日本でも物価高騰 生活への影響続く ウクライナ侵攻1年

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化は、エネルギーや原材料価格の高騰につながっています。日本にも記録的な物価高をもたらし、生活への影響が続いています。

侵攻きっかけに…

エネルギー価格や穀物などの原材料価格は、2021年以降、コロナ禍による物流の混乱や経済活動の再開による需要の回復などから上がり始めていましたが、去年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、さらに上昇しました。これに加えて、円安が進んだことで輸入コストも増加し、食品メーカー各社などでは値上げの動きが広がりました。

家庭で消費するモノやサービスの値動きを見る消費者物価指数も上昇が続いています。1月の生鮮食品を除いた指数では、上昇率が41年4か月ぶりの記録的な水準となっています。

品目別の上昇率を具体的にみるとウクライナ侵攻の長期化による影響を大きく受けているものも多くなっています。
ロシアやウクライナが主要な生産国となっている小麦の価格が上昇し「小麦粉」は去年の同じ月より16.9%上がりました。

また「食用油」も31.7%上昇していて、総務省や農林水産省によりますと要因の1つとして、ウクライナ情勢悪化の影響を背景に、世界的に油脂の需給がひっ迫していることがあげられます。

このほか、ノルウェー産の「サーモン」がロシア上空を避けて迂回した飛行ルートで運ばれているため輸送コストの上昇などで生鮮魚介の「さけ」は29.4%の上昇となっています。

「サーモン」価格上昇 すし店は

すし店を運営する会社ではノルウェー産のサーモンを使った商品の値上げを余儀なくされています。

千葉県にある会社では90余りのすし店を展開していて京都にある会社を通じてノルウェー産のサーモンを年間およそ200トン仕入れています。しかし、去年2月のロシアによるウクライナ侵攻で空輸のルート変更を余儀なくされ、輸送コストの上昇などで商品を値上げしました。

このうち、ノルウェー産のサーモンを使った商品のうち「オーロラサーモン」は1皿2貫で税抜き270円で提供できていました。店舗では値段によって6種類の皿に分類され、当時は上から4番目にあたる赤い色の皿でした。

しかし、去年3月に税抜き330円に値上げされ、皿は「いくら軍艦」や「本まぐろ上赤身」などと同じ3番目に高い分類の銀色の皿に変わりました。

さらに去年9月には税抜き360円に値上げされ、2度の価格改定で90円上がりました。

家族4人で訪れていた母親は「サーモンは息子が好きなので、よく注文します。会計をする時に全体的に値段が上がっていると感じます」と話していました。

すし店を運営する「銚子丸」の経営戦略室の下公祐二課長は「ウクライナ侵攻による影響がここまで長引くと思っていなかったですし、ほんろうされた1年でした。今後も先が見えにくい混とんとした状況が続くと思いますが、臨機応変に対応した仕入れなどを行ってお客様に喜んでいただけるよう努力していきたい」と話しています。

“サーモン価格高騰”で仕入れ分散化の動きも

ノルウェー産のサーモンの輸送コストが上昇する中、安定的な供給のために別の産地からの仕入れを増やす動きが出ています。

農水産物の輸入などを行う京都市の会社はノルウェーで養殖されたサーモンを年間およそ1万トン輸入し、スーパーや回転ずしのチェーン店などに卸しています。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けてルートの変更を余儀なくされ、トルコや中央アジアの上空を通って迂回するため飛行距離は1.5倍となり輸送コストはおよそ2倍に上昇しています。

このため、コストの上昇分を価格転嫁せざるを得ず、ウクライナ侵攻の前と比較してサーモンの卸売価格を4割近く値上げしました。

会社では、安定供給を図るとともに、輸送コストがノルウェー産よりも低くなったチリ産のサーモンの仕入れに力を入れていて、ことしは、去年と比べておよそ3.4倍に増やすことにしています。

一方で、この会社ではウクライナの水産加工業者との取り引きを続けています。会社によりますと、ウクライナ周辺を空輸したり、船舶で輸送したりする貨物は保険の対象にならないため損害を受けても補償はされませんが、去年の仕入れは前の年と比べて2倍余り増やしていて、今後もビジネスを通したウクライナ支援を続けたいとしています。

「オーシャン貿易」の金子直樹社長は「卸しているノルウェー産のサーモンの数量は、一番多いときと比べておよそ6割程度となっている。消費者から手が届きにくくなっていてチリ産のサーモンの取り扱いを増やしている。ウクライナの企業と、いままで通りの取り引きをすることが、自分たちにできる最大の支援ではないかと思っている。貿易をするにあたって、地政学リスクは避けられず、情勢を分析して、仕入れ先の分散化などリスクヘッジを図っていくしかない」と話していました。

希少金属の価格上昇で“リサイクル”活用も広がる

ロシアのウクライナ侵攻は金や希少金属の価格上昇を招きました。企業の間で資源の安定確保に向けたサプライチェーン=供給網の再構築が課題となる中、宝飾品や電子機器から金属を取り出すリサイクルの活用が広がっています。

去年2月のウクライナ侵攻以降、ロシアが産出国となっている金や希少金属は需給ひっ迫などの懸念が強まりました。

▽産出量が世界3位の金は去年4月に先物価格が初めて1グラム8000円を超え、いまも高止まりしているほか▽世界の産出量の4割を占めるパラジウムも一時、急騰しました。

こうした中、貴金属リサイクル大手のアサヒプリテックは去年4月、およそ60億円を投じて茨城県坂東市に国内で最大規模のリサイクル工場を建設しました。

この工場には、指輪やネックレスといった宝飾品などが集められ、この中から金やパラジウムなどを回収しています。

特殊な薬品などを使って金属の種類ごとに分離させ、純度の高い状態にしたうえで販売していて、商社やメーカーなどから引き合いが増えているということです。

また、人権リスクへの対応としてロシア産の資源の利用を避ける動きも広がっているということで、世界的に有名な宝飾品メーカーなどへの販売が増えています。

この会社では、去年12月までの9か月間に▽金を前の年の同じ時期と比べて、1.6倍の19トン▽パラジウムを5%多い4.6トン生産したということです。

アサヒプリテックの中西広幸社長は「貴金属の価格が高騰すれば、結果として、消費者が影響を受けるので、リサイクルの貴金属を安定供給することで、市場価格の抑制にもつなげられると思っている」と話しています。