【詳しく】鳥インフルエンザ 人への感染は? 警戒は必要?

2月、カンボジアで11歳の女の子が鳥インフルエンザに感染したあと、亡くなりました。

いま、鳥インフルエンザは、日本国内でも猛威を振るっており、発生が確認された養鶏場や、処分されるニワトリなどの数も過去最多を更新しています。

検出されているウイルスの型は高病原性の「H5N1」。

さらに、人に近い哺乳類でもウイルスが検出されているという気になる情報も出てきました。

このウイルスが人の間で広がるおそれはどのくらいあるのか?
どれだけ警戒しなければいけないのか?

詳しくお伝えします。

カンボジア 女児が鳥から感染して死亡

2月24日、WHO=世界保健機関は、カンボジアで11歳の女の子が鳥インフルエンザウイルスに感染して死亡したと発表しました。

WHOの報告によると、女の子に症状が出たのは2月16日。

その後、重い肺炎になって国立の小児病院で治療を受けましたが、22日に亡くなりました。

検出されたのは、高病原性の「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスで、世界中でニワトリなどに広がっているウイルスと同じ型でした。

亡くなった女の子とその父親で感染が確認されましたが、父親には症状が出ませんでした。

感染した2人は鳥を飼っている環境で感染した鳥と接触する機会があったということです。

検出されたウイルスをさらに詳しく調べてみると、東南アジアのニワトリなどで2014年から広がっているものと同じ系統だったということで、鳥から人に感染したケースだとみられています。

世界中で猛威振るう鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザは、もともとカモなどの水鳥にいたウイルスで、ふんなどを通じてニワトリをはじめとするほかの鳥に感染し、せきなど呼吸器の症状を引き起こします。

感染したニワトリのうち、10日以内に75%以上が死ぬような致死率が高いウイルスは「高病原性」として扱われます。

インフルエンザウイルスは「H」や「N」というアルファベットで示される、ウイルスの表面にある2種類のたんぱく質の種類で分類され、いま広がっている「H5N1」型は代表的な高病原性の鳥インフルエンザウイルスです。
日本では、鳥インフルエンザは越冬する渡り鳥によってウイルスが持ち込まれるとされ、例年秋から春ごろにかけて発生します。

日本国内でも、今シーズンはこれまで最も早い時期の2022年9月から野鳥で、そして10月からは養鶏場のニワトリなどで例年にないペースで広がりました。
発生が確認された養鶏場などの数は、25道県の78か所、処分されるニワトリなどの数も1500万羽を超え、いずれも過去最多を更新しています(2023年3月6日現在)。

「H5N1」型のウイルスの感染拡大は世界中で続いています。
2022年7月以降だけでもアジアを始め、ヨーロッパやアフリカ、それに北アメリカや南アメリカでも次々に確認され、各地で養鶏業に大きな被害が出ています。

「H5N1」型 海外では人に感染・死亡例も

鳥インフルエンザは、これまでにも時折、人に感染してきました。

特に病原性が高いとして警戒されてきた「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスに感染して亡くなるケースも、以前から報告されています。

1997年には香港の養鶏場で大流行した際、初めて人での感染が確認され、症状を訴えた18人のうち、6人が死亡しました。
WHOによりますと、2003年から2023年2月25日までに、21か国で873人が感染し、458人が死亡しています。

致死率は52%と、感染が確認された半数以上が亡くなっています。

どんな症状 人から人への感染は

日本ではこれまでに発症した人は確認されていません。

人への感染はまれで、ウイルスを持つ鳥やふん、それに死体などに直接触れた人が感染するとされています。

新型コロナのように人から人に感染しやすくはなっておらず、人から人に感染したケースは長時間、濃厚な接触があった家族の間などの場合に限られています。

しかし、鳥での発生が増えれば、人に感染する可能性が高まるため、世界的に警戒が続いています。

総理大臣官邸のウェブサイトなどによりますと、感染すると高熱やせきのほか、呼吸が苦しくなって、多くで肺炎が起きるとされています。

全身の臓器に異常が出て亡くなることもあり、早めに抗インフルエンザ薬などの治療を受けることが必要とされています。

人の感染 リスク低いが…

WHOも今のところ、「H5型のウイルスは、人の間で感染が続くような能力は獲得しておらず、一般の人ではリスクは低い」としています。

ただ「H5N1」型の鳥インフルエンザ用のワクチンが広く手に入る状況ではないため、養鶏業など鳥と関わる人は季節性インフルエンザのワクチンを受けるべきだとしています。

