ウクライナからの避難者受け入れ 自治体により支援内容に差も

ロシアによる軍事侵攻が始まってから1年となるのを前に、NHKがウクライナからの避難者を受け入れている自治体にアンケートを行ったところ「十分な支援ができている」と回答した自治体は69%で「十分な支援ができていない」と回答したのは25%でした。

専門家は、自治体によって支援内容に差が出ている可能性があると指摘しています。

ウクライナから日本に避難している人は今月15日時点で2185人いますが、出入国在留管理庁は、避難者を受け入れている市区町村名や人数の内訳を公表していません。

NHKは、避難者の受け入れが確認できた全国43都道府県のあわせて163の市区町村に対して、先月から今月にかけてアンケートを行い、すべてから回答を得ました。

この中で、避難者の受け入れ人数を尋ねたところ、151の自治体が回答し、その数は全体の74%にあたるあわせて1622人でした。

「十分な支援できていない」…25%

避難者に行っている支援について複数回答で尋ねたところ
▽「相談」が71%
▽「支援金の提供」が55%
▽「日常生活・物資の支援」が54%
▽「住宅の提供」が50%
▽「教育支援」が41%
▽「就労支援」が29%などでした。

現在行っている支援についてどのように感じているか尋ねたところ
▽「十分な支援ができている」が69%
▽「十分な支援ができていない」が25%でした。
十分な支援ができていないと回答した自治体に理由を複数回答で尋ねたところ
▽「通訳できる人員が足りない」が53%
▽「働く場を提供できない」が38%
▽「十分な教育支援をできない」が30%
▽「対応できる職員が足りない」が25%
▽「予算が足りない」が20%などでした。

「国に求めたい支援ある」…74%

一方、避難者の受け入れをめぐり、国に求めたい支援はあるか尋ねたところ
▽「ある」が74%
▽「ない」が23%でした。

あると回答した自治体に内容を複数回答で尋ねたところ
▽「財政支援」が68%
▽「通訳の確保」が43%
▽「就労先の確保」が37%
▽「教育に関する支援」が27%などでした。

立教大 長教授「支援内容の差 国の関与が足りていない」

アンケートの結果について難民問題に詳しい立教大学大学院の長 有紀枝教授は「同じ日本に避難してきたはずなのに自治体によって支援の内容に差がある。差が出ている理由の1つは国の関与が足りていないということだと思う」と指摘しています。

その上で、「支援する自治体側もことばが通じないと、意図しない誤解が生まれると思うので、財政的な支援だけでなく通訳の支援を国に求めていることがよくわかる。長い戦争になるとしたら当初とは違う受け入れの方針が政府も自治体も必要になるのではないか」と話しています。

避難者の支援 枠組みは

ウクライナからの避難者の支援をめぐっては、親族や知人などの身元引受人がいない人は国が生活費の支給などを行いますが、それ以外のおよそ9割の避難者は、自治体や身元引受人などが中心となって支援しています。

出入国在留管理庁によりますと、今月15日時点でウクライナから日本に避難している2185人のうち、親族や知人、支援団体などの身元引受人がいない人は、およそ1割にあたる230人ほどだということです。

身元引受人がおらず、住居もない避難者については、国が一時滞在先のホテルを確保し、食事を提供したり日本語の教室を開いたりしているほか、生活費として1日あたり最大で1000円を支給するなどしています。

また、ホテルを出たあとも1日あたり最大で2400円を支給しているほか、就労支援の一環として、避難者を雇用した事業者に助成金を支給するなどしています。

一方で、避難者のおよそ9割は、自治体や身元引受人などが受け入れを行っています。

国は、受け入れ先の自治体に対し、相談窓口の設置などに関する交付金を支給しているほか、日本語教室に関する経費を補助するなどしていますが、住宅の確保や日々の生活のサポート、就労先の確保などの支援の実務は自治体や身元引受人が中心となって行っているのが実情です。

