身元引受人の支援 自治体の約3割「改善必要」

ウクライナから日本に避難してきた人たちをめぐっては親族や知人などの身元引受人が生活支援を一定程度行うとされています。

NHKが避難者を受け入れている自治体にアンケートしたところ、身元引受人による支援について、およそ3割は「改善の必要がある」と回答し、「身元引受人の金銭的な負担が大きいこと」や「避難者との間でトラブルが起きていること」などが課題だとしています。

引受人を社会全体として支援する必要性が指摘されています。

身元引受人見つからずホテル生活に

ウクライナの避難者のなかには、日本にきてからおよそ半年がすぎても身元引受人が見つからず、一時滞在先のホテルでの生活を余儀なくされている人もいます。

ウクライナの首都・キーウで家族と暮らしていたトゥカチェンコ・ロベルトさん(18)は、去年8月、ロシアによる攻撃から逃れるため、1人で日本に避難してきました。日本に親族などの身元引受人がいないことから、国が一時滞在先として提供している千葉県内のホテルに身を寄せています。
民間の支援団体を通じてウクライナ人の友人ができ、東京周辺での生活を希望していますが、いまも身元引受人となる人や受け入れてくれる自治体が見つかっていないため、ホテルでの生活はおよそ半年に及んでいます。

一時滞在先のホテルのいる人は仕事をすることが認められず、国から支給される生活費は1日1000円に限られているため、外出は必要最小限にとどめているといいます。

ロベルトさんは「日本に来たときにはヨーロッパと違って安全だし、食べ物もあってすごくうれしかった。でもホテルでの暮らしも6か月になり、あまりにも長すぎて疲れたし、料理をすることさえできず、本当に苦しいです」と心境を打ち明けています。

出入国在留管理庁からは数か月後に埼玉県内の住宅に転居できる可能性があると伝えられているということで、「引っ越しができたら仕事を見つけてすぐに働きたいです。お金をためて学校に通い、日本語を勉強したいです」と話していました。

出入国在留管理庁によりますと身元引受人などが見つからず一時滞在先のホテルにいる人は2月15日時点で64人いて、ロベルトさんのホテルにも30人ほどが生活しているということです。

支援団体「身元引受人見つからず」相談複数

ロベルトさんを支援している民間の支援団体には、避難者などから身元引受人のなり手が見つからないとか、引受人との間でトラブルが起きたなどの相談が複数寄せられているということです。

支援団体の浮世満理子代表は「引受人のあるなしや、その人との相性によって日本での安全や生活が左右されることは事実としてあると思います。家族や知り合いもいないウクライナの人たちにとって、日本でできた友人は生きていく上で欠かせないコミュニティーであり、『どこでも文句を言わずに行くべきだ』というわけにはいかないということを理解した上で、信頼できる引受人を探していかないといけない」と話しています。

自治体アンケート 身元引受人の支援 約3割「改善の必要」

ウクライナから日本に避難してきた人たちをめぐっては親族や知人などの身元引受人が生活支援を一定程度行うとされています。

NHKが避難者を受け入れている自治体にアンケートしたところ、「改善の必要がある」と回答した自治体は、身元引受人の金銭的な負担が大きいことや、避難者との間でトラブルが起きていることなどを理由にあげています。

アンケートは、ウクライナからの避難者の受け入れを確認できた全国43都道府県のあわせて163の市区町村に対して、NHKが先月から今月にかけて行い、すべてから回答を得ました。

ウクライナからの避難者について、国は、親族や知人、団体などの身元引受人がいる場合は、「引受人が生活など一定程度支援することを想定している」としています。

アンケートで身元引受人による支援ついて尋ねたところ、
▽「今のままでいい」が59%、
▽「改善の必要がある」が31%でした。
改善の必要があると回答した自治体に理由を複数回答で尋ねたところ、
▽「身元引受人の金銭面や労力の負担が大きい」が71%、
▽「身元引受人と避難者との間でトラブルが起きている」が29%、
▽「身元引受人が見つからない」が14%などでした。

出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難している人のうち、身元引受人がいる人はおよそ9割いますが、こうした避難者に対しては生活費を支給しておらず、身元引受人に対しても金銭的な支援はしていません。

アンケートでは、「引受人は体力面、精神面で相当の負担がかかっているように見え、サポートが必要だ」などと記述する自治体もありました。

国の金銭的な支援ない身元引受人

ウクライナからの避難者について出入国在留管理庁は、「身元引受人」が生活支援などを一定程度行うことを想定しているとしています。

避難者は、日本へのビザを取得する際に身元引受人になる人が作成した「身元保証書」を提出しますが、日本に滞在していれば親族や友人でなくても作成することができるため、SNSを通じて知り合うなど、直接面識がない人に依頼するケースもあります。

身元引受人に支援の義務はありませんが、日々の生活の相談に乗るだけではなく、家を借りる際の身元保証をしたり生活費を負担したりする人もいます。

国は、身元引受人がいる避難者に対しては、生活費を支給しておらず、身元引受人に対しても金銭的な支援はしていません。

一方、身元引受人がいない避難者については国が直接支援にあたっています。

具体的には国が確保した一時滞在先のホテルにいる間、食事の提供とは別に、1日あたり12歳以上は1000円、11歳までは500円を生活費として支給しています。

また、自治体や企業が受け入れを申し出て一時滞在先を出たあとも、1日あたり12歳以上は2400円、11歳までは1200円を支給しています。

出入国在留管理庁によりますと、今月15日時点でウクライナから日本に避難している2185人のうち、身元引受人がいる人は全体のおよそ9割で、残りは身元引受人がいない人だということです。

