家事や育児の合間に仕事!?人手不足の温泉地を救うスキマ時間

家事や育児の合間に仕事!?人手不足の温泉地を救うスキマ時間
「丸1日は難しい。でも空いている2、3時間だけでも働けたらな…」。

意欲はあるのに家事や子育てで働く時間が自由に選べない。
そんな悩める子育て世代と、人手不足の観光業者をマッチングする新たな取り組みを新潟県の自治体が始めました。

温泉地での“隙間時間”の活用法です。

長時間は難しい でも“隙間”なら…

「新型コロナの後遺症で、勤務先を辞めざるを得なかった」
「子育てをしていると長時間の勤務は難しい」

新潟県湯沢町では、子育て世代の人たちから働き先を求める声が上がっていました。

夫と高校3年生の長女と3人で暮らす宮嶋麻貴さん。
子育ては少し落ち着きましたが、まだまだ長時間で働くのは難しく、希望の仕事はなかなか見つかりませんでした。
宮嶋さん
「1日に長時間あくことがなかなかないんです。たまたま丸1日、時間があったとしても、そんなにすぐ都合よく働ける場所はないですよね」

“隙間時間に働きたい”声をヒントに

宮嶋さんのように子育てが落ち着いた人たちには、1週間ずっと働くことができなくても、1日のうちで空いている短い時間、“隙間時間”がありました。

湯沢町はそうした人たちの声を受け、短時間を希望する働き手を活用することができないか検討し、去年7月に開設したのが求人・求職の情報提供サイトでした。

アプリを使って『空いている時間に』、さらに『短時間の仕事ができる』というもので、その名も「ゆざわマッチボックス」。
このサイトは、町から委託を受けた新潟市の企業が運営し、サイトに会員登録した人が働く時間や仕事内容、それに給与などの条件から希望に合う事業所に応募する仕組みです。

町は求人の情報のみを提供し就職のあっせんまでは行わないということで、就職を希望する人が直接、事業所に連絡して雇用契約を結びます。
仕事が見つからず悩んでいた宮嶋さんにとっては、まさに願ったりかなったりでした。
宮嶋さん
「マッチボックスを見つけて、ビビビときました。時間をかけて見つからなかったものが、すぐ見つけられて仕事に行ける。まさに求めていたものがここにあったという感じで即、登録しました」

人手不足に悩む「観光立町」

人口およそ8000人の湯沢町は新幹線で東京から最短1時間ほど。

温泉地があり、冬はスキーを中心とした観光地、「観光立町」を宣言しています。

町によりますと、年間の観光客は400万人前後で推移していましたが新型コロナの影響で大幅に減り、令和2年度には178万人にまで落ち込みました。

宿泊施設の中には、従業員を減らしたり観光業から離れたりする人もいました。

その一方で、去年10月の水際対策の緩和以降、外国からの観光客が戻り始め、今では感染拡大前の80%ほどまで回復したということです。

そこで深刻化したのが人手不足でした。

町によりますと、町内の多くの旅館や飲食店で、働き手が足りなくなっているということです。
田村正幸 湯沢町長
「ゆざわマッチボックスの場合は早く働き手が欲しいと思っている所と、働こうと思っている人が求人を見てすぐ採用を決定できる。きょうからとか、すぐに働いてすぐお金をいただけるというように。特に子育て世代は、子どもが学校へ行っている間に時間があるケースもある。新しい働き方を掘り起こした部分がある」