「地方への丸投げ感否めない」と指摘する自治体も

アンケートの自由記述では、避難者への支援をめぐり、民間企業などと連携することで支援ができているという回答があった一方、市区町村の負担が大きいとして支援の枠組みの見直しなどを求める記述もみられました。

▽このうち、千葉県内の自治体は「行政による支援に限りがあるなか、民間企業や団体等からの支援により、支援を継続することができている」と記しています。

▽宮城県内の自治体は「受け入れている避難者は少数であるため支援する上で顔の見える関係を構築しやすかった」と答えています。

一方で自治体の中には、負担の大きさなどを訴えているところもあります。

▽茨城県内の自治体は「大多数の避難民の生活費などについては滞在先の市町村や民間団体、身元保証人に委ねられ、国としての経済的支援が行われないことは政策として中途半端である」と指摘しています。

▽愛知県内の自治体は「市町村の立場としては、国や県の地方への丸投げ感は否めない」と指摘しています。

▽このほか宮城県内の自治体は「自治体によって支援内容にバラつきが生じており、国の政策としての一貫性や整合性の整理が必要」だとして支援の枠組みの見直しを求めています。

自由記述の中には、ことばや文化の違うウクライナの避難者との接し方などへの悩みも記されていました。

▽秋田県内の自治体は「相手に伝えたい心からの生のことばをかけることができず、無力さを感じている」と記しています。

▽静岡県内の自治体は「避難者が置かれている状況や心情を正しく理解し、的確に支援することの難しさを感じる」と悩みを記しています。

企業などと連携し支援にあたる自治体は

ウクライナからの避難者を受け入れている自治体の中には、地元の企業などと連携しながら、さまざまな支援にあたっているところがあります。

このうち24人の避難者を受け入れている広島市では、市が住宅の確保や通訳の手配などを行うとともに、市内の企業に協力を依頼して家電や家具などの提供や就労支援などを行っています。
去年5月にウクライナから単身で避難してきたドラハン・レイシャさん(30)も市が用意した市営住宅に入居し、民間の企業からエアコンや電子レンジなどを無償で提供されました。

また、県の仲介を受けて市内の印刷会社で契約社員として働き、自分で生活費をまかないながらNGOが開いている日本語の講座を受講するなどして勉強しています。

レイシャさんは「今の生活に満足しています。いろんなサポートもあって、すごく相性のいい町なので、今後もここで住み続けたい」と話していました。
広島市の中谷満美子国際化推進担当部長は「広島市の力だけでは支援は無理だったので、県をはじめ企業や団体、ボランティアなど助けてくれそうなところに片っ端から声をかけて、支援メニューを作り上げていった。自分たちができることを持ち寄って、素早く支援していくことがやはり大事だと思う」と話しています。

支援の課題については「日本で就職しようとしたときにこれまでのキャリアをベースに仕事を探す方が多いと思うが、やはり日本語の壁があってなかなか思うような仕事がないのが実情だ。そういった中で、将来像を描けないところがかなり苦しいのではないか。これから長期的に避難者を支えていくためにはどうすればいいかが大きな課題だ」と話しています。

その上で「支援のために必要な物品やお金などを地方自治体の財源ですべて用意するのはやはり難しい。民間や地方公共団体ができること、国がやるべきことを1度再整理した上で、支援の枠組みを組み立てた方がいいと思う」と指摘しています。

出入国在留管理庁 「さらに支援必要な自治体あれば今後検討」

ウクライナからの避難者をめぐり身元引受人の有無によって支援方法や内容が異なることについて、出入国在留管理庁は「本来は身元引受人が支援にあたるものだが、身寄りがない人でも受け入れることを決めた以上、日本で生活できるよう国が責任を持って支援にあたる必要がある」としています。

また、避難者の受け入れをめぐり、74%の自治体が国に求めたい支援があると回答したことについては「交付金を用意したり情報提供をしたりするなど自治体に対してもできるかぎり支援を行っているが、さらに支援が必要なところがあれば、今後検討して参りたい」としています。