ウクライナ侵攻1年 ロシアから人材受け入れ 隣国ジョージアは

ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアからは、経済制裁や、去年9月に始まった予備役の部分的な動員から逃れようと、多くの人材が国外に流出しています。こうした人たちを受け入れることなどで自国の経済成長につなげているのがロシアの隣国で旧ソビエトから独立したジョージアです。

軍事侵攻始まって以降 ロシアから国外に出る動き続く

去年2月に軍事侵攻が始まって以降、ロシアからは政権側による言論統制への恐れや欧米の経済制裁の影響などを理由として国外に出る動きが続いています。

国外に脱出したり帰国したりといった動きについて公式な統計は発表されていませんが、ロシア出身の経済学者は最初の10日ほどで、少なくとも20万人がジョージアやトルコなどに向けて出国したという見方を示しています。

さらに、去年9月、プーチン大統領が兵力の補強を狙って30万人の予備役を動員すると表明すると、招集から逃れようと出国する人々が相次ぎました。

インターネットの検索サービスでは、出国に関する検索が急増し、国際線の航空券が一時、取りにくくなったほか、ジョージアやカザフスタンなど隣国との国境に車の長い列ができました。

ロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、出入国を管理するFSB=連邦保安庁が大統領府に報告した内容だとして、動員表明からの4日間に出国した男性の数は26万人余りだと伝えました。

また、アメリカの経済誌「フォーブス」のロシア版は、去年10月上旬、大統領府関係者の話として動員表明を受けて出国した市民は70万人に上ると伝えた一方、大統領府のペスコフ報道官はこれを否定しています。

動員をきっかけに侵攻自体に対する世論にも影響があったとみられ、独立系の世論調査機関が9月下旬に行った調査では、停戦交渉を始めるべきだと答えた人が48%で前の月より4ポイント多くなりました。

「動員についてどう感じるか」を複数回答で聞いた質問では
▽「不安や恐怖」が47%と最も多く
▽次いで「ショック」と「国への誇り」がそれぞれ23%
▽「怒りや憤り」が13%となっています。

一方、ロシアの議会では、国外からのテレワークを禁止することや税制優遇措置の停止に関する議論が始まるなど、締めつけを狙う動きも出ています。

ジョージア ロシアからの入国 11万人超に

こうした人たちを受け入れることなどで自国の経済成長につなげているのがロシアの隣国で旧ソビエトから独立したジョージアです。

ジョージアの人口は、およそ370万と、静岡県とほぼ同じ規模ですが、ジョージア内務省によりますと、去年1月から11月までにロシアから入国し、生活を続けているロシア人は、11万人以上にのぼるということです。

さらに、ジョージアの国立銀行によりますと、去年1年間にロシアから流入した資金は、およそ20億ドル、日本円にしておよそ2700億円と、前の年の5倍に上ったほか、統計当局によりますと、去年の実質経済成長率も、10.1%になったとみられるとしています。
ジョージアの大手金融グループのチーフエコノミスト、オタール・ナダライア氏は「経済成長の主な要因は、ウクライナでの悲劇に端を発する、移民だ。ロシア人の流入は、経済成長や生産性の向上にもつながっている。ロシアから生産力が流出している」と指摘しました。

また、ロシア人の給与水準はジョージア人より高いとして、活発な消費も期待できるとしています。

その上で「住宅を買ったり、子どもを学校に通わせたりするロシア人もいて、かなりの部分は長期間とどまるだろう」として、ロシアからの人材が、長期にわたってジョージア経済の発展に貢献していく可能性があると分析しました。

その一方でナダライア氏は「移民の流入はリスクにもなる。それに依存しすぎると、外的な『ショック』になりかねない」として、ロシアの情勢次第で、ロシア人が一斉に帰国するなどして、ジョージア経済が大きく左右されかねないと、懸念を表しました。

また「ジョージア人はウクライナを強く支援している。ウクライナが苦しんでいるのを目にするのはとても心苦しい」として、ロシア人材の流入が経済に恩恵をもたらしていても、ウクライナを巡る情勢を憂慮する気持ちに変わりはないと強調していました。

多くの企業も相次いでジョージアに移転

ジョージアには、ロシア人とともに多くの企業も相次いで移転しています。

ドイツに本部がある企業活動などを監視するNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」によりますと、去年3月から9月までにジョージアで新たに登記されたロシアの企業は、個人事業主も含めておよそ9500社にのぼります。

これは、前の年の1年間に登記された数の10倍だということです。

ロシアからジョージア第2の都市バトゥミに去年8月に移転したIT企業が今月、NHKの取材に応じました。

ロシア人が経営し、アプリの開発などを行っているこの企業は、ロシアとベラルーシに事務所を構えていましたが去年3月までにいずれも閉鎖し、ロシア国外でリモートワークを続けながら移転先を探していたということです。

ロシアを去った理由について、責任者は「経済制裁によって、顧客とのビジネスの継続が困難などころか、不可能になった」と述べSWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの金融機関が外されたことが、理由の1つだったとしています。

その上で、ロシアによるウクライナ侵攻についても、言葉を慎重に選びながら「とても怖かった」と述べ、ロシア社会の変化に強い戸惑いを感じたことも、ロシアを去った一因だったと明らかにしました。

また、移転先としてジョージアを選んだ理由についてはロシア人の入国に対して政府が比較的寛容であることや、税率が低いこと、そしてロシア語を話せるジョージア人が多いことが決め手になったといいます。

現在、この事務所をはじめジョージア国内では、元々勤めていたロシア人やベラルーシ人のほか、避難してきたウクライナ人などもあわせて52人を雇用しているということです。

責任者は「旧ソビエトが崩壊したときも多くの人が国外に流出し、大きな衝撃だった。いまは当時と同じような状況だ」と話していました。

過度の「ロシア依存」によるリスク懸念

多くのロシア人が流入していることについて、ジョージア国内では、経済効果を期待する声がある一方、過度の「ロシア依存」によるリスクを懸念する声も多く聞かれました。

市場で食品を売る男性は「ロシア人が多く来ることで商品がたくさん売れて、仕事も生まれる。ジョージアにとっていいことだ」と歓迎していました。

また、画家の女性は「ロシア人だからといって、国籍でひとくくりにするのはよくない。悪いのはプーチン体制だ」と話していました。

一方、ジョージアが2008年、ロシアから軍事侵攻されたことを背景に、ロシア人が流入してくることへの強い警戒感を訴える人も多くいました。

書籍の編集者の女性は「ロシア人がたくさん来たが、ジョージアの将来にとっては悪い影響があると思う。ジョージアを『ロシア化』しようとしているのではないか」と話しロシアがジョージアで影響力を強めることにつながるのではないかと不安をにじませていました。

また「ロシア人が来てから、物価が上がった。住宅もアパートも、全部だ。ロシア人は自国にとどまってプーチン氏に抗議していればいい」と不満を訴える男性もいました。

さらに、ロシア軍の駐留が続く、ジョージア西部のアブハジア出身で、いまも避難生活を続けているギオルギ・ジャカイアさん(47)は「良い点をすべて考慮しても、デメリットが上回る。ロシアはジョージアに対して、『ロシア人を守るため』という口実で介入をすることができる」として、ジョージア国内のロシア人の保護を口実に、再び軍事侵攻に踏み切るのではないかと強い懸念を示していました。