学生時代に力を入れてきたことは?と聞かれても…

学生時代に力を入れてきたことは?と聞かれても…
「あなたが学生時代に力を入れてきたことは何ですか?」

就職活動で定番のこの質問。
実はことし、この質問の答えに困る学生が多いようです。

皆さんはどのように答えていましたか?

そして、今の学生と同じ環境だったら、なんて答えますか?

(取材班 西川龍朗 池田侑太郎 渡邊結子 松本裕樹)

サークルに入れなかった

3月1日。来年春に卒業する大学生の就活が本格的にスタートします。

私(池田)も記者になって、まもなく1年になろうとしています。
私もコロナ禍での就活でしたが、大学生活の最初の2年間はコロナの影響はありませんでした。

しかし、ことし就活を迎える今の3年生は違います。
入学した4月から休校となり、オンライン授業も続きました。
実は私の妹もこの世代です。

大学生活の最初の半年は完全にオンラインで、同級生との交流がほとんどなくSNSのハッシュタグで同じ大学の人を探して友達を見つけたといいます。

サークルの新入生歓迎行事もなかったため、自分も周りの友人もサークルには入らなかったそうです。

ことしの就活で、学生時代に力を入れたこと、いわゆる“ガクチカ”について聞かれると困ってしまうといいます。
「大人数でなにかをする経験が大学生のうちに全くなかった。リーダー経験はと聞かれても高校生時代までさかのぼらないとない。1人で取り組んで成果を出したことを話すしかなくなってる」

「大学受験を頑張った」

他の就活生はどうでしょうか。
「大学受験を頑張った。塾に通わず、休日は1日10時間、参考書や動画を用いて能動的に勉強した」
東京の大学3年の女子学生は就活でガクチカについて聞かれると、そう答えているといいます。
「大学生活のなかでガクチカに書けることが全くないんです。サークルも部活も入れず、自分たちで企画をして実行するという経験がなかなかできませんでした。就活に向き合って、コロナ禍の大学生活での経験不足を実感しています」
全国大学生活協同組合連合会が、大学生を対象にしたアンケート。
今の大学3年生が、1年生の時、サークルに所属していたのは48%。

コロナ禍前に入学した今の4年生より30%以上、後輩の2年生と比べても20%以上少なくなっていて、この世代だけ飛び抜けています。
一方、大学生のサークル離れは進んでいて、サークルに入ったことがないと答えた学生はこの4年で2倍に増えました。

部活に入ったものの…

では、部活に入った大学生はどう感じているのでしょうか?

大学時代「アルティメットフリスビー」に力を入れ、カンボジアなど海外の子どもたちにも教えていた私(渡邊)は、その経験を就活で話していました。
コロナ禍で入学した後輩が心配で母校を訪ねてみると、やはり就活中の後輩たちが頭を抱えていました。

話を聞いてみると…
就活中の後輩(大学3年生)
「新型コロナの影響で練習ができなくなることが何度もありました。大会に向けて作戦を立て、コンディションを整えても、本番間近になって急に大会が中止になることもあって。先が見えない状態の中で、チームのモチベーションをうまく保てなくて…」
ガクチカに書ける成果は出せなかったといいます。

私が大学生の時は、OB・OGや他大学の人との交流戦や合宿などを通じて、社会人の生の声を聞くことができましたが、そうしたつながりも減っているそうです。

入学前に期待していた海外への留学やインターンもできなかったといいます。
就活中の後輩
「慣れていない国でコロナに感染したらどうしようっていう不安もあったし、ビザや隔離期間の長さとか出入国の制限もその時々で違っていたので」
自粛、自粛で行動範囲も狭くなってしまったという声が多く聞かれました。

コロナ禍を何とかしたい起業する学生も

コロナ禍で、就活に違った動きが出ている。

そんな話を聞いて記者1年目の私(西川)が向かったのは、近畿大学です。
コロナ禍で、留学やサークル活動が制限される中、その分の時間を使って、起業を志す学生が増えているといいます。

経済学部3年の猪鹿倉文乃さんもその1人です。
猪鹿倉さんはもともと会計士を目指していました。

しかし、コロナで大学に行けず、友人にも会わずに家で授業を受けているだけの生活に嫌気がさしていました。

何かできることはないか。

目にしたのが、たまたま母親がやっていたVRチャットでした。

仮想現実での、自分の分身となるアバターを使ったコミュニケーションを見て、感銘を受け、独学で技術を勉強します。

今では、デジタルの仮想空間、メタバース上に、イベント空間やアバターを作成する事業をしています。
アバターは1体、100円~500円。
来月末に登記し、起業する予定です。

コロナ禍をなんとかしたいという思いからでした。
猪鹿倉さん
「オンライン授業は終わったらそれで終了ですが、VRだとそのあとでも教室に残って友達と過ごすことができます。コロナで変わってしまった学生生活ですが、自分が開発した製品でそういう空間を提供して、少しでも役に立てればと思っています」
近畿大学によると今年度、学生が新たに起業したのは17社にのぼります(11月末時点)

ただ、猪鹿倉さんは、起業したあとも就職活動も行うということです。
猪鹿倉さん
「就職して自分の技術力を磨くため、IT企業を志望して就活を続けています。しばらくは2足のわらじで行きたいですが、いつかは自分の事業だけで行けるように頑張りたいです」

ことしは就活生に“追い風”

若手記者と一緒に取材を進めた私(松本)の就職活動は19年前。
当時は就職氷河期と言われ、100社、200社と受ける友人もいました。

コロナに振り回された今の就活生に少しでも就活生に役立つ情報がないかと、ことしの就職戦線の見通しを聞きました。
リクルート就職みらい研究所
「ことしはコロナ禍の先を見越して採用数を増やしている企業が多く、去年やおととしの就活生と比べると就活生にとって追い風と言える状況になっています」
「企業もコロナ禍で学生生活に制限があったことは理解していますし、どの世代であっても就職活動は学生にとって初めての経験です。コロナ禍での就活生のありのままの姿を見たいと企業側も話しています」
コロナに振り回されたのは同級生、みんな一緒と思うと、少し心強いですね。

また、コロナ禍でオンライン面接が導入されたことで、海外に留学中だったり、地方の大学に通っている学生が面接を受けやすくなったというメリットも出ているといいます。

常にその時々の経済状況や世相が反映されるのが就職活動。

就活生のみなさんにとっては今は厳しく、苦しい状況かもしれませんが、来年の春、納得のいく進路に進めるようエールを送りたいと思います。