笑顔ってどんなんだっけ? 脱マスク前にリハビリ需要高まる

皆さん、笑顔のつくり方を覚えていますか?

この3年間、私たちの顔は“運動不足”の状態が続いてきたとして今、注目されているのが「笑顔のトレーニング」。

マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになる3月13日を前に、需要が高まっています。

(取材班 池田麻由美・田村律子)

マスク着用の緩和 SNSでは

マスクの着用について、政府が3月13日から個人の判断に委ねるとの方針を決めたことを受けて、SNS上ではさまざまな意見が上がっています。

「不安な部分もあるけど、マスク越しではなく、笑顔が見られる日が来るのは、素直にうれしい」

「いまさらマスクなしの生活できません。体の一部」

「素顔を見せるのは恥ずかしいけど私は“マスクつけなくてもいいかな派”」

“笑顔トレーニング”に注目

こうした中、ニーズが高まっているのが「笑顔のトレーニング」。

マスクをずっと着用してきたことで衰えてしまった口元の筋肉のリハビリをして、“いい笑顔”をつくろうというものです。

こうしたプログラムを提供している複数の企業や団体に取材したところ、予約や問い合わせが増えているということです。
企業の研修などで笑顔のトレーニング講座を行っている川野恵子さんはこう話します。

「3月13日から緩和されると報道されたあと、明らかに問い合わせが増え、全国から依頼が来ています。自分の笑顔に自信をなくしている人や笑顔をつくる難しさを感じている人が多く、『マスクを外したときにどうしよう』という不安の声が聞かれます」

笑顔のポイントは?

「口角が上がる→ほおが上がる→ほおが下まぶたを押し上げて優しい目元になる」という仕組みです。

記者がトレーニングに挑戦!

コロナ禍でマスクの着用を続けた3年間。

私自身人前で口元を見せて笑うことはもちろん、マスクがずれないように口をあまり動かさずに過ごしてきました。

川野さんによると、こうした影響で顔は“運動不足”の状態になっているといいます。

「口の筋肉は顔の筋肉とつながっているので、顔の運動不足状態が続いている。特にほおの筋肉は動かさないと衰えてしまうし、動かさないと無表情に見えてしまう。そこを鍛えるトレーニングをします」

どんなトレーニングなのか、実際に体験してみました。

ふだんの笑い方の写真がこちらです。
ぎこちない感じです。

そこで、川野さんが教えてくれたトレーニングは…
1,上の歯で下唇をかんだまま、口角を上げて上の歯が8本見えるように笑顔の形をつくる。自然とほおの筋肉に力が入って盛り上がるので、この形を5秒キープ。

2,いったん口の形を真顔に戻します。

3,次に口をすぼめて「お」の形をつくり、10秒キープします。
この1~3を3セット繰り返します。

1で大頬骨筋と呼ばれる口角を上に引き上げる働きをする筋肉を鍛え、3で鼻やほおの筋肉を伸ばします。

シンプルで簡単な動きですが、繰り返し行うとほおの辺りに少し疲れを感じて、ふだん意識していなかった表情筋を使っていることを実感しました。

表情を比較してみると、違いがはっきりとわかります。

トレーニング前は口を閉じたまま表情を作っていましたが、歯を見せて笑ってみると、我ながら何となく明るく柔らかい雰囲気が出ている気がします。
また、舌を口の中で回したり、顔を上に向けた状態で舌を出したりするのも有効で、表情筋をトレーニングすることで、笑っているときだけでなく、真顔の状態でも口角があがって優しい印象になるということです。

受講する個人や団体は

川野さんによると、去年11月からことし1月までに実施した講座は、前の年に比べ3倍以上に増加。

緩和に向けた政府の方針が発表されたあとは、さらに問い合わせが増えているということです。

この日、個人向けのオンライントレーニングを受講した女性は、今後マスクを外す機会が増えるのを前にきれいな笑顔にしたいと話しました。

(受講者の女性)
「コロナ禍の3年間、在宅で仕事をするようになって人と話す機会が減ったことで、自分の顔や笑顔が変わってしまったと感じています。マスクを外して過ごすことが増えるのを前に、元に戻したいなと思ったんです」
また、大手保険会社では、マスクの方針が緩和されるのを見越してことし1月に笑顔トレーニング講座を行いました。

(保険会社の担当者)
「営業職の笑顔はとても大切です。マスクを着用している間に表情がこわばってきていたので受講しました。参加した社員には『これからももっと笑顔を意識して頑張りたい』と話す人もいて、いい研修になったと思います」

一方、神奈川県庁は働きやすい職場環境やトラブル防止に生かしたいとしています。

(神奈川県の担当者)
「コロナ禍に新設された部署では、職員どうしの顔と名前が一致せず話しかけにくい雰囲気があり、仕事の相談がしにくいといった課題がありました。仕事をしているだけではお互いの顔が見えてこないということもあり、『笑顔トレーニング』の受講が効果的だと考えました」

ほかにも川野さんのもとには、新人研修に笑顔トレーニングを取り入れている企業から「ことしはコロナ禍の3年間に入社した社員に研修を行ってほしい」という依頼が寄せられているということです。

「マスクなしは不安…」メークや身だしなみ学ぶ

笑顔だけでなく、マスクを外したあとの身だしなみ全体を見直そうとする動きが出ているのは、3月1日に本格的に就職活動をスタートさせた来春卒業予定の大学生たちです。

就活サイトを運営する会社によると、ことしの就職活動ではマスクを着用しない対面での面接が多く見込まれているということです。
就職活動のスタートに合わせ、この会社が開催したセミナーでは、マスクを着用しない対面での面接に向けて、大学生などが身だしなみやメークを学んでいました。

続いて実践での練習も行われ、講師たちは「リップはつやがあるものを選ぶといい」とか「ひげはオレンジ色のコンシーラーで隠せる」などとアドバイスしていました。

(女子学生)
「マスクなしで人と話すことに不安があります。ふだんはマスクをしているためリップの色などを気にしていなかったけど、明るい色を選ぶことで印象を変えることができることがわかりました」

(男子学生)
「ひげも化粧で隠せると知りました。身だしなみを意識して面接に臨みたいと思います」
(就活サイト運営会社 中根えりか 事業部長)
「ことし就職活動をする学生たちは、コロナ禍が長かったので、マスクを外すことに不安を感じている学生も多い。第一印象は重要なので、対面の面接での身だしなみなどを学んでほしい」

取材後記

この3年間で“当たり前”となったマスクを着用した生活。

重症化リスクの高い人が多い医療機関などを訪問する際や通勤ラッシュ時の電車内など、まだまだマスクを手放せない状況もありますし、「マスクなしでは恥ずかしい」との声もありますが、これまであまり見られなかった同僚や友人の笑顔をもっと見ることができるようになるかもしれません。

今回取材した私たちがNHKに入局したのは、それぞれ2019年と2020年の4月。取材先や職場の上司・同僚の中には一度も顔全体を見たことがない人もたくさんいます。

きっと最初は違和感や恥ずかしさを感じると思いますが、それでも、この3年間に出会った人たちの新しい一面が見られるのではないかと思うと、胸が弾みます。

取材を通じて、「笑顔トレーニング」を行っている川野さんが、笑顔は「自分の心も明るくする」と話していたのが印象に残りました。
(川野恵子さん)
「笑顔というのは周りのひとを笑顔にできるのはもちろん、本人のモチベーションも上がります。気持ちが変わるので人生の考え方とかも変わってきます。きょうの笑顔は5年後、10年後の未来へのギフトになるので、マスクを外せるような場面には、笑顔を周りの人や自分にも振りまいてもらえたらと思います」