“米軍無人機にロシア軍機衝突” 米ロ双方で主張食い違う

ウクライナ南部に面した黒海の上空でアメリカ軍の無人機がロシア軍の戦闘機の妨害行為を受けて衝突し墜落させたとアメリカ政府が発表したのに対して、ロシア側は衝突を否定し、双方で主張が食い違っています。

アメリカ軍は14日、黒海上空の国際空域を飛行していたアメリカ空軍の偵察用の無人機にロシア軍の戦闘機が妨害行為を行ったうえ衝突し、無人機が制御できなくなり海上に墜落させたと発表しました。

これに対して、ロシア国防省は14日「ロシアの戦闘機は無人機と接触していない」と主張し、衝突はなかったと否定しました。

ロシアメディアは一斉にこの問題を取り上げていて、このうち有力紙のコメルサントは14日、「米ロは危険なまでに接近した」と題して、ウクライナ情勢を受けて悪化している米ロ関係で「長年にわたる新たな問題になりかねない」と懸念を伝えています。

また、政権寄りの新聞イズベスチヤは15日、アメリカの無人機は、ロシアが9年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミア半島付近で、ウクライナの利益のために偵察活動を行っているうえ、無人機にはミサイルを搭載することもできるとして、アメリカが緊張をあおっているとする見方を伝えています。

一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、「この事件がアメリカとロシアの直接的な衝突に発展することはない」として、直接衝突することは両国とも望んでおらず事態のエスカレートにはつながらないとする見方を示しています。

米ロ 軍の接触 ウクライナへ軍事侵攻始まって以降初

アメリカ軍とロシア軍の部隊どうしの接触が確認されたのは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった去年2月以降、今回が初めてです。

アメリカ国防総省のライダー報道官は14日の記者会見で、ロシア軍の2機の戦闘機は、衝突の30分から40分前に無人機の付近を飛行し始めたと明らかにしました。

そして、無人機に衝突したロシア軍機について「損傷している」との認識を示したうえで、場所は明らかにしなかったものの「着陸したことはわかっている」と述べました。

アメリカのABCテレビはアメリカ空軍幹部の話として、ロシア軍の2機は無人機への接近を19回繰り返し、衝突する前の最後の3、4回で燃料を放出し、無人機に浴びせたと伝えています。

また、有力紙ニューヨーク・タイムズは軍幹部の話として、燃料を浴びせたのは、無人機のカメラを汚したり、センサーの機能にダメージを与えたりするのが目的だったとの見方を伝えました。

一方、アメリカ軍は声明の中で「ロシアによる危険でプロ意識に欠けた行為によって、双方の航空機が墜落するおそれがあった」と指摘し、ロシア軍の戦闘機も墜落する危険があったとの認識を示しました。

また、ニューヨーク・タイムズは、複数のアメリカ政府高官の話として「ロシア軍機が意図的に無人機のプロペラに衝突したとは考えにくい」と伝えています。

このほか、ロシア側が「衝突はなかった」と主張していることに関連して、ライダー報道官は「われわれは機密解除に向けた手続きを進めている」と述べ、当時の状況を撮影した映像を公開することを検討していることを明らかにしました。

米 オースティン国防長官「攻撃的で危険な行動」と非難

アメリカのオースティン国防長官は日本時間の15日午後9時すぎ、ウクライナへの軍事支援をめぐるオンラインでの会合の冒頭、黒海の上空でアメリカ軍の無人機MQ9が墜落したことに言及しました。

このなかでオースティン長官は「ロシア軍機が妨害行為を行い、体当たりした結果、MQ9は墜落した。この危険な出来事は、国際空域におけるロシア軍パイロットによる一連の攻撃的で危険な行動パターンの一部だ」と述べ、ロシアを改めて非難しました。

そのうえで「アメリカは国際法が認めるあらゆる場所で飛行し、活動し続ける。ロシアには、軍用機を安全かつプロ意識を持って運用する義務がある」と述べ、ロシア側に再発防止を求めました。

ホワイトハウス戦略広報調整官「回収は難しいかもしれない」

墜落した無人機についてホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は15日、CNNテレビのインタビューに対し「機体は非常に深いところに沈んでいて、回収できるかどうかまだ評価をしている最中だが、難しいかもしれない」と述べてアメリカ軍が機体を回収できない可能性があるという見方を示しました。

そのうえで「無人機がもし他者の手に渡ったとしても情報の流出が最小限となるよう、できるかぎりの措置をとった」と述べました。

また、ニューヨーク・タイムズは空軍の元幹部の話として、これまでアメリカはアフガニスタンやシリアなどで同じ型の無人機を失っていると明かし、部品が敵対勢力にわたっていることは確実だとしています。

