インドでうどん 広がるか?

インドでうどん 広がるか?
独特の「コシ」で根強い人気を誇る讃岐うどん。いま海外に売り込もうという動きが活発になっています。ターゲットの1つが、人口増加が著しいインドです。
固有の麺文化がないとされるインドで、うどんを広げることはできるのか? 挑戦を追いました。(高松放送局記者 富岡美帆 / ニューデリー支局)

カレーうどん インドでの評価は?

インドの首都・ニューデリーに隣接する、新興都市・グルガオン。

外資系の企業も数多く進出する経済成長著しい都市です。
1月中旬、中心部の大型商業施設にある日系レストランで、現地の人たちを招いたある日本食の試食会が行われていました。
ふるまわれたのは、日本ではおなじみの「カレーうどん」。

手がけたのは、香川県に本社を置き、乾麺や半生麺を手がける製麺会社です。
「14億人を超えるインドは非常に魅力的な市場ですね」
こう話すのは、日本から訪れた営業部長の石丸昌邦さん。

人口が中国を上回って世界一になると見られるインド市場に進出しようと、今回、初めてうどんの試食会を開きました。
カレーを提供したのは、3年前に日本のカレーを“逆輸入”する形で現地に進出した、日本の大手カレーチェーンです。

讃岐うどんと、日本のカレーを掛け合わせた「カレーうどん」を、現地の人はどう評価したのでしょうか。
「これまで食べてきた麺は、パサパサしていたけど、今日食べたうどんの麺は、より歯ごたえがあって食感がいい。食感がもちもちしているうどん麺を食べるのは初めてですが、とても気に入りました」
出席した飲食店経営者やビジネスマンからは、まずまずの高評価を得ることができました。

自慢の“コシ”に思わぬ声も

しかし、その次に出したメニューで、思わぬ反応に直面します。

そのメニューとは、1度ゆでた後に、水で締めただけの麺です。
讃岐うどんの「コシ」もインドで売り込みたいと考えていた石丸さん。

日本でいえば「ざるうどん」に近い感覚で、讃岐うどんの生命線とも言える麺の「コシ」をじかに味わってもらおうと考えたのです。

しかし出席者からは…
「アルデンテのような堅さがある。十分に料理されていないと誤解を生む可能性がある」
インドには冷やして食べる習慣がないので、ゆでたとは言え、冷たい水で締めただけの麺を食べることは、「生」のまま食べる感覚に近いと受け止められる可能性もあるというのです。
そもそも、インドでは麺を食べるという文化はあるのでしょうか?

インドの食文化に詳しい専門家によると、麺を食べる固有の文化はないそうですが、経済発展とともに、海外の食文化の流入も進んでいます。

例えば、うどんに似た形状の麺を使い、野菜などと炒めて食べる中国の料理は、幅広い層に受け入れられているといいます。

こうした状況を踏まえ、まずは大都市部の若い人たちに讃岐うどんを売り込もうと考えた石丸さん。

試食会のあと、首都・ニューデリーでも各所を回り、反応を探りました。

あるホテルでは、スープとともに食べる食べ方になじみがないことから、具材と炒める「焼きうどん」のような食べ方で、売り込んではどうかと提案を受けました。
また、ある調理師学校では、水で締めた麺に醤油をかけて食べてもらったところ、学生から「インド由来の調味料などと合わせたら受け入れられるのではないか」という意見も寄せられたそうです。
石丸昌邦営業部長
「インドでは、麺の『コシ』は、まだ十分には受け入れられていないなと感じました。どのぐらいコストを下げてインドの飲食店まで安く我々の讃岐うどんを届けるか課題として残りますが、インドは非常に魅力的な市場なので、そこの方々に合った商品を作ってお届けしたい」

インドでの展開は?

インドでの調査を受けて、社内では、さまざまな意見が出たと言います。
「独特の『コシ』の食感に、抵抗があるなら、まずは温かいうどんなど、現地で受け入れられやすい食べ方で提示する必要がある」
「もともと麺文化がある台湾でさえ、先行してうどんを輸出した際に、冷たい麺が受け入れられるのに10年はかかった。時間をかけて丁寧に定着をはかるべきだ」
こうした意見も踏まえ、会社では、うどんをパスタ風にアレンジした料理や、ゆでてお湯を切った釜揚げうどんにカレーをあえるといった料理方法を取り入れることを検討しています。

都市部を中心に、インドで日本食を展開する別の企業との連携も強めて、今年中にも現地での試験販売にこぎ着けたい考えです。

海外進出でうどんの消費拡大を

讃岐うどんの海外進出を目指すこうした動き。

背景にあるのは、事業者や行政が抱える強い危機感です。

今回の試食会でふるまわれた麺には、香川県がうどん用に開発したオリジナル小麦「さぬきの夢」が使われました。

鼻に抜けるような強い風味があるのが特徴で、生産も徐々に拡大している品種です。
しかし総務省の「家計調査」によると、高松市の「日本そば・うどん」の外食での年間の支出金額は、新型コロナの感染拡大後の2年間でおよそ12%減少。
令和元年は1世帯あたり1万4792円でしたが、令和3年には1万3077円に減少しました。
当然、「さぬきの夢」の消費にも影響を与えていて、業者の希望購入量は、ピーク時のおよそ3割に。

製粉業者の多くが、在庫を抱えている状況に陥りました。
小麦生産者からは、「このまま消費が低迷する状況が続けば、生産量を減らさざるを得ない」という声も出ています。

香川県は国の事業なども活用して、事業者の輸出の動きを後押ししていて、今回の企業の取り組みも、その一環となります。

香川県民のソウルフードとも言える讃岐うどん。

食文化の異なる地域でも定着していくことができるのか。

今後の展開に、県内のみならず、多くの関係者が注目しています。
高松放送局記者
富岡美帆
2019年入局
警察や司法を取材したのち、香川県政や選挙を担当
うどんのお供は「ちくわ天」