同じ悩みは全国で

急激な観光客の増加は全国的に見ても同じ傾向です。
観光庁の宿泊旅行統計によりますと、国内のホテルや旅館などに宿泊した人の数は、令和元年までは右肩上がり。

しかし、コロナの影響で令和2年以降は大きく落ち込みました。

水際対策の緩和によるインバウンドの回復や全国旅行支援などが後押しとなり、去年の宿泊者数は速報値で延べ4億5397万人、前の年と比べると42.9%増加しました。

コロナ禍で従業員を削減するなどした全国の旅館やホテルでも働き手が戻らず、人手不足に悩んでいます。

民間の信用調査会社「帝国データバンク」によりますと、ことし1月時点で「人手不足を感じている」と回答したホテル・旅館の割合は、正社員については77.8%、非正社員は81.1%にのぼりました。
ホテルや旅館の需要が回復しているにもかかわらず、受け入れ側の体制が不十分で利益を得る機会を失っているという声も上がっています。

隙間時間の活用が解決の一助に

こうした中「ゆざわマッチボックス」が湯沢町の人手不足解消の一助になっています。

上越新幹線の越後湯沢駅前にある旅館は、今月はすでに予約でほぼ満室。
コロナ後を見据えて従業員の削減はしなかったものの人手が足りないといいます。
HATAGOいせん 梅澤美香フロントマネージャー
「宿泊以外にも昼にカフェなどを利用する人もいるので、そちらにかなりお客様が訪れ、スタッフが手薄な状態です。コロナ前は、4月に入ると穏やかな時期と言われていましたが、予約は多い状態なのでこのままGWに行くのかなと思っています」
最も混み合う昼の時間帯に隙間の時間を活用して働いているという星野真澄さん。夫と2人の子どもがいます。

去年11月、コロナに感染しましたが、後遺症に悩まされ、勤めていたスーパーを辞めざるをえませんでした。

体調が回復したもののフルタイムで働くには不安がある中、友人から勧められたのが「ゆざわマッチボックス」。
仕事はまもなく見つかりました。

この日の勤務は午前11時から午後1時までの2時間。

洗い物や土産用の米を量って袋に詰める作業です。
星野真澄さん
「アプリが公的な物というだけで安心して使えるという点があります。スーパーのパートは9時から5時まで。結局残業になり、家のことが疎かになってしまう。でも、今は気楽ですごくいいですし、すごく楽しい。青春時代に戻ったような感じです」
忙しい時間帯にピンポイントで雇用を求める事業者と、隙間の時間を活用して仕事がしたいと希望する人たち。

双方の要望を互いに補っているのです。
HATAGOいせん 梅澤さん
「うちは助かりますよ。本当に来ていただくだけで全然違うので。短時間でも私たちはお願いしたいので、このままマッチボックスをやっていければと思います」。

隙間時間を活用する働き手 700人超

「ゆざわマッチボックス」を管理・運営している企業によりますと、3月7日時点で、働き手は755人、事業所は64社が登録していて、県外から湯沢町に働きに来る人も多いということです。

また、湯沢町の取り組みを受けて、新潟県内を中心に複数のほかの自治体からも問い合わせが来ているということです。

専門家「町のサイトから入って働けるのは分かりやすい仕組み」

こうした雇用の情報提供について厚生労働省の委員も務めた中央大学の阿部正浩 教授は、自治体が短時間の仕事のマッチングを実施するのは聞いたことがないとした上で、次のように指摘しています。
中央大学 阿部正浩 教授
「大都市圏では民間の事業者が入り求人もあるが、民間が入らない場所では自治体が町内の求人を町内で埋められるようになれば町としてはうれしい。どうやって就職活動をすればいいのかわからない時に町のWEBサイトから入って働けるようになる仕組みは分かりやすい。求人をみるとアルバイトにとどまっているように見えるので、これが正社員につながるような道筋が出てくれば、公共機関が実施する意義がより見いだせるのでは」
人手不足に悩んでいるのは旅館・ホテル業だけではありません。
帝国データバンクの調査では、人手不足を感じている企業は全体では5割を超えています。
喫緊の課題にどのように対応していくのか。

湯沢町のケースは多様な働き方ができる環境を整備することで、働くことができなかった人も働けるようになる解決策の1つと言えそうです。
(おはよう日本 伊藤理生 ネットワーク報道部 鈴木有 谷口碧)