プーチン大統領演説 核軍縮条約を停止 核戦力誇示で米けん制

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を開始して以降初めて行った年次教書演説で、アメリカとの核軍縮条約の履行を一時的に停止すると一方的に主張しました。
また、ロシアの核戦力を誇示してウクライナへの軍事支援を強化するアメリカなどを強くけん制しました。

ロシアのプーチン大統領は21日、モスクワ中心部のクレムリン近くの建物で、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示す、年次教書演説を行いました。

去年はロシアがウクライナ侵攻を続ける中で延期されたため、侵攻開始以降、初めての演説となり、この中でプーチン大統領は「西側諸国がウクライナを使って戦争の準備をしていた。戦争を始めたのは彼らであり、われわれは軍事力を行使し、これを止めるということだ」と述べ、侵攻を続ける姿勢を強調しました。
また、プーチン大統領はロシアの核抑止力について「91%以上が最新の兵器だ」と述べ、核戦力をちらつかせて威嚇しました。

そのうえで、アメリカとの核軍縮条約「新START」について「条約への参加を停止していることを発表せざるを得なくなった。脱退はしない」と述べ、核軍縮条約の履行について一時的に停止すると一方的に主張しました。
さらに、アメリカが新たな核兵器の実験を検討していると主張したうえで「ロシア国防省は準備しなければならない。アメリカが実験を実施すれば、われわれも行う」と述べました。

今月24日でウクライナへの軍事侵攻から1年となるのを前に、プーチン大統領は核戦力を誇示して、ウクライナへの軍事支援を強化するアメリカなどを強くけん制した形です。

ウクライナの4州支配の既成事実化を主張

また、ロシアのプーチン大統領はロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部や南部の4つの州について「社会経済の発展に向け大規模なプログラムをすでに開始し、今後、発展させていく」と強調しました。

さらに、ロシアで子どもを持つ家庭に支払われる手当てについてプーチン大統領は「新しいロシアの領土に住む人々も対象となった」と一方的に主張し、ウクライナの4つの州に対するロシアの支配を既成事実化していく姿勢を改めて示しました。

死亡や負傷の兵士や家族を支援する基金を設立へ

一方、プーチン大統領は「私たちの義務は愛する人を失った家族を支援し、子どもたちを育てることだ」と述べ、ウクライナの侵攻に関わって死亡したりけがをしたりした兵士やその家族を支援するための新たな基金を設立する考えを示しました。

プーチン大統領としては、予備役の動員をめぐってロシア社会で大きな混乱が広がったことなどからロシア兵やその家族を支援する姿勢を強調し、国民の理解を得るねらいもあるとみられます。

米 ブリンケン国務長官「非常に残念で無責任」

プーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行を一時的に停止すると一方的に主張したことについて、アメリカのブリンケン国務長官は訪問先のギリシャで21日「非常に残念で、無責任だ」と述べて強く批判しました。

そのうえで「ロシアが実際にどう行動するか注意深く見ていく。われわれはどのようなことが起きてもアメリカや同盟国の安全保障のために適切な態勢をとっていく」と述べました。

被爆者「怒り悲しみ 落胆の気持ち大きい」

長崎の被爆者で日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の代表委員の田中重光さんはNHKの取材に応じ「アメリカとロシアの間で唯一残っていた核軍縮条約がこういう形になったのは非常に残念でしかたありません。二度と被爆者を作るなと、核兵器廃絶を求めて国内外で運動してきたが、まだ核兵器の被害がどんなものか分かっていないのではないかと腹立たしさや落胆の気持ちです。対立では平和は築けないと思うので、外交を通じて少しでも各国の間で信頼関係を作ってほしい」と述べました。

また、長崎で平和教育の確立に取り組んできた被爆者の山川剛さんは「核廃絶にとって非常に大きな障害だと思い、怒りの気持ちです。被爆地・広島出身の岸田総理大臣には世界全体が核軍縮に向かうよう、発言をしてほしいです」と話していました。