そうすることで、人の中で複数のウイルスが組み合わさって、人の間で広がりやすいタイプの新たなウイルスができないようにすべきだとしています。

さらに、アメリカのCDC=疾病対策センターもカンボジアで検出された「H5N1」型の鳥インフルエンザウイルスは、人の間で感染が広がりやすくなったり、抗インフルエンザ薬の効果を弱めたりするような遺伝子の変異は確認されなかったとします。
人と動物の感染症に詳しい北海道大学の迫田義博教授は、ふだん鳥と触れることが少ない日本の環境では、注意していれば感染することはないとしつつ、多量のウイルスに触れると感染することがあるので注意は必要だとしています。

「人間の肺の奥には鳥型のウイルスのレセプター(ウイルスが結合する部分)があるということが分かっている。たくさんのウイルスを浴び、ハッーと思いっきり、肺の奥にウイルスが入り込むような状況では鳥から人への感染が起きる。鳥から感染するリスクはあるので、養鶏場の人や動物園の飼育員などに十分に注意するようにしてもらえば、日本では鳥から人への感染は起きない」

哺乳類で感染報告相次ぐように

ただ、話はこれで終わりません。

いま世界各地で、人に近い、哺乳類での鳥インフルエンザへの感染が相次ぐようになっているのです。
ペルーの海岸では、ここ数か月、アシカ数百頭の大量死が起きていて、その一部から「H5N1」型のウイルスが検出されました。

ほかにも「H5N1」型のウイルスは2022年、アメリカでは野生のクマやキツネなどで感染が確認。

スペインではミンクの飼育場でミンクどうしで感染したと疑われる事例も報告されています。

日本でも、2022年3月と4月に札幌市で回収されたキタキツネの死体と、衰弱したタヌキから「H5N1」型のウイルスが検出されています。

研究を行った北海道大学のグループによりますと、国内で初めて哺乳類の感染が確認された例だとしています。

このキタキツネとタヌキが食べたとみられるカラスの死骸からも同じウイルスが検出されていて、渡り鳥からカラスを経由して哺乳類にウイルスが感染したとみられています。

哺乳類の監視 鳥の対策を

2009年に起きた当時の「新型インフルエンザ」で広がったウイルスは、ブタのウイルスと鳥のウイルス、それに人のウイルスが合わさったものでした。
哺乳類のブタの中で、新たなインフルエンザウイルスが生まれ、それが人でも広がりました。

北海道大学の迫田教授は、鳥のインフルエンザウイルスの感染が野生の哺乳類で定着する中で、哺乳類で広がりやすく変異して人に感染するような状況にならないか、監視する必要があると強調しています。

「ウイルスが手に負えないぐらいのスピードで野鳥に拡散し、それをエサにしている野生の哺乳動物に種を超えた感染が広がっている。ここ1年の新しい展開だが、日本でもキツネからウイルスが分離されて、野生の哺乳動物における種を超えたウイルスの感染が新しいステージに入ってきている。哺乳動物と人間は接することもある。ウイルスはもともと鳥由来だが、野生の哺乳動物から人に広がるようにならないか、そのシナリオを私たち研究者は懸念している。野生の哺乳動物の間で、高病原性の鳥インフルエンザウイルスが受け継がれるような状況になるのか、それとも一過性の感染で終わるのか、しっかりとした監視と情報共有が必要だと思う」

そのうえで、迫田教授は鳥に対する対策を世界レベルで続け、将来、人の間で広がってしまうリスクを下げる必要があると訴えています。

「注意を要する1番のポイントは火の粉(ウイルス)が来ないようにするような野鳥の対策と、養鶏場などでの対策だ。日本は養鶏場での対策を取っているが、世界レベルで鳥の対策をきちんとすることが必要だ」

「養鶏場での発生や野鳥での感染例が少なくなれば、哺乳動物への感染のリスクも減るので、将来、パンデミックになってしまうリスクも下がる」