このため、今回、無人機が特殊なセンサーを搭載していないかぎりは、ロシア側が機体を回収したとしてもアメリカ側にとって大きな損失とはならないと述べています。

ロシア国防省「戦闘機は無人機と接触せず」

ロシア国防省によりますと、14日の朝、ウクライナ南部クリミア半島に近い黒海の上空でアメリカ空軍の無人機、MQ9を探知し、戦闘機を緊急発進させたとしています。

そして日本時間の14日午後3時半ごろ、無人機は急な動きで高度を下げて制御不能となり海上に墜落したと主張しています。

そのうえでロシア国防省は「ロシアの戦闘機は搭載された武器を使用せず、無人機と接触することもなく安全に帰還した」としてアメリカ側の発表を否定しました。

ロシア大統領府報道官「大統領にも報告」

黒海の上空でアメリカ軍の無人機がロシア軍の戦闘機の妨害行為を受けて衝突したとアメリカ政府が発表したことについてロシア大統領府のペスコフ報道官は15日「国防省の声明に付け加えることは何もない」と衝突を否定したロシア側の立場を繰り返した上で「当然プーチン大統領にも報告されている」と述べました。

また、アメリカとロシアの関係について「嘆かわしい状態にある」とする一方、「ロシアは建設的な対話を今でも拒否していない」と述べ、ロシアとしては対話を拒むものではないとする姿勢を示しました。

衝突されたMQ9とは

アメリカ軍によりますと、ロシア軍機に衝突されたのはMQ9「リーパー」と呼ばれる無人機です。

アメリカ空軍のホームページによりますと、MQ9「リーパー」は、イラクやアフガニスタンでの軍事作戦で使われてきたMQ1「プレデター」を改良し、機体をさらに大きくした高性能の無人機です。

偵察活動に加え、精密誘導兵器などを搭載することも可能だということです。

全長11メートル、主翼の幅は20メートルあり、機体の後部にターボプロップ式のエンジンが搭載されています。

高度およそ1万5000メートルを飛行でき、最高速度は時速400キロを上回るということです。

松野官房長官「影響など注視していく」

松野官房長官は午後の記者会見で「アメリカ側が強い抗議の意を伝達したのに対し、ロシア側は、戦闘機はアメリカ軍無人機とは接触していない旨、主張していると承知している。わが国としては、本件が今後の情勢に与える影響などについて注視していく」と述べました。

慶應大 鶴岡准教授「両国間の駆け引き続くか」

安全保障に詳しい慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は「これまでもアメリカの無人偵察機とロシアの戦闘機が接近するようなことはあったようだ。無人機の墜落がロシアの意図した行動かは分からないが、アメリカの偵察活動を妨害したいという考えはあったのは明確だ」と指摘しました。

そのうえで鶴岡准教授は、アメリカとロシアの主張が食い違っていることについて、両国ともにこれ以上緊張を高めることは望んでいない一方で、どちらも相手の警告に屈した形にはなりたくないという考えが背景にあると分析しています。

そして「ロシアは、アメリカの偵察活動を少しでも少なくしたいのに対し、アメリカは今回の事態を受けても引き続き偵察活動を続けていきたい。両国は自分たちの行動は変えずに相手の行動がより抑制的になることを目指すだろう」と述べ、今後、両国間の駆け引きが続くという見方を示しました。

ロシア 政府系シンクタンク会長「最悪 核含む軍事衝突に」

プーチン政権に近い、ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のアンドレイ・コルトゥノフ会長は、15日にNHKのインタビューに対し「黒海は、多くの国の艦艇や航空機が行き交う最も困難で危険な地域の一つだ。バルト海には、限定的ではあるが、航空機どうしが衝突を回避する仕組みで合意しているが、黒海にはこうした仕組みは存在しない」と指摘しました。

そして、軍事侵攻が始まる前のおととし6月にも、クリミア半島沖合の黒海でロシア軍がイギリス軍の駆逐艦に対して警告射撃を行ったとする事例をあげ、クリミア周辺の黒海は、ロシアが領海と捉えているためロシア側とNATO=北大西洋条約機構が直接、衝突する危険性が顕在すると指摘しました。

そのうえで「今回の案件は、意図しないエスカレーションが起こりうることを示すものだ。双方が意図していなくても、負の連鎖が続き、最悪、核すら含む直接的な軍事衝突に発展する危険性もある。これは誰もが注意を払うべき深刻な警告だ」と強調しました。