東日本大震災から12年 被災3県に住む1000人にアンケート

東日本大震災から今月11日で12年。NHKは岩手・宮城・福島の被災地に住み“現役世代”の中核を担う20代から50代の1000人にインターネットでアンケートを行いました。被災地の将来を担う「若い世代」に街の課題や震災の風化の現状、そして、今思っていることを聞くことで、今後の被災地の姿を考えていきます。

被災地の20代~50代 1000人対象にインターネットアンケート

NHKは、先月2日から7日にかけて、岩手・宮城・福島の沿岸と原発事故による避難指示が出された地域に住む、20代から50代の1000人を対象にインターネットアンケートを行いました。

回答者の平均年齢は45歳でした。

「風化していると思う」6割

東日本大震災の被災地に住む人は震災の記憶の風化をどのように考えているのでしょうか。
▼「そう思う」が17%
▼「ややそう思う」が43%とあわせて60%にのぼりました。

▼「あまりそう思わない」が11%
▼「そう思わない」は3%でした。

震災の記憶を話す機会「減った」36%

また、震災の記憶を家族や友人と話す機会がこの1年で変化があったか聞いたところ
▽「変わらない」が45%と最も多くなった一方
▽「減った」も36%にのぼりました。

「減った」と回答した人に複数回答で理由を尋ねたところ、多い順に
「テレビや新聞で震災の話題をあまり見なくなった」が38%
「日々の生活が忙しく話す余裕がない」が35%
「震災のことを日常で思い出さなくなった」が34%でした。

社会心理学が専門で、兵庫県立大学の木村玲欧教授は「時間が経過すれば、人々の記憶はどんどん風化していくので、6割の人が風化していると思っていることは、新しい日常のフェーズに入ってきた証拠だ」と指摘しました。

そのうえで「被災地には、日常に戻ったから震災のことを話さない人だけでなく、気持ちの整理がついていないが話す機会が失われてしまって、心の中にわだかまりを抱えている人もいる。このことを理解しながら次の災害に備えてしっかりと記憶や教訓を伝えていく必要がある」と話していました。

避難所を経験した女性の約6割が困難や不安を感じた

12年前の東日本大震災のときの避難所の課題の一つが明らかになりました。

調査した人のうち、避難所に避難した人は3分の1の334人で、避難所を経験した人にたずねたところ、女性のおよそ6割、男性の4割余りが性別による困難や不安を感じたことがあったと答えました。

女性の方が15ポイント高く、専門家はさらに避難所の環境の改善を進める必要があると指摘しています。
▼「情報が十分に手に入らなかった」が最も多く54%でした。
▼「プライバシーが確保されていなかった」が52%
▼「食事が不十分」が50%
▼「防寒対策が不十分」が47%
▼「トイレが汚いなど排せつが不便」が45%とそれぞれ半分程度にのぼりました。
▼「困難や不安に感じたことはなかった」は7%でした。

性別による不安や困難 女性は「あった」が59%

さらに、性別による困難や不安を感じたか聞いたところ、「あった」「どちらかと言えばあった」と答えた人が
▼女性は59%にのぼり
▼男性の44%より15ポイント高くなりました。

困難や不安の内容を複数回答で聞いたところ、女性では
▼「着替えのスペースが確保されていなかった」が最も多く63%
▼「支援物資に必要なものが少なかった」が52%
▼「下着を干す場所がなかった」が38%
▼「男女別のトイレがなかった」が19%、
▼「授乳など子育てスペースがなかった」が17%でした。

男性は
▼「支援物資に必要なものが少なかった」が最も多く63%
▼「着替えのスペースが確保されていなかった」が49%
▼「避難所運営について意見が聞き入れられなかった」が34%
▼「男女別のトイレがなかった」が28%でした。

女性からは生理や着替えに関する不安の声

アンケートの自由記述で女性から多かったのが、生理や着替えに関する不安の声で「断水で水が流れないトイレは生理中はとても気を使った」とか「車の中で着替えるしかなかったから丸見えでした」といった回答がありました。

