レゲエで発信 “北九州ワルくないっちゃ!!”

レゲエで発信 “北九州ワルくないっちゃ!!”
“発砲事件もそうないし手りゅう弾なんて落ちていない”

軽快なレゲエのリズムにあわせて、ちょっとドキッとするような歌詞をのせたショート動画がSNS上で話題を呼んでいます。

投稿したのは、北九州市出身・24歳のレゲエシンガー。

このリズム、一度聴いたら、あなたも、頭の中で無限ループしてしまうかもしれません。

若きシンガーが動画に込めた思いとはーー
(北九州放送局記者 大倉美智子)

バズってる!? 北九州の魅力をレゲエで発信

2022年の夏から動画共有アプリ「TikTok」で投稿されてきたショート動画の数々。

門司港や小倉城など人気の観光地や地元ならではのニッチなところ。

さまざまなテーマで街を紹介し、最後は「北九州ワルくないっちゃ!!」の決めぜりふで締めくくっています。

動画はシリーズ化され、投稿本数はこれまでに70本以上。

軽快なレゲエのリズムと決め台詞は、一度聴いたらしばらく頭から離れず、つい口ずさんでしまうほど。

総再生回数は360万回にのぼります。

投稿しているのは、レゲエシンガーのSING ARTHURさん(シングアーサー)。

北九州市出身の24歳です。
学生時代に人気音楽グループ「湘南乃風」の楽曲を聞いたことがきっかけで、レゲエにのめりこみました。

地元の高校を卒業し、一度は会社に就職したものの歌い手になりたいと一念発起。

4年前、20歳の節目に音楽活動をはじめ、わずか2年でデビューしました。

これまでに4曲を配信リリースし、歌唱力と共感を呼ぶ歌詞が人気を集めています。
SING ARTHURさん
「レゲエ特有の文化なんですが、ひとつのriddim(リディム)と呼ばれるいわゆるリズムに誰もが歌詞をつけて全く別の歌としてリリースすることができるんです。これだったら楽器ができない自分でもできると歌詞を書き始めたのが始まりです。

レゲエは思いがダイレクトに伝わってくるし、ダイレクトに伝えられるものだなと思っています。表現のしかたも本当にまっすぐでかっこいいんです」

“修羅の国”のイメージを払拭したい

そんな彼が、ショート動画の配信を始めたのにはワケがありました。

北九州の街が抱えるイメージを払拭(ふっしょく)したいという思いでした。

北九州といえば、全国で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」が本部事務所を置いた土地。

市民を対象にした数々の事件は地域を震撼させ、“修羅の国”ともやゆされてきました。

警察は2014年、トップの逮捕に踏み切って以降、「壊滅作戦」と呼ぶ徹底した取り締まりを続けています。
そんな北九州で生まれ育ったSING ARTHURさん。

知人に言われた何気ない言葉が忘れられませんでした。
SING ARTHURさん
「他県に出たときに『北九州ヤンキーやね』って『掘ったら手りゅう弾出てくるよね?』とかそういう都市伝説的な話題になっていて、いや、そんなの見たことないし。

そのイメージを払拭したいと思って、自分にできることはないかと考えました。自分や同年代の人たちが見ているSNSなどのツールで『いいところなんだよっ』というのをレゲエで発信できたらいいなと思ったんです」

こだわるのは歌詞と音質

ことし1月中旬、ショート動画の撮影を行うと聞いて同行しました。

街の中心部を流れる、紫川のほとりで立ち止まると、自撮り棒を使って、カメラをセット。
そして考え込むこと…わずが10分!

1台のスマホで撮影しながら、もう1台のスマホから音を流し、口ずさみ始めました。
「紫川沿い歩いてみた、人も街も元気ありそうだ。事件は全くなさそうだ、から 北九州ワルくないっちゃ!!」
動画を作る際のこだわりは2つ。

まずは歌詞です。

「ワルくないっちゃ」と納得してもらえるように考えます。
「人も街も元気『ありそう』の反対は『なさそう』。なさそうなものってなんだろうと思ったら、事件。『事件がなさそう』って言ったら『ワルくないっちゃ』って言葉につながる」
もう1つのこだわりは音質です。

撮影を終えて向かったのは、レコーディングスタジオ。

歌詞はスタジオで撮り直します。
動画は、撮影したらそのまま投稿しているのかと思いきや、プロとして音質にこだわる手間は惜しみません。

スマホのアプリで、映像と音声を編集、字幕を入れたら完成です。

真似してみる中高生も 反響ジワジワ

SNSに投稿されると、待っていましたとばかりにコメント欄が盛り上がります。

動画を見たことがある人を探してみようとまちに出ると、中高生を中心に続々と見つかりました。
すぐに口ずさみながら感想を聞かせてくれる高校生もいました。
「変なやつが多いとか言われること多いですけど、そんなことない。こんなふうに発信してくれる人がいたら北九州に来る人も多くなるやろうし、いいと思います」
なかには、友達と真似して歌ってみたという中学生までいました。
「友達の間ではやりました。リズムに合わせて、自分たちで歌詞を作って撮影してSNSに投稿するんです。自分でも知っている身近な場所を取り上げてくれたのがうれしいです」

“大好きなレゲエで、大好きな北九州を盛り上げたい”

ことし2月中旬、「北九州ワルくないっちゃ!!」シリーズ最終回となる動画が投稿され、ひとつの節目を迎えました。

これまで地元・北九州を拠点に活動してきたSING ARTHURさんですが、所属事務所がある静岡県焼津市に拠点を移し、音楽活動をすることになったのです。

今後、全国のライブ会場をまわったり、SNSなどでのプロモーションの強化を図るためです。

いわば武者修行を重ね、さらなる飛躍を目指します。

大好きな地元を離れることに名残惜しさはあるといいますが、歌いに行った先々で、自分が生まれ育った街・北九州を発信したいと話します。
SING ARTHURさん
「音楽1つで、何かムーブメントを起こせるんだなっていうのは『北九州ワルくないっちゃ!!』をやってみて自分でもやれるんだって分かったこと。“北九州といえばSING ARTHUR”といわれるくらいBIGになって、戻ってきて、北九州で、名だたるアーティストを招いたレゲエの大きなライブイベントをやるのが夢なんです。自分は北九州が好きなんで、北九州・小倉・黒崎、自分がいることで盛り上げていきたいです」
それでは最後にもう1本!。
北九州放送局記者
大倉美智子
2012年入局熊本局・ニュース制作部を経て北九州放送局で勤務
北九州は仕事も子育てもしやすく“ワルくないっちゃ”を実感中