“EV蓄電池”を日常に 電気代を節約も

“EV蓄電池”を日常に 電気代を節約も
日本でも少しずつ市場が広がり始めたEV=電気自動車。実はEVは車としての価値だけでなく、「蓄電池」としても活用が期待されています。災害時の避難所などで、非常用の電源として活用する動きはすでにありますが、本格的な普及を見据え、“EV蓄電池”を日常に取り入れようというビジネスが動き始めています。(大阪放送局記者 吉田幸史、経済部記者 早川沙希・甲木智和)

高騰続く電気代

「このところ電気代が高くなったな…」

こう感じるようになった方も多いのではないでしょうか。

ロシアによるウクライナ侵攻や円安を背景に、エネルギーや食料品など私たちの生活に欠かせないモノの値上がりが続き、日本は41年ぶりの記録的な物価上昇に直面しています。

生活に身近な電気代は、消費者物価指数の去年1年間の平均でみると、おととしの平均より2割上昇しました。

こうした負担を軽減する政府の対策がことし2月の請求分から始まったものの、大手電力会社からは多くの家庭が契約する料金プランの値上げが申請されるなど、先行きは見通しにくくなっています。

エネルギーの自給自足で電気代も削減?

こうした状況も踏まえて、企業がいま力を入れているのがEVを蓄電池として活用するビジネスです。
パナソニックが開発したのは、太陽光発電と組み合わせてEVにためた電気を「家庭で使う」システムです。

家庭によっては「自家用車は平日の大半は駐車場に止まったまま!」というケースも多いのではないでしょうか。

新たなシステムは駐車場に止まっているEVに電気をため、必要に応じて家庭で使うことで、電力会社から買う電気代を抑えます。
“EV蓄電池”の特徴は種類にもよりますが、家庭用の蓄電池より少なくとも数倍は容量が大きいことです。

太陽光発電でためた電気は、家の照明や冷蔵庫などの家電に利用できます。

新たなシステムでは、家に備え付ける蓄電池とあわせて活用することで設備のない家庭と比べて、電気代を6割ほど安く抑えられるとしています。

こう聞くと、電気代が高騰する中で魅力的に思えますが、設備の設置などにかなりの費用がかかります。

EVや発電に必要な太陽光パネルを除いても、住宅とEVをつなぐ充電スタンドなどで450万円ほどかかるといいます。

ただ、災害などで停電したときには、4人家族が4日暮らせるほどの電力をまかなえるということで、開発した企業では電気代の節約にとどまらず、非常用の電源としての活用も期待できるとしています。
パナソニック エレクトリックワークス社 中嶋慎一郎 事業部長
「EVの蓄電池は容量が大きいので、走る以外にも利用できると考え、開発を進めた。EVにためる電気は、自動車にとってのガソリンの代わりだけではなく、家庭で電気をお得に使うための手段になることができる。発電した電気を効率的に家庭で消費できるシステムなので、一定の需要があると思う」

マンションでもエレベーターに活用

“EV蓄電池”をマンションで活用しようという動きも出始めています。

災害などで停電が起きた場合には、エレベーターが止まって、マンション内の移動が困難になります。

そこで、日立ビルシステムではEVからエレベーターに電気を送るシステムを開発し、ことしから新築マンション向けなどで販売を始める予定です。

屋外に設けた専用の設備にEVをつなぎ、建物内に電力を送る仕組みで、ことし1月には6階建てのビルで停電が発生したことを想定し、EVの電力だけでエレベーターを稼働させる実験が公開されました。
通常の電力が遮断されるとEVの電力に切り替わり、行き先階を示す画面に蓄電池システムで運転している表示が出されるようになっています。

軽自動車タイプのEV1台をつなぐと、エレベーターの速度は通常の半分ほどの遅いスピードにはなりますが、10時間稼働できたうえ、電池の残量も46%あったといいます。

このシステムではエレベーターの運転だけではなく、ビル内の給水や排水を行うポンプ、共用部の空調や照明にも電力を供給することが可能です。

現在は停電時の使用を主に想定していますが、ゆくゆくは日常の電力として利用することも目指したいとしています。
日立ビルシステム 製品・サービス企画部 平野敏史 部長代理
「日中に太陽光発電でEVに充電し、そのためた電気で夜間のエレベーターを動かすことなどができるようになるとコストにも直結し、投資効果やEVを持たない住民にとってもメリットになる。EVを建物のインフラを動かす動力源とするために開発を進めたい」

通勤をEVで“職場充電”

電力の地産地消に向けて、地域の企業を巻き込もうという動きもあります。

大手商社の住友商事は、ことし4月に新会社を立ち上げ、EVに充電した電気を企業の工場やオフィスで活用する新たなサービスに乗り出そうとしています。
都心から離れたエリアなどには、車で通勤する従業員が多く働く企業もあります。

こうした企業にEVと充電設備をセットで貸し出し、通勤用の車をEVに転換していこうというのです。

敷地の広い駐車場に車がずらりと並んだ光景、目にしたことはないでしょうか。

その車をEVに切り替えて蓄電池として活用すれば、太陽光発電を使って充電した電気を大量にためておくことができます。
そこで新たなサービスでは、EVに加えて発電システムもセットで貸し出します。

作られた電気は、工場やオフィスで活用してもらうだけでなく、従業員が帰宅したあとにはそれぞれの家庭で利用することも想定しているといいます。

自社で作った自給自足の電気を活用することで、電気代を節約するほか、EVを貸し出される従業員にとっては福利厚生にもなるとしています。
住友商事モビリティ事業第二本部 北原顕 本部長
「自動車の稼働率は4%とか5%と言われ、船舶や航空機と比べると大幅に低いが、EVであれば稼働していない時間で価値を出すことができるようになる。電気を職場で充電し、職場や家で消費する。こうした仕組みをどんどん普及させることで、電力の地産地消、それぞれの地域のエネルギーネットワークをEVが支えるというような世界観を目指したいと思っています」

EV普及で広がる可能性

日本は海外と比べれば、EVの普及は進んでいないため、多くの人にとってはまだ遠い存在というイメージがあるかもしれません。

今回取材した動きも、設備の導入にかかる初期費用や、ガソリン車を前提とした生活スタイルを一変させるコストを考えると、どこまで導入が進むのかは未知数です。

一方で、中長期的なEVシフトの方向性や、脱炭素に向けて資源のない日本が将来的にエネルギーをどうまかなっていくのかという課題を考えれば、再生可能エネルギーを活用しながら、より効率的に電気を使う仕組み作りは欠かせません。

そのときに“EV蓄電池”の活用は有力な選択肢となるのではないかと感じます。
大阪放送局記者
吉田 幸史
2016年入局
経済担当としてメーカーやエネルギー業界などを取材
経済部記者
早川 沙希
2009年入局
電機業界を担当
経済部記者
甲木 智和
2007年入局
財界や商社を担当