また「下着を盗まれた」とか「子どもが0歳でよく泣いていたので周りがいらだったり迷惑がられたりした」といった声もありました。

防災とジェンダーの問題に詳しい静岡大学の池田恵子教授は、今回の結果について「当時の避難生活が女性にとって特に過酷だったことを表している」と分析しました。

一方、東日本大震災のあと国は避難所の運営などで女性の意見を聞くよう求めるガイドラインを作っています。

こうした動きについて、対策が進んできていると一定の評価をしたうえで「ガイドラインができても、それを実行していくのが男性ばかりだと、やはり女性の視点は漏れていきがちになる。女性が地域防災や避難所運営の担い手になることが大事だ」と指摘しています。

人口減少も8割が今の街に住み続けたい

将来にわたって今の街に住み続けたいと答えた人は8割近くにのぼりました。

一方、若い世代が住み続けられる街にするために「仕事や産業」が足りないと答えた人も6割にのぼり、専門家は「若い人たちに仕事をしてもらい住み続けてもらえる街づくりが必要だ」と指摘しています。
▽「住み続けたい」が41%
▽「どちらかと言えば住み続けたい」が36%で、合わせて77%にのぼりました。

一方
▽「どちらかと言えば住み続けたくない」が14%
▽「住み続けたくない」が8%で、合わせて22%でした。

「住み続けたい」理由は「土地に愛着」が最も多く

このうち、「住み続けたい」、「どちらかと言えば住み続けたい」と答えた人に複数回答で理由を聞くと、「土地に愛着があるから」が最も多く62%で、次いで「親戚や知り合いがいるから」が31%でした。

住み続けられる街にするには“仕事をできる街”に

多くの人が「住み続けたい」と答える一方、被災地では人口減少が進んでいます。

総務省によりますと、東日本大震災前の2010年から去年の間の人口の減少率は
▼全国では1%だったのに対し
▽岩手県と福島県では10%
▽宮城県では3%の減少となっています。

こうした中、若い世代が住み続けられる街にするために、足りないと思うものを複数回答でたずねたところ、多い順に
▼「仕事や産業」が61%
▼「商業施設」が42%
▼「交通機関」が39%
▼「子育て支援」が38%でした。

このうち、「仕事や産業」と答えた人の割合は
▽岩手県で81%
▽福島県で60%
▽宮城県で48%と、各県で差が出ていました。

社会心理学が専門で、兵庫県立大学の木村玲欧教授は「震災から10年以上がたち、持続可能な街として発展していくためには、新しい世代の若い人たちが住み続けたいと思うような魅力があり、仕事をできる街にすることが必要だ」と話していました。

震災の記憶や経験のない子どもも増加

被災地では、震災の記憶や経験のない子どもも増えています。

NHKのアンケートで被災地に住む親に震災のことを子どもに伝える機会をたずねたところ、「ほとんど話さない」と答えた人が35%だったのに対し「よく話す」と答えた人は8%にとどまりました。

未成年の子どもがいる人292人に、震災のことを伝える機会があるかたずねました。
子どもが小さい人を除くと
▼「機会があれば年に数回程度話すようにしている」が52%
▼「ほとんど話さない」が35%
▼「話をしたくない」が6%でした。

一方
▼「よく話すようにしている」は8%にとどまりました。

“子どもたちに学び続けてもらう努力が必要”

「ほとんど話さない」「話をしたくない」と答えた人に複数回答で理由をたずねると
▼「話すきっかけがない」が最も多く58%
次いで
▼「子どもが興味を示していないと感じる」が19%でした。

また、震災の記憶を子どもたちに伝えるために、重点的に行うべき手段について、複数回答で聞いたところ
▼「学校の授業で伝える」が66%
▼「震災遺構や伝承施設の活用」が51%
▼「テレビや新聞の発信」が43%でした。

社会心理学が専門で、兵庫県立大学の木村玲欧教授は「家庭によって教育方針は違ってくると思うが、次の災害への備えを考えた時にこれまでの教訓をもとに、子どもたちがいかに自分の命を守るために避難できるかは、この地域で生きる子どもたちの抱える課題だ」と指摘しました。

そのうえで「学校教育の現場や伝承施設、メディアなどがそれぞれ役割を持ちながら、子どもたちに学び続けてもらう努力が必要だ」と話していました。