

カメラやセンサーで周囲の状況を把握しながら配送先の住宅まで自動で走行します。
横断歩道の前では一時停止して安全を確認し、車が来ないことをたしかめてから渡ります。

また近くに人がいる時は「お先にどうぞ」などと自動の音声でその存在を知らせます。
ロボットが住宅の前に到着するとLINEで通知され、利用者が商品を受け取る仕組みです。

ロボットは自分で周囲の状況を判断して走るので、遠隔で監視するオペレーターの仕事は安全確認と緊急時の操作だけ。

省力化につながり、1人で最大4台を同時に監視することができます。

この配送サービスは現在は利用料は無料でこれまでに事故は1件もないということです。

こうした自動配送のロボット。

会社では今後、サービスの実用化に向けて配送する頻度を増やすほか、配送する範囲をより広げていくことにしています。

2024年問題への対応も

国土交通省の調査によると、ネット通販の普及などを背景に宅配便の荷物の数は増え続け、昨年度・2021年度は49億個に上りました。

その一方で物流業界に「2024年問題」と呼ばれる危機が迫っています。

来年4月からトラックドライバーの時間外労働などの規制が厳しくなり、長距離の輸送が困難に。

輸送量の減少が懸念されているのです。

ドローンやロボットを活用した配送の取り組みは各地に広がっています。

わたしたちの暮らしでこうしたサービスが当たり前のように利用できる日はそう遠くないかもしれないと取材を通じて感じました。
長崎局記者
橘井陸
2016年入局
徳島局を経て現職