会社辞めて身元引受人に 「助けるべき局面」

愛知県安城市に住む高橋想子さん(41)です。去年5月、13年間勤めた旅行会社を辞め、ウクライナ避難民を受け入れる身元引受人になりました。

その動機について、高橋さんは、「ロシアによる侵攻は、現実とは思えないぐらいショッキングなことでした。だから、助ける余裕がある人が助けるべき局面だと思いました」と振り返ります。

高橋さんは、SNSを通じて、1組の家族の支援を始め、県営住宅の申し込みや、市役所での手続きに加え、家具や電化製品の手配や、仕事を見つける手伝いも行いました。

これにより、この家族は現在、愛知県内で自立して生活できているということです。高橋さんは、「彼女たちは仕事などでいろんな人に関わって多くの人に支えられて暮らしていることを本当にリスペクトしています」と振り返りました。

引受人のあり方「国がルール決めて実施望ましい」

しかし、こうした支援がうまくいかないケースもありました。タカ橋さんは、単身で来日したウクライナ人女性の引受人にもなりましたが、およそ5か月後に、何の相談もないまま、ヨーロッパに戻ってしまい、連絡がつかない状態になったということです。

高橋さんは、「彼女の求めていた滞在のイメージと違ったようで、私の見極めがまずかったと思います。応援してくれた人には申し訳ない気持ちです。ただ、本人の幸せを願っています」と話していました。

こうした引受人のあり方については、「日本が難民への門戸を広げるのであれば、やはり言語が課題になってくるので、市役所での手続きなどで引受人などの存在が必須だと思います。自治体によって支援の内容も異なるので、今回のことを教訓にして、お金や受け入れ態勢などで、国が統一のルールを決めて、全国で実施していくことが望ましいのではないか」と話していました。

トラブル 性的嫌がらせ受けるケースも

一方、今回のアンケートで身元引受人の制度について改善が必要とされた理由の1つが避難者との間のトラブルです。

引受人から、性的嫌がらせを受けたという20代の女性がNHKの取材に応じました。証言から見えてきたのは避難者の立場の弱さにつけ込んだ悪質な言動です。

女性はウクライナで両親と暮らしていましたが、侵攻が始まった去年2月24日、以前から仕事で知り合いだった50代の日本人男性から、SNSで安否を心配するメッセージが届きました。そこには、「大丈夫ですか?助けが必要なら言ってください」などと書かれていて、当時はありがたく感じたといいます。
自宅の近くにミサイルが着弾したこともあり、女性は、一刻も早く国外に逃れたい一心で男性の申し出を受け入れて、引受人になってもらい、日本に避難しました。来日後は、行政から提供されたアパートに住み、民間団体から生活費の支援も受けて安心して暮らしていたという女性。

しかし、引受人の男性の言動に違和感を覚えるようになりました。男性は、女性の意思に反して、髪を触ろうとしたり、抱きしめようとしたりするようになりました。また、性的な話題を口にしたり、既婚者であるにも関わらず、プロポーズしてきたこともあったといいます。

また、女性はある日、男性からアパートの予備の鍵を手渡すよう求められました。避難者は、日本で暮らすために、引受人の署名や同意が必要な場面が多いため、女性はそれを断ることができませんでしたが、ある時、外出先から帰って、アパートの玄関を開けると、男性が勝手に上がり込んでいたといいます。

女性は、自分の身を守るために、「彼氏ができました」と伝えたところ、男性は態度を一変させ、「その男とはどんな関係なんだ。お前はひどい人間で恩知らずだ」などと女性をなじったといいます。

さらに男性は、生活費の支援をしている民間団体に対して、女性は問題があるから支援金を渡さないように圧力をかけたということです。女性は、避難者を支援する知り合いを通じて、代わりの引受人を見つけることができました。

避難者の多くは、立場が弱い女性と子どもで、この女性は、「日本の支援にはとても感謝していますがこうした問題も起きていることを知ってほしい。ウクライナから避難してきた女性たちが同じ思いをしなくていいよう守ってほしい」と訴えています。

出入国在留管理庁「自治体と連携して対応」

ウクライナからの避難者と身元引受人とのトラブルをめぐっては、出入国在留管理庁にも相談や情報が寄せられているということです。

こうしたトラブルについては、電話やメールで対応する避難者専用の窓口や、各地の入管事務所で相談に応じているほか、自治体と連携して対応にあたっているとしています。

中には、トラブルなどによって身元引受人がいなくなってしまった避難者もいて、国が提供している一時滞在先のホテルに入ってもらうケースもあるということです。

出入国在留管理庁は身元引受人への支援について、「現在行っている相談対応などのサポートを継続しながら、個々の状況に応じて国として対応が必要がどうか判断していきたい」としています。

一方、避難者と身元引受人との間でトラブルがあることについては、「身元引受人に対して責任を持って避難者への支援を行うよう引き続き呼びかけたい」としています。

NPO代表理事「最低限の支援は国が保障すべき」

「身元引受人」の仕組みについて、難民の受け入れ支援を長年行っているNPO「難民支援協会」の石川えり代表理事は、「日本では、引受人に対して、身近な支援者としてでなく、経済的な支援など、多くが求められているがそれは重すぎるのではないか」と指摘します。

そして、「民間や個人の支援は、どれだけ頑張ったとしても限界がある。身元引受人という仕組みに頼るのではなく、衣食住や医療の確保、日本語教育や就労支援など、難民として日本で暮らせるための最低限の支援は国が保障すべきと考える」といいます。

そのうえで、「今回のウクライナからの避難民の受け入れを機に、日本社会の中で、難民のための支援や制度を整えていくということが必要だ」と話しています。